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竜の本望  作者: 夜乃 凛
竜の英雄
6/38

勇気の誓い

 ベルーナ帝国にて。

バラージが鎮座する玉座のある城にて。


 レテシア国の侵攻に失敗した兵士達が、城に続々と帰ってきた。

 城の中にいたジャコンは、兵士達が帰ってきたと聞いて、疑問に思った。

 帰ってくるのが早すぎはしないか?

 何かの予兆を感じつつも、ジャコンは帰ってきた兵士達の元へと向かった。


 執務室を出て左に曲がり、赤い絨毯の階段をやや急ぎ気味に下りる。

階段を降りて右側に街へと繋がる道がある。


 その道から帰還した兵士たちは入ってきて、中央の広場に集まっている。

兵士達の表情に怯えが見える。

兵士の一人にジャコンは接近し、尋ねた。


「レテシア国への侵攻はどうなったのだ?何故こんなに早く帰ってきた?」


 ジャコンは嫌な予感を感じていた。

兵士達の様子が普通ではない。


「レ、レテシア国の本都に向かう途中に……」


 兵士はたどたどしく喋る。


「ドラゴンに襲われて……ドラゴンとレテシア国部隊の戦いで隊長は死亡し……」


 兵士は黙ってしまった。


「まさか、それで逃げ帰ってきたというのか?敵に負けたと?」


 ジャコンは物凄い剣幕だ。


「は、はい……」


 兵士は怯えている。


「馬鹿野郎!」


 ジャコンは兵士の顔を殴った。


「逃げ帰ってきた?冗談じゃない!馬鹿じゃないのかお前たちは!たかがレテシア国ごときに負けてどうするんだ!

私の立場はどうなる?役立たずが!死ぬまで戦え!」


 ジャコンは激怒している。

 ドラゴン?あんな弱小国に……。

 兵士の顔を殴りながら、ジャコンはハッとした。

立場……。

バラージにどう説明する?

隠し通せるとは思えない。

侵攻に失敗しました、などと……。

言えるわけがない。

侵攻の手筈を整えたのはジャコンだ。

バラージに殺されてしまう。

 ジャコンは頭を回転させた。

 逃げるか……?

 いや、逃げてしまっては、折角ここまで築いた自分の地位が無駄になる。

逃亡が成功する可能性もわからない。

 そうだ、レテシア国から侵攻されて、兵士たちが傷ついたことにしよう。

先に手を出したのはレテシア国だと。

悪のドラゴンが現れたと。

最悪の場合……バラージは毒殺してしまえば良い。食事係に罪を着せよう。

 そして王が不在の中、レテシア国に対抗する正義の軍隊としてジャコンが指揮を執る。

ジャコンは冷や汗をかきながらニヤリと笑った。

 私は優秀な人間なのだ。他の人間より優れている。

 私は必要な人間なのだ。こんな所で死んでたまるものか……。


 

「乾杯!」


 街の中にある、自警団の煉瓦造りの建物の中。

戦いを終えた自警団のメンバーと、戦わなかった者も集まっている。

祝勝会である。ルーベルはまだ戻っていない。


 人がたくさんいて、若干窮屈である。

机がたくさん並び、美味しそうな食事が並べられている。

 リーンがその食事の前に立っていた。

しかし、リーンは手を付けようとしない。

背中の雰囲気が暗い。


 少し離れた位置で食事に手を伸ばしていたゴルドがリーンに気付いた。

普通ではない雰囲気に気がついて、ゴルドをリーンの元へ向かった。


「リーン、食べないのか?」


 リーンの背中に声をかける。

リーンはゴルドの方を振り返った。

リーンは泣いている。


「おいおい、どうしたんだ?大丈夫か?」


「私、食べる権利がない」


「……戦わなかったから?」


「……うん」


 リーンは俯きながら思った。

自分はろくに戦えないけど、何かみんなの役に立てたかもしれない。

レイアはあんなに勇敢なのに私は……。

 いつもそうだ。

みんなは優しくしてくれるけど、自分は役に立てない。

ほんの少しの勇気があれば、今日少しは役に立てたかもしれない。

臆病者だ。

自警団を辞めたほうがいいのかもしれない。

みんなといるのは楽しい。

でも、きっと次の戦いでも自分は恐怖に負けてしまうだろう。

住民と一緒に逃げていただけ。

みんな、ごめんなさい。


「お前は……自分に出来ることをやっている」


 ゴルドは諭し始めた。


「戦えない代わりに、住民の避難を手伝った。戦わなかったのは、お前だけじゃない。

お前は必要な仕事をしたんだ。前線だけが戦いじゃないんだ。

全てのピースがハマって、やっと戦えるんだ。お前は自分を恥じる必要はないぜ」


 ゴルドは、もう失うのは御免だ、という言葉は飲み込んだ。


「……ありがとう」


 リーンは涙を拭いながら話を聞いていた。


「礼なんかいいんだよ。ほら、さっさと食えよ。俺は食べるぜ」


 ゴルドは机の上の料理を皿に盛りつけて、リーンに渡した。

リーンはそれをおずおずと受け取りながら思った。

ゴルドは優しいとリーンは思った。

リーンは自警団の仲間たちが大好きだ。

 次……。

もし勇気が必要が時が来たなら。

絶対に逃げない。

絶対に逃げないで立ち向かう。

リーンは、そう心に誓った。


 ヒュンフは祝勝会場で椅子に座り、黙々と酒を飲んでいる。

一体何杯飲んでるのか不明である。

 ヒュンフはいつも一人で酒を飲むが、この日は事情が違った。

敵指揮官を仕留めたので、周りの自警団員達が自分を見ているのが気になる。


「やりづらい……」


 ヒュンフは溜息をついた。

やれやれといった様子で酒を飲んでいると、ゴルドとリーンがやってきた。


「飲んでるな。敵指揮官を打ち取ったのはお前だって?」


 ゴルドはヒュンフの隣の椅子に座った。木製だ。


「そうだな」


 別に特別なことでもないように軽く言うと、リーンの方を見た。

リーンは少しビクりとした。

負い目があるかのようなリーンの態度をヒュンフは観察していた。


「住民の避難を手伝っていたんだって?」


 ヒュンフがリーンに尋ねた。表情は無表情のままである。


「うん……」


 リーンがおずおずと答えた。


「いい働きだな」


「え?」


「お前にしてはな」


 ヒュンフは早口で修正した。


「照れ隠ししやがった。な?みんなもお前の事は認めてんだ。安心しろ」


 ゴルドがリーンの髪をくしゃくしゃと撫でた。

リーンは嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちで半々だった。


「酒が美味い」


 ヒュンフはまた飲み始めた。


「お前、何杯目だ……」


 ゴルドは呆れている。


「今くらい、いいだろう……」


 一気に飲み干した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々説明が足りないなと思った、あと文章力がない
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