ストレス
その騎士は無力だった。
勇者の様な神の加護もなく、英雄の様な産まれ持った才もなかった。
故に騎士は禁忌を喰らい、その身に宿した。
それが禁じ手だったとしても、たとえ誰からも愛されなくなるとしても、騎士はただ、国と民を愛した。
それが例え、自分の愛した者達から嘲り、罵倒されることになろうとも。
騎士は国と民を愛した。
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「サラハット」
「どうした」
「お前合コン組んでくれるって言ったよな?」
「あぁ、言ったな」
「女はどこだ」
「居るだろ、お前の左右に」
俺はサラハットに言われ左右を見る。
「レギュラージョッキでおかわり」
「あ、私はこの『黒兜』のおかわりで」
「·························」
そこにはレギュラーをジョッキで飲み続け、超獰猛生物として知られる黒く3mはある怪牛、黒兜を丸々一頭が生きたまま檻に入れられて連れてこられ、リヴァイアサンが檻の中にはいると、そのまま黒兜の角を掴み、黒兜の頭部をもぎ取ると、そのまま食べ始めた。
「誰も普通の女の子と合コンするなんて言ってねぇぞ」
「すみません、この激辛火炎アップルパイください」
火炎アップル。
北東の極寒の地で取れる果物。炎の様な熱を帯びる珍しい特徴を持つ果物だが、その熱は寒い極寒の土地でも種を凍らせないために身の部分に大量の激物が含まれており、常人が食べるとあまりの刺激と辛さに舌が爛れる。
その舌が爛れた痕が火傷の様な後だったことから、火炎アップルと命名された。
『ブロッコリー以外は食べられる草だと思ってる人でも分かる植物百科事典』より。
俺は鼻がもげそうなほどの刺激臭がするパイが来ると、俺はそれを皿ごと手で受け取り、サラハットの顔面にぶん投げた。
「ぎゃああああッ!目と舌があああッ!焼けるっ!焼けるうううぅぅぅッ!!」
「俺の奢りだ、味わって食え」
俺はサラハットの顔面を殴らなかった自分に、「よく耐えたな」と自分を褒めてやった。
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「私とデートしませんか?」
突然、酒を飲んでいた俺にリヴァイアサンが提案してきた。
「····················嫌です」
「あら、どうして?」
「デートとか言って俺の事食べる気だろ」
「ふふ、そんなに食べられたいの?」
そう言ってリヴァイアサンの口がガパリと開く。
口の中から露になる鋭い無数の牙は、今にも俺の喉笛を噛みちぎらんとしているようにも見え、先程まで温厚だったリヴァイアサンの雰囲気は一変し紅い瞳が一瞬更に紅く煌めいたように見えた。
一瞬、1秒にも満たない一瞬の殺気が、俺の身体を縛り付けた。
「い、行きましょう···············デート」
俺はもう既に海の怪物の腹の中なのかもしれない。
「···············あいつ喰われるんじゃね?」
「大丈夫だろ」
「おい、仮にも未来を誓い合った仲ならもう少し心配してやったらどうだ?」
「その時はその時だ。それよりも───」
すると二十八号はレギュラーのジョッキを飲み干し、サラハットを指さした。
「私が警戒してるのはお前だ。お前こそが我が恋敵にして最大のライバル。ヴァルバラは渡さんからな」
「俺は男だ、このオンボロイドッ!」
そう言って二十八号に酒の入った瓶をぶん投げた。
火炎アップル「なんのために激物作ったと思ってんねん。食いもんちゃうぞワレェ」




