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霖極  作者: りら
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妖精戦記6

〜連撃〜

(畳み掛ける!)


 この機は逃せない。

 握った刃に、ジラの水属性を己の魂で触媒し、流し込み続ける。


「うぉおおお!」


 斬る、斬る、斬る!!!



ーー分からないことが、たくさんある。


 目にも止まらぬ疾さでジラの左刃を通常技に昇華してゆく最中、僅かに、しかしながら確かな輪郭を以って、思考する。


 キロンの魂源はもう絶たれているはず。なのに、どういう訳か夜の幕が開かない。

 魂の崩壊などとうに始まっているはずなのに。周りで渦めくキロンの魂気は霧散してゆかない。

 油汚れなどという比ではない。空間にこびり付き続けるキロンの魂気が、あまりにもしつこい。

 おかしい、おかしい。明らかに、おかしい。


 この量、この気質。そもそもこいつの魂源は何処か別なのか…。 


 兆しが生じれば、何が起こるか分からない。


 故にまずはーー


(肉体を細切れにする!!!)


 物理的な肉体の崩壊を目論(もくろ)み、キロンの勾玉を破壊せんと闘志を剥き出しにする。

 鬼神の如き剣幕で振るうリョウの左刃が、夜の闇に青と黄金(こがね)の無数の幾何学模様を刻んだ。


 その一振り一振りの太刀筋が、強靭な水の刃と成り、着実にキロンの肉体を削ぎ飛ばしていった。


 斬る、斬る、斬る。


 常人には、漠然と水の弾ける中、唯ひたすらに未知の硬い物体同士のぶつかり合うような煌びやかな音と、無数の火花とが微かに生じているとしか認知できない様な、極めて疾く、極めて単調な光景がそこには広がっていた。



(あと、もう少しーー!!)


 急所を目指し、唯ひたすらに斬り進む。

 己の肉体の限界などとうに超え、それ以外一切の五感が鈍くなってしまっている。

 だが、逃さない。


 時間にして数十秒にも満たない、しかしながら永遠を思わせるその戦局に、(つい)の転機が訪れる。


 キロンの強靭な胸部の奥底に、きらりとした反射を認めた。


(見えた!!)


 露出した勾玉を目がけ、最後の必殺に、力を振り絞る。


「いくぞ! ジラ!!」


「ウ゛ゥゥウ゛ゥワ゛ウゥゥゥゥゥゥゥゥルルルル!!!!」


 残った魂気を刀身に練り上げる。


 いくぞ必殺!!





ーー天地が、逆転していた。


(!!?)


 何、何が。何が起こっている。


 高速で回り続ける視界に、本当に何が起こっているのかが分からない。

 ジラの困惑さえ、ひしりと伝わってくる。


 視界の端に、後光の如く光り輝くキロンの姿を捉えた。


 随分と下の座標ーーくそっっ!!

 やっと自身の肉体が、宙に舞っていることを把握する。


 そのまま受け身など取れるはずもなく、錐揉みしながら勢いよく地面にぶつかってしまった。


「がはっっ!!」


 衝撃に、一瞬視界が白黒する。


ーー嫌な、予感がした。


 眼を見開き、何とか光に拠る情報を得ようとする。

 (かたわら)には、右の大顎を含む、頭部を半分程失ったジラが、横たわっていた。


「…!! ジラ……!!」


ーー変身が、解けてしまった。


「ぐ…ぅ……」


 激痛。

 身体中を、深部に由来する痛覚が容赦なく駆け巡る。


 がぼっ。


 嫌な音と共に、生暖かい赤を吹き出す。


「…が…ぁ…」


 身体中の力を総動員し、痛みを少しでも押さえ込もうと抗い、呻く。

 それでも這ってでも、と、懸命にジラに左の手を伸ばす。


 視線の先では、心身を分った相棒が、ピクリとも動かない。


「…………!!」


 がくん、と(もた)げかけた上体が崩れる。

 もうどんなに命令しても、身体は言うことを聞いてはくれなかった。


 リョウの五感は、既に魂の検知の叶わないものとなっていた。

 最早、自身の勾玉に、頼るしかなかった。

 彼のその判断の速さには、光るものがあったと言っていい。


 強く、それを握りしめる。


 やんわりと、傍にジラの光を感じる。

 ジラの魂が、まだすぐそこにあることを確認する。


 他の一切を押し除けて、心の底からの安堵が訪れる。


ーーそして瞬の安堵も束の間、押し寄せる嗚咽と共に、血の塊が口から飛び出していた。


「ごぼっ…!」


 それは、リョウの身体が最後に勢いを持って動いてくれた動作だった。


 喉の奥で鉄の泡が弾けるのを感じながら、力なく、その場で口から血を垂れ流し続ける。


 あぁ、


 だんだんと、視野が狭くなってゆく。


 ジラ、だけでも、


 その一心を。

 その一心だけを込めて、もう一度。


 全てを振り絞り、己の勾玉を握りしめた。


 黒が視界を侵食し、薄れゆく微かな思考と現実との狭間の中で、残された己の魂気の全てをジラに流し込みーー


 リョウは最後に、意識を手放した。



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