第一話『アンドロイドの嫁はテ〇ガ』
「可愛い嫁が欲しい」
おッス!オラ【恐怖の黒騎士】!二十五歳!嫁絶賛募集中だよ!
そんなことを空高くに向かって心の中で叫ぶ黒い重装備で、巨大な大剣と大盾を背にし、身長180cmを優に超える男。
その剛腕は竜の首を素手で引きちぎり、その大剣をただ振り回すだけで敵の大軍を一人残らず皆殺しにする威力。
戦や化け物退治で敵の返り血で体を赤黒く染めながら、頭部の鎧の隙間から見える紅い瞳を覗かせるその様は、まさに恐怖の象徴。
彼の歩く道は常に血の水溜まりができ、主食は敵の頭と生き血。
勝利の暁には敵の頭蓋で盃を交わすというまさに恐怖。
どの伝説や噂をとっても恐怖でしかないその偉業。
味方からも敵からも彼はこう呼ばれる、【恐怖の黒騎士】。
と世間ではそんなふうに云われているが、蓋を開けてみると、二十五歳の結婚したい年頃の独身おっさんである。
物心ついたガキの頃から騎士に憧れて、騎士になりたくてド田舎の村から都会の、しかも世界で三本の指に入るほどの大国の王子様が住まう街にまで引っ越した。
そして昔から鍛えていたからガタイも良く、身長も生まれつきでかかったから、街にいた騎士、後の俺の師匠であり、この大国の王子の近衛隊騎士団隊長に推薦され、試験にも難なく合格出来た。
そして師匠の元で三年間修行し続け、やっとの思いで免許皆伝を貰い、実力も国に認められ、突撃隊の隊長にまでなった。
その後はひたすら重装備で、敵に向かって突っ走り、大剣振り回してキャンプファイヤーしながら、腹が減ると近くのドラゴンを食ってたらなんか近衛隊の副隊長にまで昇進してた。
別に俺はそれでよかったし、今でも戦場で国を守るという大義を掲げ戦い続け、たまに国に襲い来るドラゴンを倒し、国を守るといういかにも騎士らしい騎士をしている自分が好きだった。
最近、騎士を辞めたくなった。
原因は、俺の元に届いた一通の手紙がだった。
なんでも俺の故郷の親友が結婚するらしく、是非ともお前に出席して欲しいという事だった。
俺は最大国の平和の為とかで、最前線で敵の首を狩りまくってたせいで時間の感覚が完全にバグってて、そんときは「もうそんなに時間が経つのかぁ」という思いにひたってた。
俺の故郷で一緒にエロ本見つけて大興奮してた親友は、とても幸せそうな顔で、隣に花嫁姿で立つ美人妻と式を上げ、大勢の村人から祝福されていた。
しかし、そこでとある疑問が浮かんだ。
俺はこのままで本当にいいのだろうか?
夢のために人生を捧げ騎士となり、何万という敵に一人で突撃し、敵を全て生首にして国に帰り、国王様から多額の報酬や給料、ボーナスや手当などで金には何不自由なく生活してきた。
しかし、誰も俺の事を称えたり、国を守った英雄に対して、一度も俺はありがとうと感謝されたことがなかった。
それどころか、自分の隊や、近衛隊の奴らも、師匠や国王以外俺に話しかけたり、合コンに誘ってくれたり、飲みに誘われたりしたことが1度もなかった。
そこで俺はやっと気づいた。
【恐怖の黒騎士】と呼ばれ、国からも敵からも恐れられていたということに。
俺は世間で言うぼっちであることに。
俺も今年で二十五歳、そろそろ結婚してもいい歳だ。
というかもうおっさんと呼ばれてもおかしくない年齢である。
だが、俺に色気のある話は全くなかった。
知り合いに女が居ないというわけではないが、その女達はだいたい男より漢してたり、イケメンよりイケメンしてるゴリラ騎士しか居ないもんだから、そもそも恋愛対象として見れるかどうか、そもそも同じ人種として見れるかどうかすら怪しい。
バナナ片手に相手の頭蓋骨をスプラッタにしててもおかしくない。
というか昔馬鹿やった捕虜がそれ殺られてた。
そんなわけで、家族のみんなから「孫の顔がみたい」「お前の嫁さんはいつ見れるんだ?」「早くしないと魔法使いになっちまうよ」と、遠回しにはよ結婚して子供孕ませてこいこの愚息が。
という家族の暖かい言葉の元、村に居ずらくなって即刻国に帰った。
その日以来、俺はこのままで本当にいいのか。
恋愛のれの字も知らずに一人寂しく死んでいくのか。
いやだ、それだけは絶対に嫌だ。
だが、最近勇者とかいうチャラチャラした男が現れてから女はみんな勇者勇者って、みんな勇者にゾッコンラブ状態で完全に令嬢から村娘までみーんな勇者のもの状態。
こんなんどうやって女作るんだよ。
それどころか勇者が来てから近衛隊の副隊長の座から降ろされて今じゃ昔の突撃隊の下っ端にまで落とされた。
コレで本当にいいのか。
数年間国のために戦い続けた騎士より、勇者を優先する国の騎士でいいのか。
俺は考えた。
初めて有給を使って、一週間休んで考え続けた。
そしてとある答えに行き着いた。
「可愛い美少女の嫁が欲しいんで騎士やめていっすか?」
▽△▽△▽△▽△▽△▽
