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竜の本望  作者: 夜乃 凛
戦乱の予兆
4/38

城壁の防衛戦

 城壁の上では弓兵達が頼もしく並んでいる。

顔持ちはどこか緊張している自警団達だった。

このような本格的な戦を経験したことはないので、無理はない。


 ルシルがベルーナ帝国が来るであろう方角に目を向けた瞬間、ヒュンフが叫んだ。


「敵が来た!」


 周辺がざわついた。

弓兵隊は身を乗り出して、地平に目を凝らした。

 たしかに、ほのかに赤い群れが見える。

全員に緊張が走る。


「みんな、無理はしないでくれ!持ち場について!」


 ルシルが号令を出した。

 号令を出した後、すぐに城塞の上で待機していたフォージに近づいた。

フォージの黄色い眼がルシルを見つめている。


「頼むぞ、フォージ」


 ルシルはフォージの背中に飛び乗った。


 赤い群れはどんどんと近づいてくる。

動きはそこまで速くない。ゆっくりと、焦らずに進軍してきている。

 フォージは羽ばたき、ルシルを乗せ空に舞い上がった。

そのまま真っすぐに敵軍を目指す。


「(まずは牽制して、注意を引くんだ……弓兵に気を付けて……)」


 ルシルがフォージに乗って敵軍へ接近していく。

 どんどん敵の群れの姿が鮮明になっていく。

紛れもなく兵士たちだ。

 敵の列に乱れが見えた。

フォージを認識したと思われる。

敵の弓兵隊が前方に出てくるのが見えた。


「もっと高く!」


 ルシルはドラゴンに合図した。

 フォージが飛翔する。

 直後、矢が飛んできた。

 高度のおかげで回避に成功。

そのまま勢いよく敵の前列に飛び込んだ。

 ドラゴンが炎弾を吐き出した。

衝撃で敵兵が吹き飛ぶ。


「離脱!」


 ルシルはフォージをコントロールしながら、再び上空へと舞った。

自陣へと引き返していくルシル。


「(必ず国を守り抜いてみせる!)」


 敵兵達を振り返りながら、ルシルは国のことを思った。



 ベルーナ帝国側の最前線。

予期せぬドラゴンの襲来に兵士達は慌てていた。


「なんだ?あの黒い物体は……」


「ドラゴンじゃないのか?」


「化け物……」


 兵士たちが次々に口を開く。

部隊の動きは完全に止まっていた。怯えている兵士もいる。


「静かにしろ!」


 指揮官が叫んだ。

装着したメットから茶色い髪が流れている。


「いいか、我々の目標は本都の制圧だ!

だが、あのような生き物は我々の脅威になる。

あれは恐らくドラゴンだ。

ドラゴンはあの城塞に向かっていった。

あの場所を落とし、拠点とする!

