だいたい強いキャラは可愛い
自分の体が嫌いだった。
この大きな体が嫌いだった。
いつも暗い暗い海の底で、空を飛ぶ鳥を見ていた。
海を、地を移動する人間が妬ましかった。
好きな物を沢山食べる人間が羨ましかった。
いつも暗い暗い海の底で、ただそれを見ているだけだった。
神はなぜ私の体をこんなにも大きく創ったのか。
なぜこのような暗く、冷たく、寂しい所に、私を閉じ込めたのか。
どうせなら、私は··········弱く、儚く、短い時の中で必死に生きる、人間に産まれたかった。
▼▲▲△△▽
「お前の新しい縁談相手だ」
「今度はまともなやつなんだよな?」
「とーぜんだ!王として我のみを守った人間に、最高の褒美として、お前に最高の嫁を用意した!」
新しい縁談相手をみつけたと聞いたので、俺は二十八号や師匠と愚王と一緒に再び王宮に来ている。
とりあえず写真見せろや写真。
「うっわ、すっげぇ美少女」
俺は愚王から写真と縁談相手の情報の書かれた本をもらう。
相変わらず分厚いな。
■名前:リヴァイアサン
■種族:溟渤種
■身長:166cm
■年齢:───
■説明書:【穴】はキツキツです
「穴なら私の方がキツキツに決まってるだろ」
違う、そこじゃない。
「おい愚王、リヴァイアサンてあの大いなる海の母獣か?」
「YES!」
「死ね」
とりあえず説明書を愚王の顔面にぶん投げた。
「てめぇ愚王に何やってんだ!!」
「うるせぇ老害!おい愚王!誰がッ!いつッ!海の怪物を所望したよボケッッ!!」
「師匠に向かって老害とはいい度胸だなゴラァ!!」
「おいやめろ!てめぇらがここで暴れた城が無くなるだろーが!俺が始末書書くんだから!そこんとこわかってんのかこのバカ師弟が!!」
俺と師匠はサラハットのゲンコツで意識が飛びかけ、1度落ち着く。
とりあえず顔はよしなんだが、それ以外が全てダメだった。
リヴァイアサンと言えば海の源とも言われてるヤバい化け物。
神が創りし自然の一つ、それが【海】
全ての海に生きる者達の母であり、最強の生物とも呼ばれ、かつて深淵から産まれ、深淵の神と呼ばれ、旧世界の支配者とも呼ばれた旧支配者を殺した正真正銘紛うことなき化け物。
俺も一度だけリヴァイアサンの一部分を見たことはあるが、あれは生物だとか、生きてるとか、そう言う次元の話じゃない。
その場にいるだけで、戦争してた魔王軍も人間の軍も、手を取り合ってその場から必死で逃げるほどの嫌悪感と恐怖をその身に刻み込ませた。
見てはいけない、触れてはいけない、知ってはいけない、関わってはいけない、怒らしてはならない。
あれはそういうものだ。
アレを怒らせれば、待っているのは災害や天変地異だとか、そんな生易しいものでは無い。
滅亡そのものだ。
「俺は結婚したいとは言ったが生贄になりたいと言った覚えはねぇぞ」
「そう言うな。お前と縁談がしたいと言ってきたのはリヴァイアサンだ」
「んなわけあるか!あんな神みたいな存在がなんでこんな落ちに落ちた騎士と結婚したがるんだよ!?こう言うラスボス的存在は勇者に惚れるのが定番だろうがよォ!!てかなんだこの写真!?整形とかそういうレベルじゃねぇぞ!?身長もおかしいだろこれ!?」
おかしな所をあげればキリがないほどおかしいところだらけだ。
リヴァイアサンの体の大きさは大きすぎてとてもリヴァイアサンの体全てを見るのは不可能だ。
見れるとしても一部しか見ることが出来ない。
俺も初めて見た時はリヴァイアサンの"歯"だった。
海の辺り一面がたった歯一本だけだと言うのに、その歯一本しか見えなかった。
そんなやつの全長など、想像するだけ無駄という話だ。
そんな巨大な化け物が166cmなわけが無い。
単位がcmじゃなくてkmだろ。
だいち写真はパッと見人間じゃねぇか。
写真に写る女性は端的に言えば白い。
肌も、髪も、まつ毛すら白い。
