第三話『おっぱいのない美少女はロリ枠』
街の外れにある小さな家の裏庭で男と少女が立っていた。
一人は長身の腕を組んだ黒い重騎士、片方は銀髪の少女が少し大きめなパジャマを着て後ろで手を組んでいた。
「はい復唱ッ!!!」
「勇者は顔がいいだけのヤリ〇ンッ!!」
「勇者が興味あるのは!?」
「身体ァ!」
「勇者の本体は!?」
「下半身!」
「勇者は!?」
「死すべし慈悲はなぁしッ!!」
「テメェら朝からうっせぇぞ!!」
「シャオラァッッ!!!」
「シャオラァッッ!!!」
「よし、朝飯食うか」
「私はガソリンで」
これが俺の日常だ。
勇者がくそだということを朝日が登った太陽に大声で伝えた後、俺の唯一の同居人である地縛霊お姉さんに怒られて、それを喜ぶ。
相変わらずいい日常だぜ。
「お前ガソリンジョッキで飲むのな」
「こっちの方が一気に飲めるからな」
ジョッキに純度100パーセントガソリンと呼ばれるガソリンをジョッキにどぽどぽと注いで、それを一気に飲み干す。
俺はその隣で目玉焼きとベーコンを鎧の隙間から押し込んで食べる。
そもそもこいつ自称超絶美少女完璧デウス・エクスマキナ様とか言いながら燃料が必要とかとんだ旧式じゃねぇか。
食事が必要なエクスマキナとか聞いたことねぇよ。
エクスマキナつったら勝手に空気中の魔力やら太陽の光やらが生命エネルギーに変換される、いわばパーツが壊れなければほぼ永遠に近い寿命の種族だろ。
それなのに燃料が必要とかもうその時点でほかのエクスマキナより劣ってんじゃん。
「お前、超絶美少女完璧デウス・エクスマキナ様のくせして燃料が必要なのかよ」
「ん?別にガソリンが燃料という訳でもないし、私に燃料とかそう言う概念はないぞ?」
「··········じゃぁなんでガソリン?」
「やっぱ機械って言ったら自爆とガソリンだろ」
「家で自爆すんじゃねぇぞ」
「わかってるっよ」
そんな他愛もない話をしながら食事を済ませると、俺と二十八号はそのまま街に向かった。
今日はこの後街でデートなのだ。
なんでもこの一年で徹底的に惚れさせてやると意気込んで、今回のデートで自分の魅力(笑)を余すことなく見せつけて、メロメロ(笑)にしてやるとか何とか。
まぁその絶壁の要塞の壁みたいな胸でどうやって俺の事を魅了すんのか楽しみにしておくか。
「今日は私の魅力をお前に見せつけてやるからな、覚悟しろよ」
「おうおう、楽しみにしてるよ」
二十八号は何か悪巧みでも考えているようなあくどい笑みでニシシと笑いながらこちらを見ている。
はてさて、俺に一体どんな魅力(笑)を見せつけてくれるのやら、楽しみすねぇ。
▼▲▲▼△▽▽△
「すてっぷI、男は腕におっぱいを押し付けりるのが好き」
「おいなんだその本」
「『好きな男と既成事実を作るためのすてっぷ100』だが」
「そんな本捨てちまえ」
二十八号がどこからともなく出したよく分からない本。
正直そんな本誰が買うねんて思ったが、確かこの前本屋で売り切れになっていた本だこれ。
この国ってそんなに少子化問題やばかったっけ?