我々ベルーナ帝国は最強だ!敵などいない!」


 指揮官に鼓舞され、兵士たちの雄叫びが響きわたる。

ドラゴンに一瞬怯んだ兵士達だったが、

すぐに士気を取り戻した。


「前線に梯子を出せ!破壊槌も前に!」


 後衛から梯子を持った兵士達が梯子を担ぎ前に出た。

全員が兜をつけているわけではなく、

大体の兵士は堅強とはいえない安い鎧を身に着けている。

槍も立派とは言いづらい。


「隊長、いつでも行けます!」


「よし!進軍する!」


 赤い群れは再び動き出した。



 ルシルはフォージに乗って、拠点まで戻ってきた。

城塞の上にフォージが着地する。

緊迫感が周囲に満ちていた。


「みんな!すぐに敵がやってくる!冷静に戦ってくれ!」


 ルシルの号令に弓兵隊は強く頷いた。

 迎撃の準備は整った。牽制もした。

後は、この城塞で迎え撃つだけ……。

 ルシルが手に持った槍に、少し汗が滲む。

 自信を持つんだ。

 国のため。

 仲間のため。

 自警団のため。

 レイアのため。

少しは恐怖はある。

レイアの顔を思い出す。

 絶対に守り抜いてみせる。

止まっていた赤い群れが動き出したのが見える。


「迎撃するぞ!」


 観察をしていたヒュンフが弓を持ち、持ち場についた。

他の自警団員達もそれにならって前に並んだ。

皆、弓矢を確かめている。

 ルシルは頭の中でイメージを膨らませていた。

敵軍に牽制する際、梯子と破壊槌が空中から見えた。

梯子で城壁の上に上らせてはいけない。

ゴルドが大門の裏で守ってくれているとはいえ、大門も守り切らなければいけない。

咄嗟の状況判断が大事になる。

 敵軍は着々と接近してきている。

もう目の良い者でなくても、相手を視認出来る距離。

 フォージが黄色い目を敵軍に向けた。

そして、口を大きく開けて雄叫びをあげた。


「弓兵構え!」


 フォージに合わせるように、ヒュンフが大声で叫んだ。


「投石準備!」


 レイアも大声で叫んだ。


「いくぞ!」


 ルシルはフォージを飛翔させた。

敵軍も突撃してくる。城壁の大門めがけて一直線だ。

破壊槌を数人で持ち、大門を破壊しようとしている。

 ルシルは破壊槌に一直線に向かう。

フォージが炎弾を吐き、破壊槌を燃やした。


「弓兵隊構え!ドラゴンを狙うんだ!」


 敵の指揮官が叫んだ。

弓兵隊はフォージを狙っている。

 ルシルはフォージを反転させた。

 体をひねって矢を回避する。


「梯子を設置しろ!ドラゴン以外は怖くない!」


 敵軍指揮官はさらに叫んだ。

 ルシルは梯子を掛けられるのを阻止するべく梯子部隊に標的を変えた。

しかし、敵の弓兵隊が全員フォージを狙っている。

これでは回避が精一杯だ。


「投石機!破壊槌を阻止してください!」


 レイアが叫んだ。

投石部隊は城壁の内部から石を発射し、数多の破壊槌を持つ敵兵達に直撃させた。

 敵の梯子が徐々に城壁へと迫っている。

ヒュンフは着実に、梯子を設置して上ろうとする梯子部隊を撃った。

 まずい状況だ。

敵の弓兵部隊が着実にルシルを狙っている。

敵を引き寄せられているとはいえ、これではドラゴンが機能しない。

大門はまだ持つ。

 しかし、梯子部隊に城壁に上られるのは時間の問題だった。

ルシルは危険を承知で高度を下げた。

 城壁をちょうど真横から突っ切るように、梯子部隊を吹き飛ばした。

幾つもの矢が飛んでくる。もう数発はフォージに命中している。


「フォージ、大丈夫か?」


 ルシルはやや焦っている。

 フォージは大丈夫というように頷いた。


「破壊槌、何をしている!はやく大門を突破しろ!」


 敵指揮官の声がルシルに聞こえた。

敵指揮官めがけて突撃することを考える。

 声の方向を探す。

 兜がキラりと見えた。

あいつだ。

 ルシルはフォージをコントロールし、敵指揮官に一直線に動き出した。

 しかし、また弓の防壁。回避するため上空へとまた離れる。

 敵指揮官は敵の最後尾付近にいる。弓兵隊の奥だ。

フォージの炎弾は威力はあるが、命中力は高くない。

長槍が指揮官の周りについており、ドラゴンを警戒している。突撃も出来ない。

どうする?

 ルシルは大きく旋回しながら考えた。

あの兜の指揮官を落とすには?

フォージが倒せないなら、弓か投石器……。

投石器はそう簡単に命中するとは思えない。

弓しかない。


「フォージ!城塞の上まで行く!」


 ルシルはフォージを反転させた。

空中を舞い味方の弓兵部隊の元へ飛んでいく。


「ドラゴンが逃げたぞ!攻め落とせ!」


 敵指揮官の声が響く。

 ルシルは城壁の上まで来ると、滑らかな動きでフォージを着地させた。

ヒュンフの隣の場所である。下で梯子を掛けようとしている兵士達がいる。


「ヒュンフ!頼みがある」


「何をすべきだ?」


「敵の指揮官は兜を被ってる。見えるか?あいつを狙ってくれ」


 ルシルが敵指揮官の方向を指さした。


 ヒュンフが指の先を見た。見える。兜を被った兵士が……。

距離は近いとは言い難い。


「仕留める。時間稼ぎ頼む」


 ヒュンフは使っている弓を置き、少し長い弓に持ち替えた。


「頼む!」


 ルシルはそう言うと、再びフォージに乗り駆けだした。

大門への敵戦力が、先ほどよりも増している。

投石部隊の殲滅力が間に合っていない。

破壊槌の攻撃を許してしまっている。

 ルシルは落下攻撃を試みたが、長槍に阻まれた。

 破壊槌が大門に当たる音が大きく響く。


「まだ動くなよ!」


 大門裏の、ゴルドが叫んだ。

大門裏の歩兵部隊に緊迫した空気。

いよいよ敵が入ってくる。

 城壁の上ではヒュンフが弓を構えていた。

 ヒュンフはわかっていた。

自分が仕留めないと、恐らく負ける。

 逆に、相手は指揮官を失えばドラゴンという脅威に統制が取れなくなる。

確実に仕留めなければならない。

先ほどのルシルの攻撃により、梯子部隊もまだ上に侵入してきていない。

 見る。

 相手との距離を測る。

 狙い撃つ。一撃で。

ヒュンフは矢を放った。

 高速の矢は軌道を描きながら空中を飛んだ。

一瞬。

矢が敵指揮官の首元に吸い込まれた。

首に直撃し、指揮官は何が起こったのかわからないまま地に伏し、苦痛の表情で絶命した。

 同時に大門が破られた。


「死守するぞ!死ぬなよ!」

 ゴルドが斧を手に持って号令を出した。

そのまま先陣を切って相手に飛び込んでいく。

斧とは思えないスピードの切り込みで、敵を怯ませた。

敵陣では指揮官の死体の周りで兵士達が混乱している。


「隊長がやられたぞ!!」


 敵弓兵部隊もその異変に気が付き、射撃が止まった。


「いける!」


 ルシルは隙を見逃さず、弓兵部隊めがけて突撃した。

矢は飛んでいない。一直線にフォージが弓兵達を薙ぎ払った。

 

 この効果は絶大だった。弓兵隊は半壊したのだ。

大門を突破した敵部隊が後ろを振り返り焦っている。

前に出るでもなく、引くでもなく、狼狽している。


「休まず!」


 レイアの投石の追撃の号令。

勇敢に前進するゴルド。

 弓兵を薙ぎ払ったルシルとフォージは再び上に飛んだ。

全体が見える。敵の一部が逃げ出している。

 ルシルはゴルド達の上空へ移動し、叫んだ。


「みんな下がって!」


 ゴルドは振りかぶった斧を止め、歩兵部隊に号令を出した。


「後退するぞ!」


 斧を構えたままゆっくりと後ろ向きに歩く。

敵は追撃してこない。逃げ出した。

 敵の赤い群れが撤退していくのが上空から見える。

 ルシルは安堵した。

防衛に成功したのだ。

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