「騎士を辞めたいだと?」
「はい辞めます」
「ふむ、理由を聞いても良いか?」
「さっきも言ったけど、可愛い嫁が欲しいんで」
俺はこの国の国王に直接退職届と、やめたい理由を話していた。
本当は俺みたいな下っ端騎士が国王にわざわざ逢いに行く必要は無いのだが、今の上司が「元近衛隊の副隊長だったわけだし、一応国王様に許可とってもらった方がいいんじゃね?」てことで許可を貰いに来た。
周りの奴らは
「そんなふざけた理由で騎士を辞めるだと!?」
「ふざけるな!」
「騎士の恥が!」
「貴様!他国に寝返る気か!」
「裏切り者め!」
「顔怖いんだよ!」
などと周りの騎士たちが罵声をあびせてくる。
国王は玉座で頬杖を突きながら、深く考え込んでいた。
「ふむ、嫁か」
「嫁っす」
「フハハハハッ!ちょうどいい、可愛い嫁ならば誰でも良いのだな!」
「ういっす。あと飯が上手くて帰りをちゃんと待ってくれる美少女がいいです」
「なぜもっと早く我に相談しなかった!お前にピッタリの女子がいる!そいつと見合いしてこい!!」
「マジですか!?」
「我は寛大な国王だ!我のために尽くした騎士の願いの二つや三つ、叶えて見せようぞ!!」
国王は何が愉快なのか知らんが、大声で笑いながら指を鳴らすと、一人の男がとある辞書のように分厚い本を俺のところへ持ってきた。
これは婚約者の情報らしい。
色々書かれている
「えーっと、相手は··········うっわ、すっげぇ美少女」
本の1ページ目クリップで停められた写真があり、写真に写っていたのは、まつ毛が長く、ジト目で、銀髪のロングに、ルビーのように輝く瞳の、美少女だった。
見た感じ普通に若い。
若すぎるくらいだ。
■名前:最終決戦殺戮兵器二十八号突撃型
■種族:機械仕掛けの神
■身長:146cm
■年齢:0歳
■説明書:【穴】は着いています
「おい国王」
「なんだ」
「これは?」
「嫁の説明書だ」
とりあえず説明書を国王の顔面目掛けてぶん投げた。
「俺騎士辞めます」
「ま、待て、話を聞け」
「なんだ愚王」
一応ふりかえって王の方を見ると、頭から大量出血した王が辛うじて意識を保ちながら、頭を抑えていた。
俺は可愛い嫁と言っが、愛具が欲しいなって一言も言ってない。
てかデウス・エクスマキナが嫁とか、俺に喧嘩売ってんだろ。
あれはただ人の形をしただけの殺戮兵器だ。
結婚したって絶対"愛"が育まれることは無い。
そう、俺の求める嫁は、俺の事を愛してくれる、優しい嫁じゃないと絶対にゴメンだ。
「いや、これを提案して来たのはこの娘なんだ」
「···············縁談をか?」
「あ、あぁ、だからせめて顔見せくらいは行ってやって欲しいんだが···············」
「···············まぁ顔見るくらいなら」
「そうかそうか!場所は既に指定されている!この店に今日の九時に来るといい!」
国王が俺に渡したのは超高級レストランで、国王も滅多に行けないほどのところだった。
「ん?今日?今日ッ!?」
「そうだ!」
「なんでもっと早くに言わねぇんだよ!!」
「だって今日お前が来るって言うから···············」
「ガッデムッ!!」
既に今は夜の七時で、ここからこの店まで走って2時間かかる場所にある。
俺は急いで城を出た。
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「いや、ついたはいいけどここ、スーツじゃねぇと入れねえところじゃん!!」
全力で走った結果、予定より三十分早くついたまでは良かったが、問題はその後で、この店が超高級五つ星レストランという事もあり、スーツでないと入れないレストランとなっていた。
「何やってんだ」
「ん?なんだガキンチョ」
すると、後ろにはブカブカのパーカーを着て、腕を組みながら仁王立ちして俺を見上げる少女が立っていた。
「てお前か、俺の縁談相手は」
「そうだ、【恐怖の黒騎士】様。ありがたく思え、この超絶美少女完璧デウス・エクスマキナ様がお前と見合いをしてやるんだからな」
「思ってたエクスマキナと随分違うな」
「それは私を作った博士に行ってくれ。私の性格や外見は博士の趣味だ」
「てかそもそもなんで俺と見合いなんてしてぇんだ?初対面だろ」
「縁談のほとんどは親や国が決めたりでほとんど初対面なことも多いだろ」
「口の回るエクスマキナだな」
「みんなこんなもんだ」
本当に口の回る女だな。
「お客様、こちらスーツでないと入れませんので···············」
「···············こんな店更地にしちまうか」
「やめい」
「あてっ」
俺はこいつの頭をチョップして止めさせた。
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