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霖極  作者: りら
3/5

妖精戦記4

〜純白の記憶〜

 いくぜ相棒!!


「ウ゛ゥゥウ゛ゥワ゛ウゥゥゥゥゥゥゥゥルルルル!!!!!!」



 悪鬼を打ち滅ぼさんと、極限に圧縮された超必殺が放たれた。


「エクセキューショ・シエラ!!!!!」


 放たれた流線が、幾筋もの青と黄金(こがね)を纏って美しい放物線を描き、無数の花弁達を無慈悲に天に巻き上げる。




ーー斬った!


 確かな手応えと共に、超必殺の衝撃にキロンがよろける。その背後には、斬り飛ばされた左前肢が宙を舞うのが見えた。

 嵐の如く乱れ舞っていた花弁の勢いに、(かげ)りが見える。


 (畳み掛ける!)


 この機は逃せない。

 握った刃に、ジラの水属性を己の魂で触媒し、流し込み続ける。


「うぉおおお!」


 鬼神の如き剣幕で振るうリョウの左刃が、夜の闇に青と黄金(こがね)の無数の幾何学模様を刻んだ。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 どうやら、この世界の天より高く、そのさらに向こうの高みには、数えきれない程たくさんの数の星々が、煌めいているらしい。

 そして、失われた魂は天に昇り、その後、星々の一員として加わるそうなのだ。


「(何を馬鹿言ってやがるんだ。)」


 オォワ、とキロンが鼻で笑う。


「(嘘に決まってんだろ、そんなの。生き物ってのはな、死んだらそれまでだぜ。お前まさかさ、それ本気で信じてんのか?)」


「嘘じゃないし! 本当だって!」


 星の話を熱弁していた妖精の少女が、顔を(あから)めて反論する。


「だってテンマ様がそう言ってたのよ。それを素直に信じられないなんてさ、キロンが馬鹿なのよね。」


 フン、と、小柄で可憐な、その純白の妖精は腕組みしながら息巻いた。


「(なんだと?)」


 オ゛ォア、とキロンが反発する。

 不釣り合いな程に体格差のある二人は、額同士をぶつけていがみ合っていた。


「(ハン、まぁいいさ。それでなんだ、もしそうだったとしてよ。()()()たくさん星があったら。それが一体何だってんだよ。)」


 不意にキロンが額を離したせいで、少女は前につんのめった。

 すぼっと顔から地面に滑り込む。

 続いてぐぬぬ、、と顔を上げた少女は、可愛らしい顔に幾らかの土をこさえ付けたまま、頬を赧めキロンを睨みつけた。


 おいおい、どんな顔になっても桜色の瞳が最高に美しいぜ、とそんな少女にキロンは思う。


 あほ、と悪態をつきながら土を払い、少女は立ち上がった。


「キロンなんかに言ってやんない。」


 ふんす、とそっぽを向き、少女は拗ねてしまった。

 あー、こりゃあ面倒くせぇやつだな、と素早く察知したキロンは、なるべく早めに下手に出ておく。


「(あぁ、悪かったよ、ユキ。悪かったって。な? 今度オウチョウの花場に連れてってやっからさ。)」


 オーアオーア、と何とも情けない声で、機嫌直せよ、とキロンは少女に語りかける。少し、意地悪が過ぎたか。


「ふんっ。」


 やはりいつもよりも強くへそを曲げてしまったか? と少し心配になりつつ、ぷりぷりと怒るユキに対し、しょうがねぇなぁとキロンは付け加える。


「(分かった、オウチョウのソフトクリームも付けてやるからさ。な? あー、あれだ、桜のやつ。そんでもってよ、あー、もう、何とかジェットもやってやるからよ!)」


 本当はユキの好みなど熟知しているにも関わらず、少し思い出す様なフリをしながらキロンは付け加える。

 ちなみに何とかジェットとは、正式名称をキロンジェットと云い、ユキを背に乗せながらジェットコースター様に飛び回る、彼女お墨付きのキロンアトラクションの一つ。…らしい。


「ほんと!?」


 ぱぁっと瞬時にユキの表情が明るくなる。 ーーちょろいぜ。

 やったやったと彼女ははしゃぎながら、不意にキロンにこう付け加えた。


「キロン!!」


 突然のユキからのご指名に、あぁん? とキロンが口を開きかけた、その瞬間。


「大好き!」


 満面の笑みでキロンにぎゅっと抱きつき、ユキはそう言った。

 あまりにも強烈な不意打ち。その抱きつき攻撃に、思わずキロンの心臓は飛ぶほどに跳ね上がる。


「(な、ななななんだよおい! おい! やめろって!! おい!!)」


 とんでもない慌て方で、手脚をばたつかせてしまう。

 そんな彼女に心底惚れ込んでいるキロンは、跳ね上がった心臓の鼓動など悟られまいと、神業の如き疾さで彼女を引き剥がし、思わず赧くなってしまった顔を隠すために、腰に手を当て背を向けた。


「(あー、ゴホン。俺に二言はねぇぜ。チクショウ。)」


「やったー!!」


 この世の何より、最も愛しく可愛らしい少女が、バンザイだの何だの忙しない動きでぴょんぴょんと跳ね回る様子を後ろ目に見ながら、キロンは幸せを噛み締め、安堵した。

 どういう訳か、ひどく安堵した。


「(そしたら今度の日曜に、な。)」


「うん!!」


ーー今度は何に化けて行こうか。とそんな妄想を、ぽわりとキロンは思考の隅に侍らせる。

 そして、すっかり彼女の機嫌を取り戻したのを確認したところで、キロンは話の続きにと、話題を戻す。


「(それでよ、星がたくさんあるかもしれない、だったよな?)」


「あるの!」


 危ない危ない。ユキに怒られ、悪いとキロンは話の続きを促した。


「えっとね。」


 そう言いながら、ユキは桜を模った髪飾りをその滑らかな銀髪からするりと外し、大切そうに握りしめた。




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