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霖極  作者: りら
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妖精戦記2

〜舞い降りる嵐〜

ーー視界が、狭い。


 ハッと、目を見開く。


ーー時間の経過を把握していない。

 追撃は! 立て!


「ハァッ! ハァッ!」


 手放していた意識を取り戻し、我に返って肩で息をする。


 ジラの機転がなければ、確実に死んでいた。

 足元に広がった雪の紋様を思い出し、身体の芯から強張る。


 ふと、半身の不自然な軽さに、右腕の喪失が見えた。


「ーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」


 かろうじて刃を握ったままの左手で肩を抑え、悶絶しつつもキロンの気配に意識を割く。


 ーー直ぐには追ってきてはいない、様だ。あの衝撃、奴も相応に吹き飛び、ダメージを負ったか。

 ボタボタと流れ出る血と共に、魂の漏出を感じる。口の中一杯に鉄の味が広がっているのを感じる。


ーー大丈夫。まだやれる。


 ガクガクと震える両の脚を短く叱咤し、刃を払って呼吸を整える。


ーー大丈夫だ。前を、向け。


 息を整えながら、吹っ飛ばされてきた軌跡に視線をやる。

 己の背によって薙ぎ倒された木々が、痛々しくその断片を覗かせている。抉られた森の、その先が見えない。

 随分と長い距離、吹き飛ばされてきた様だ。

 周囲には木々の隙間から陽光が差しており、キロンの周囲を形成していた夜の範囲からはどうやら抜けているらしい。


 ずるりと、一撃目のあった更地に向って、一歩、脚を前に出す。


「あ、ありがとう、ジラ。そしてすーー」


ーーそんなことより気を整えろ、リョウ。そのまま意識を手放すな。


 こちらがすまんと言い終わるより速く、ジラに短く思考される。

 右の半身を確認する。右腕と共に、ジラの右の大アゴを失った。クワガタが己の命より重んじる自身の象徴。それを失くした。


「あぁ。」


 切り替える。右の刃よりややリーチの長い、左の刃が残ったのが不幸中の幸いか。

 自身の魂の流れに意識をやり、血と魂の漏出に栓をする。

 ズグリ、という深い痛みと共に、だだ漏れていた傷に応急的な処置がされる。


「(ーーしかし、どうする。)」


 ゴーワ、とジラが呟いた。


「(あり得ない事態だ。理屈は解らないが、正面からとはいえ万全の超必殺(エクセキューショ・シエラ)を防がれた。そして何よりーー)」


「あぁ、見たことないよな、あんなの、。そして、、強い、。」


 息を整えながら、リョウは己の中のバディに応える。

 いや、”外”と言う方が正しいかーー


 エクセキューショ・シエラは、間違いなく、正確にキロンの首を捉えていたーーにも関わらず、刃は通らなかった。

 「超必殺」の、命中。にも関わらず、それを防がれるという起こり得ない事態。


 加えて、奴の魂気の不気味さが、これと無関係であるとはとても思えない。まるで、自分たちの知っている法則とは全く別の法則の上に在る様なーー


「(一度身を隠すぞ。)」


「な!」


 ジラから出たとは考えられない、弱気な発言に驚く。


「(あのままならば、おそらく奴は放置していても死ぬ。)」


 ゴーワ、とジラは続けた。

 確かにあの様子ならば、普通に考えてまもなく死ぬだろう。でもーー


「可能性は高いけど、それはまだ分からなーー」


「(それに俺たちは、まだ死んじゃいけない。緑を取り戻すために、まだやらなくちゃならないことがたくさんある。リョウも分かってるだろ。成すべきは奴の死を確実にこの眼で認めることであって、直接手を下すことではない。)」


ーーそれは、そうだ。 …だけど!!


「(伝わってるよ。俺もだ。皆には報いたい。が、だからこそ、皆が繋いできたことを考えろ。万全を取るべきだ。)」


 先を見据えたジラの判断と思考とに、返す言葉も無い。それが正しい、と頭ではとうに理解できていた。

 感情を優先すべきでは無い。そう、間違いなど許されない。ジラの言葉を咀嚼し、飲み込む。


 理解(わか)った。

 そう返そうとした矢先だった。



  不意に、夜に呑まれた。

  認識すると同時に、桜の花弁を視界の端に捉えた、ような気がした。



  ギィィィィン!! と、受けた刃が轟音を上げる。



  瞬間に、足元の地面が四畳半ほど陥没する。


 リョウがその頭で考えるより速く、身体は刃で衝撃をなぞり、身を翻し飛び退いていた。



「ハァッ!! ハアッ!!」



 あまりにも突然で、あまりにも重い一撃に、再び呼吸が乱れる。


 見れば一面に、桜吹雪が嵐の如く舞い狂っている。


 じわり、と魂が滲むのを感じた。


ーー大丈夫。俺たちなら、やれる。


 視線を前に、真っ直ぐ据える。


 その先。

 嵐の中心に、3本角の、悪魔の姿が在った。


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