第一話 プロローグ
◇◇◇
「ちょっとお兄!? 臭いが移るからソファーで寝ないでっていつも言ってるじゃん!?!?」
「ん、ん~……」
「は・や・く……起きろ!!」
「ぐはっ……」
ソファーから転がり落とされた体に鈍い痛みが走る。
「起きたんなら早く部屋に帰って!」
「はぁ……へいへい分かりましたよ……」
二撤ゲームで重くなった体を無理やり起こし、部屋へ戻るべく階段へ向かう。妹①は俺が退いたソファーに悠々と腰掛けると録画していたドラマを見ている様だ。
「あんな言い方しなくても……」
そんなことを考えても仕方がない。すっかり諦めた俺は素直に自室のドアを開けた。
♡♡♡
「あ、兄さん……。今部屋使ってるから入ってこないで」
「いや、俺の部屋なんだが……?」
「だって、ワタシの部屋Wi-Fi繋がり難いんだもん」
「だからって俺の部屋でなくても――」
「良いから早く出て行って!!」
「はぁ……へいへい分かりましたよ」
俺は絶賛ゲーム中の妹②に怒鳴られ、部屋から出る。
リビングも自室もダメなら……。これは最終手段に取っておきたかったのだが、この際どちらでも良い。
俺はさっき上ったばかりの階段を下る。向かった先はトイレ。ここなら鍵も掛けられるし誰にも邪魔されることは無い。
☆☆☆
「きゃあ、にぃに!?!?」
「うぉっ!?」
ドアを開けた瞬間、甲高い悲鳴がトイレ中に響く。見ると手にスマホを携え便座の上でプルプルと震えている妹③が居た。
何故だ。何故、俺の行く先行く先に妹という最恐ラスボスが待機しているのだ。この家に俺の意場所はねぇのかよ!?!?
そんな俺の嘆きも当然、妹③には届かない。
「そんな所で突っ立ってないで、早く出ていってください!!」
「す、すみませんでしたぁぁぁ!!」
俺はRPGの魔王城と化した家を全速力で飛び出す。
これからどうしたら良いものか……。夕飯までの1時間、取り敢えずコンビニで過ごして居たら何とかなるか。
◆◆◆
もう気付いているであろうが、俺、一ノ瀬暁嗣には3人の妹――いや、義妹が居る。
・・・遡ること10年前・・・
当時5歳だった俺には母親が居なかった。どうやら俺を産んですぐに体調を崩し、そのまま亡くなってしまったらしい。その後は父との2人暮らし。所謂シングルファーザーというやつだ。だが、物心つく前に無くなってしまった母。言っちゃ悪いが俺としては欠落感を感じたことは余り無かった。強いて言えば、運動会や合唱会の日は仕事で来てもらえなかった事だろうか。それでも毎日六時には迎えに来てくれ、夕食は欠かさず一緒に食べた。
だが、いつしかそれも無くなっていった。父の会社が大きくなるに連れ、帰宅する時間も遅くなってしまったのだ。父の送迎も追加料金という形で幼稚園の先生になった。一緒に食べていた出来立ての手料理も作り置き、もしくは数千円がテーブルに置かれているだけになった。最初の頃は自由気ままに過ごし、小さいながらも一人暮らしを堪能している気分だった。
――だが、それはまだ小さい子供には早すぎた。――
4月1日に誕生日を迎えた俺は6歳になり、同時に小学生にもなった。これまでは危ないという理由で許されていなかった遊びを含む不要な外出が許可され、友人と遊ぶ機会も多くなった……が、いつしかそれも無くなっていった。理由は単純、家に帰ると急激な虚無感に襲われたからだ。
そして俺は家に籠るようになり、友人たちの誘いも殆ど断っていた。通常であれば「あいつ最近乗りが悪い」などと言われるところだが、幸い、友人は皆良い奴ばかりでそんなことは無かった。これは本当に救いだったと思う。
だが2年生に進級してついに、俺は父さんに言った。
――「家族が欲しい」――
この頃はただ本当に家族が欲しかった。家に帰ると「おかえり」と言ってくれる家族がーー。
だが1つ教えてあげることが出来るのなら教えてあげたい。義妹だけは作るなと……。
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