将軍の実力
「賑やかですね」
祝勝会場に着いたカーラはそう言った。
実際、賑やかである。食事をしている者もいれば、酒を飲んでいる者もいる。
しかし、その雰囲気の中に、僅かな影が見られる。
無理もない。ベルーナ帝国の侵略だ。
「みんな頑張ってくれましたから。ただ、やはりベルーナ帝国の事は気にしています」
ルシルは周りの様子を察知していた。
ルシルと共に、謎の人物とルーベルがやってきたことに気づいた者達が集まってきた。
ヒュンフ、ゴルド、レイア、リーンもいる。
「みんな、こちらは本都のカーラ将軍だ。騎馬部隊を率いている方だ。
それにルーベルも戻ってきてくれた。
これからの作戦の提案を、カーラ将軍にしてもらった。それについて話そうと思う」
みんな頷いた。
ルシルは説明を始めた。
ルシルの説明が一通り終わった。
「本都へ行くのね」
リーンが頷いている。
「うん。みんなの気持ちを確かめたい。ついてきてくれるか?」
周りにいる自警団の団員達は、頷いている。
立派に国を守る、精悍な顔つきだ。
その様子を見ていたカーラ将軍は、ルシルの人望の厚さに感嘆していた。
仲間に恵まれている。
自警団は軍隊ではないのだ。
あくまで各々の意思で参加するのが自警団だ。
その自警団員たちの信頼を見事に得ている。
「カーラ将軍から何かありますか?」
ルシルはカーラに話を振った。
「え?ええと……ご助力、感謝します。もう日が暮れ始めました。時間を取るなら、明後日ですが、可能なら、出発は明日の朝でもよろしいか?」
「そうするように手配します」
ルシルは頷いた。
「ありがとうございます。将軍として恥じぬよう、皆さんと共に戦います」
カーラは凛として言った。
しかし、その時カーラのお腹が鳴る音がした。
みんながカーラの方を見る。
「え、いや、これは違います。多少腹が空いただけで……」
場が笑いに包まれた。
カーラは顔が真っ赤になって俯いてしまった。頼りない将軍だ。
「将軍は食事をしてください。騎馬隊にも食事を持っていきます」
ルシルも笑っていた。
「かたじけない……」
和やかなムードの中、ゴルドがカーラの方を見つめていた。
真面目な表情だ。
「ゴルド?どうかしましたか?」
レイアも笑っている。
「あの将軍……」
難しい顔をしている。
「カーラ将軍がなにか?」
「恐らくこの国で三本の指に入るほど強いぜ」
ルシル達の準備は慌ただしくなった。
まず、住民の退避準備を始めること。急がなければ手配しきれない。
そして自警団も移動の準備。情報の伝達。
武器や防具を見繕って、持っていかなければならない。
本都で支給してくれるかもしれないが、持っていくに越したことはない。
祝勝会があっという間に、ベルーナ帝国との戦いへの備えになった。
このまま、城塞都市は無人になる。
もしかしたら、住み慣れた街には二度と戻れないかもしれないとルシルは思った。
ベルーナ帝国が本都にのみ攻め入った場合は、この街は無事だが、
この街に再びやってきたら、守る者のいない街は、破壊されるかもしれない。
だが、それでも本都に行かなければならない。
国を守らなければならない。本都に全ての戦力が出揃うのだ。
フォージも協力してくれるだろうか……。
ルシルはフォージに会いに行くことにした。
フォージはまた例のごとく、城壁の上にいる。
ルシルが歩いてくと、どこか遠くを見ているフォージの姿が見えた。
ルシルは城塞の階段を上り、上の階のフォージのところまで歩いて行った。
「フォージ、見張っていてくれてありがとう」
ルシルは礼をした。
「座っているだけだ。この国は……大丈夫なのか?」
「かなり危ない。本都から将軍が来て、相談の結果、自警団も住民も本都に移動することになった。
ベルーナ帝国はまた攻めてくる。その隙をついて、相手に反撃をする作戦が案として立っている。
本都の部隊と合流しなければわからないけれど……フォージは戦ってくれるか?」
「お前のためなら」
「ありがとう、フォージ……」
「しかし……どうしてお前はそこまでやるのだ」
フォージは問いかけた。
「どうして、か……人が傷つくのが嫌なんだ。人間は怖い。平気な顔で人を陥れる。
言葉や理屈よりも、勝手に行動してしまうというのが一番かな」
ルシルは首を傾げながら言った。
「お前も傷つくのではないのか」
「僕はいいんだよ」
ルシルは笑った。
「……」
「フォージ?」
フォージは、この大陸に来てよかったと心から思った。
ルシルは優しい。自分を捕まえていた連中とは大違いだ。
多分、自分が負った大怪我に対する手当てが無ければ、自分は力尽きていた。
人間は酷いだけの生き物では無かった。
人間だけに存在する、高潔な心を持っている者がいる。
この身朽ち果てるまで、ルシルの力になろうと思った。
「敵を攻撃するのか?城を守るのか?」
「わからない。やっぱり、本都に行かないと……」
「支度が終わったら、また声を掛けてくれ」
「頼りにしてる。準備が整ったら、すぐに伝えにくるよ」
ルシルはフォージに別れを告げ、再び階段を下り始めた。
ルシルはフォージに出会って、仲良くなってから、フォージの過去を聞いた。
人間を嫌いになっても当たり前な、悲しい過去だった。
酷い人間はたくさんいる。
ルシルはフォージを頼りにしつつも、何故フォージがルシルにここまで良くしてくれるのかわからなかった。
フォージに何度も助けられた。感謝の気持ちしかない。
感謝の気持ちを胸に抱きながら、ルシルは退避のための準備に戻った。