背水の陣
ルシルは騎馬部隊の規模が大きかったので、全員が入れる場所にカーラ達を案内した。
殺風景な砂の広場。かすかに吹く風が砂を揺らしている。
騎馬部隊は勇敢そうな戦士達だ。馬に乗り、槍を持っている。銀色に近い甲冑が頼もしい。
ルシルはベルーナ帝国との戦いの詳細を、カーラ将軍に話した。
「自警団だけで、ベルーナ帝国を追い払ったと?」
カーラ将軍は驚いている。
あのドラゴンの為せる業なのか……?カーラは考え込んだ。
自警団の噂は本都でも聞いていたが、それほどとは思っていなかった。
自警団が相当優秀なのだろう。
「防衛のことはわかりました。それで、これからのことです」
カーラ将軍は切り出した。
「本都はなんと?」
ルシルは読めない答えを想像しながら尋ねた。
「本都に戦力を集中させるとのことです。国境の砦をベルーナ帝国は狙わなかった。
いきなり全ての拠点を占領しようとしている様子ではない。
この城塞都市に敵が来たのも、ドラゴンが時間稼ぎのために注意を引いてくれたためでしょう?
ここからは私の見解ですが、次にベルーナ帝国が攻めてくる時は、この都市は無視すると思います。
守りやすいこの城塞を落とす意味がない。攻めても得られるものがない。
一直線に本都に向かい、国自体を奪ってしまえば良い、となるでしょう」
「なるほど……しかし、本都に戦力を集中させて、ベルーナ帝国に勝てる見込みはありますか?」
ルシルは考えながら質問した。
カーラの表情が曇った。
そうなのだ。相手はベルーナ帝国。
レテシア国の三倍は国土のある国で、善政をする王がいたからこそ侵略などしなかったものの、今は違う。
確実に、暴走ともいえる行為を今の王は執っている。
そして、今回の侵略はいわば慢心。レテシア国などこの兵力で十分、という甘い見通しだったからだ。
次は違う。本気で潰しにかかってくる。
レテシア国の兵力ではベルーナ帝国には到底適わないのだ。
周辺諸国は中立国ばかりだ……。助けてほしい、と言っても、通るとは思えない。
「確かにあらゆる点でベルーナ帝国には勝てません。しかし我が国の有利が二つだけある」
「二つとは?」
「一つは、ベルーナ帝国の内情です。先代の王の政治に満足していた民衆や兵士達が、
今の王を嫌っている可能性があります。つまり、団結力が無いのです」
「なるほど。ベルーナ帝国の領土の広さから威圧感を覚えていましたが、
確かに、急な侵略の命令に、積極的に戦いたい兵士は少ないのかもしれませんね」
ルシルは頷いた。
「そうです。そしてもう一つは……そのドラゴンです」
カーラはフォージの方を見た。
「ドラゴンはこの大陸では非常に稀、いや、存在しない生き物……強いのでしょう?そのドラゴンは」
「確かにこのドラゴン……名はフォージといいます。
フォージは強いです。いつも僕の力になってくれます」
ルシルは頷いた。
「なるほど。……今、私がお話したことを含めて、提案があるのですが……」
「なんですか?」
「ベルーナ帝国がこちら側に攻めてくる戦力は増えるかもしれません。しかし……」
「しかし?」
「ベルーナ帝国本都の守りは、手薄になるのではないでしょうか?」
「それは、つまり……」
ルシルは大体飲み込めてきた。
「はい。我が国の本都で防衛戦をし、その間に別動隊でベルーナ帝国本都を落とす、ということも不可能ではないかと」
「本都を囮に……僕も国を守りたいです。その考えでいくと、本都との連携をしっかりとしないといけませんね」
「そうなります。私が本都を出た時の国王の希望では、ルシルさん達自警団に、本都に来てほしいとのことです」
ルシルは国王にまで自警団の噂が広がっていることに驚いた。
「自警団に戦力になってほしい、ということでしょうか?」
「その通りです。今の私の意見も同じです。ベルーナ帝国を退けるほどの実力、
国を守るために是非お借りしたい。お願いできませんか」
カーラは深く頭を下げた。
「頭を上げてください」
ルシルは慌てた。
そして、考えた。国を守るために本都に出向く。
この城塞都市にベルーナ帝国が復讐しに来る可能性はゼロではない。
自警団が全員移動するなら、住民たちもまとめて避難しなければ危ない。
自警団のメンバーにも確認を取らなければならない。
国を守るために本都に行くか。否か。
おそらく、大多数は本都に行ってくれるだろう。
この城塞都市で戦ったのだ。
その勇気で、本都を、国を守ることを選ぶはずだ。
作戦はこの場では立てられない。本都の戦力と合流しないと指針は合わせられない……。
移動するのなら、早めに計画を立てなければならない……。
「カーラ将軍、僕は国を守るために戦うつもりですが、みんなはわかりません。
今祝勝会をしている最中です。みんなの気持ちを確かめるためにも、みんなに話してみます」
「有難い。私もついて行ってよろしいか?」
カーラは軽く頭を下げた。
「もちろんです。騎馬部隊ですが、大きな広場があります。そこに全員入れると思います」
「了解した」
カーラは頷いた。
カーラの部下の兵士にも話は聞こえていたらしく、兵士達も頷いている。
「行きましょう。ルーベルも行こう」
ルシルを先頭に、祝勝会場へ向けて歩き出した。