最近は肉食系女子とか漢乙ばっかだからなぁ。
「うるせぇな。そんなこと言っておっぱい腕に押し付けられてぇんだろ?」
「····················むね?」
「オウゴラやんのか?」
俺は二十八号の胸があろう部分をくまなく探してみるが、それといった胸が見つからない。
あるのはウォールマ〇アくらいだ。
こんなの押し付けられたら腕が粉砕骨折するんじゃねぇかって思うくらい見当たらねぇな。
「ほらここ!ここにあんだろ!」
ふにゅっん
「···············何してんの?」
「胸揉ませてんだろ。それとも喘ぎ声聞きてぇか?あっ♥やめっ♥ん、んんッ♥人前なのにっ♥胸揉まれて私っ♥い、イッちゃっ───「ちょっといいかな」なんだ?」
一応言っときますけどここ街中です。
そこで小さな幼女の胸をもんで、その幼女が顔を火照らせながら抵抗する素振りを見せながら喘ぎ散らす姿。
もんでるのは180cmの長身の男で、しかも全身重装備の男。
どう考えてもやばいでしょ。
後ろで警備の騎士二人が俺に向かって大斧向けてきてるんだけど。
殺す気満々なんだけど。
二十八号の返答次第では即首ぶっ飛ばす準備にかかってるよ。
「君たちはどういう関係なのかな?」
騎士は殺意MAXの営業スマイルで二十八号ではなく俺を見ている。
殺す眼だ。
俺はあれを知っている。
どこに逃げようとも、どんなに遠くに逃げて、身を潜めようとも、確実に殺してやるという確固たる意志を持った殺意ある眼だ。
「私はこいつの嫁だ」
「容疑者は幼児ポルノの疑いあり」
「待って待って」
「それでお嬢ちゃん歳いくつかな?」
「あ、無視?」
「黙ってろ、街を汚す害虫が」
「うぃっす」
怖っ。
「0歳だ」
「よーし連行しろ。こいつに生まれてきたことを後悔させてやれ」
「任せてくださいよ先輩」
「待ってくれ、誤解なんだ」
俺は必死で弁解しようと騎士二人を止める。
二人は責めてもの慈悲なのか、斧を振り回しながら、「遺言なら早く言え」と、殺意MAXだ。
ふむ、このふたりは勘違いしているようだが、俺が好きなのは童貞を捨てさせてくれる美少女であって、こんな生意気美少女アンドロイドでは無い。
そもそもアンドロイドだから二十八号との性行為は要は自慰行為。
テンガ使っても童貞捨てたことにならないように、二十八号と性行為しても意味が無い。
つまり、俺はこいつに興味無いのだと、はっきり言えば良い訳だ。
「俺はただ童貞を捨てたいだけなんだ!!」
「騎士の面汚しが」
「あれぇ?」
次の瞬間、騎士二人は俺に向かって大斧をぶん投げてきた。
わけがわからないよ。
俺は即斧ふたつを弾いて、二十八号を肩に担いで、全力で逃げた。
後ろから騎士二人は時速50キロはありそうなスピードで走っておってくる。
正直めちゃくちゃ怖い。
俺の目的は童貞を捨てること。
つまり童貞を捨てられないこいつに興味はない。
あんだすたーん?
なのに何故こいつらはブチ切れてんだ?
俺が分かりやすく説明したってのに。
あ、まさかこいつら、とんでもない勘違いをしてるのでは!?
「こいつはオナホなんだよぉ!!」
「「社会のゴミがァァァァッッ!!」」
騎士二人がさらにブチギレた。
そして二人はさらに速度を上げて俺の方に向かってくる。
俺も全速力で逃げてるのだが、全く逃げ切れる気がしない。
俺は走っているうちに、裏路地に入る小道をみつけ、入り組んだ裏路地で何とか騎士二人をまくことが出来た。
本当になんであんなに怒っていたのか、俺には理解ができない。
二十八号は生命体じゃないからそもそも生殖機能がない。
つまりこいつに『穴』があるとしてもそれはテンガであって、女性の生殖器ではないわけで、俺がこいつとセックスしても、それはTENGAで俺の性欲を慰めるだけの、自慰行為でしかないわけだ。
つまり俺がロリコンだとか言われはない。
「どうすんだよこの後」
「すてっぷIIによると、服屋に入ってワンピース姿などを見せると良い。て書かれてるな」
「分かりましたよ。服屋に行けばいいんだな」
「おう、そうだな」
こいつはなんでこんな他人事みたいなのやら。
誰のせいで俺がおわれてるのかわかっとんのか?