だからだろうか、唯一紅く輝く瞳が目立つ。
まるで人形のような女性だ。
はっきりいって文句なしの美少女だ。
こんな美少女と結婚できるなら俺は即OKを出すが、相手は神だ。
神が創りし、神の力を持ち、神の命を分け与えられた存在。
それはもう神なのだ。
そんな存在と縁談とか俺に死ねって言ってるのと同義だ。
「あ、それと縁談の時間は今日の17時だ」
「今何時だ?」
「16時30分だ!」
「死ねクソボケ愚王がア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
俺は縁談場所を確認すると二十八号を担いで速攻で城を出た。
「········あいつももう結婚するのかぁ」
「多分結婚するのはもう少し先になると思うぞ」
▼▲▼▲▽△▽△
最強にして海の源。
それがリヴァイアサン。
海を旅し、海を愛するもの達が、唯一恐れる存在。
海賊も、漁師も、海の旅人も、海の民も、皆リヴァイアサンを恐れる。
だがそれと同時に、海に生きる者も、海を愛する者も、皆リヴァイアサンを崇めている。
ある者は母として、ある者は神として、ある者は恩人として、人々はリヴァイアサンを崇める。
〜漁師の宴〜
「この料理、美味しい。こはなんて言う料理なの?」
「これはサーモンのタルタルカツサンドですね。パンに塗られたタルタルには海老やカニクリームなどが塗られ、サーモンカツと相性抜群!他にも様々な料理がありますので、ぜひ堪能して言ってください」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえいえ」
「··········あなた達も、ありがとう」
このレストランでは、様々な海鮮料理が存在し、女性はその海鮮料理を美味しく味わっていた。
だが、その女性からは、食事に対する愛情のような、まるで母性のようなものが一瞬感じられる。
まるで我が子が帰ってきた、そのような愛を、一瞬感じさせるような笑みを浮かべながら、女性はお腹を摩った。
そしてぺろりとサンドイッチを食べ終えると、今度は別の注文をした。
「あ、次はこの"五海魚の漁場シチュー"が食べたいわ」
「かしこまりました!」
「ドワッショオォイィィ!!」
「あー困ります!困りますお客様!今日は貸切でして───」
「うっさいわい!こっちとら死ぬか縁談するか迫られとんじゃい!」
「意味がわかりません!!第一なぜ縁談に子供を連れてきてるんですか!?」
「イェーイェー」
突然の騒ぎに驚く女性。
入口には警備員に体を掴まれている男がこちらに歩いてくる。
何故か腰には少女がピースしている。
どうやら待ち人が来たようだ。
女性は男を見つめた。
「その方は私の恋人と子供です。通してください」
「そ、そうだったのですか。それは失礼しました··········」
そう言って警備員は出ていく。
男は「やっと離れたか」と言って女性の反対側の椅子に座る。
「それで、あんたがリヴァイアサン?」
「そう言うあなたがヴァルバラですか?·············横に居るのは?」
「未来の嫁だ」
「ちげーだろ。惚れたら嫁にする同棲中の女です」
「?」
リヴァイアサンはヴァルバラが何を言っているのか理解出来ず、顔を傾げる。
それは付き合っているのでは?と口にしそうだったが、それを口に出す前に喉に飲み込む。
「お待たせしました。五海魚の海魚シチューと溶岩サーモンカツのタルタル南蛮サンドイッチのお代わりです」
「あぁ、ありがとうございます。··········それではホムラさん、縁談を始めましょう」
「あの、その前にひとついいっすか?」
「なんですか?」
「何故修道服を?」
「ふふ、似合っているでしょ?」
神と呼ばれた者が、神に仕える服を着ているなど、なんともおかしなものだな、と心の中で呟いた