あー、今からでもいいから他の縁談相手をあの愚王に所望しようかなぁ。
でも仮にほかの縁談相手がいたとして、こいつより可愛い奴がいるとは思えねぇ。
そうなったら俺は後悔する。
見た目"だけ"は最高に言いこんな美少女が嫁に来てくれると言って、性格や種族には大変難アリだが、正直それをカバーできるくらい美少女だ。
もしもこのまま俺に相手がいなかったら···············最終手段だが、こいつと結婚しよう。
もうこの際誰がいいとか贅沢言ってられん。
やだよ俺、一生独り身で死ぬとか。
「はぁ、このまま他に結婚相手がいなかったら、お前で我慢してやるよ。超絶美少女完璧デウス・エクスマキナ様」
「··········へぇ、私以上の美少女と結婚できると思ってんのか、大国最凶の黒騎士様」
惚れたら負けってやつか。
二十八号は心底面白そうに口角を釣りあげて、笑う。
きっと俺をどうやって惚れさせてやろうか、その高性能なAI機能で考えてんだろうな。
それともお前の自我か、この際どっちでもいい。
この黒騎士様がたかだか高性能ってだけのエリートアンドロイドに、惚れる安くねぇって教えてやらぁ。
俺たちは裏路地を出ると、街では人だかりができていて、その中心に、とある青年がたっていた。
背中には聖の加護を受け、神が宿ると言われる国宝級の大剣と、その装備は白く輝き、どんな魔の攻撃も弾くと言われる鎧。
曰く、その者は神に選ばれた人の子であり、この世界の秩序を守る者。
女神に選ばれ、女神に愛され、女神の加護を受け取ったもの。
勇者だった。
元俺の後輩である。
───ガシャァンッ!
「せ、先輩。なんであんた、その子と一緒にいるんですか?」
俺は素通りしようとしたが、長身で、しかも真っ黒な重装備だ、どうしても目立つ。
そんな勇者が俺を見て駆け寄った直後、持っていた大剣を地面に落とし、震えた手で俺が担いでいる二十八号を指さす。
二十八号は何かを思い出したかのように、「あ」と呟いた。
「その子は、僕の婚約者だ!」
「すみません人違いです勘弁してください。なんですかこの人、キモッ。ぼくぼく詐欺かよおい、やめてくれマジでキモいから」
勇者のありえない発言と、ものすごい早口で、顔を逸らしながら、二十八号は勇者に罵倒を浴びせた。
あ、勇者の後ろにいるパーティ一行がめっちゃこっち見てる。
なんならさっきまで勇者に小汚いハエが家畜のクソに集るみたいにたかってた民衆もみんなこっちみてるよ。
「まぁ落ち着け後輩」
「黙れ脳筋カス野郎が!僕の婚約者をよくも誘拐したな!」
「あ?」
「覚悟しろ!僕はお前を絶対にゆる───ごぺぎゃっ」
とりあえず勇者にラリアットくらわせた。。
まぁ先輩に向かってあんな口の聞く後輩なんぞこうなって当然である。
あ、賢者の子が唖然としてる。
てかなにあの勇者一行、めちゃくちゃ美少女揃いなんですけど。
「おい貴様!何をやっている!?」
「躾のなっていない後輩への制裁だが?」
何故か、本当に何故か分からないが、突然鎧を着た勇者たちを護衛する騎士団の副団長である女騎士が俺を問いつめてきた。
わけがわからないよ
「いや、いやいやいや!いまのはどう見ても殺す気だったろ!?」
「勇者なんて死んで当然だろ」
「こいつにさーんせー」
「な、てか貴方は元勇者パーティーのクロユリ様!?」
え、クロユリって言ったら射突型鉄骨杭超電磁砲で蛇王ぶっ殺したっていうあのクロユリ?
てか今はそんなことどうでもいいんだ、こいつは腐ってもゴミでもクソでも勇者だからな。
捕まっちまったら即極刑、下手すらこの場で即斬首刑にされる可能性がある。
だが俺は死にたくないし、そもそも勇者殴ったくらいでそんな極刑にされるほどの罪を問われる筋合いもない。
こういう場合は素直に
「なぁ二十八号」
「なんだ、逃げるか?」
「当たり前だろ」
「逃走経路は私に任せろ」
「なんだ有能だな」
「私を誰だと思ってる」
「超絶美少女完璧デウス・エクスマキナ様、だろ?」
「わかってんな」
俺たちはあくどい笑みを浮かべながら、逃げる体制に入る。
逃げることは悪いことではなく、勝つためのひとつの戦術である。
三十六計逃げるに如かず、って昔どっかの誰かが言ってたしな。
「サラバっ!」
「待て!貴様逃げるき───て速!?」
俺はとりあえず全力で走って逃げた。
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