表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の本望  作者: 夜乃 凛
エンディング
38/38

ドラゴン

 エンディング


 戦いから数年が経った。

ルシルとレイアはレテシア本都、ヒュンフとゴルドは自警団。

各々が、新しい暮らしを過ごしていた。


 その四人が、久々に集結することになった。

場所は、ルシル達の住んでいた、自警団のある街。

 ルシルとレイアにとっては懐かしい街である。

ルシルとレイアは、一時本都を離れることをレテシア王に告げ、許可を得た。

 そして、懐かしい街へと帰還した。

匂いが、まず、懐かしい。

昔と何も変わっていない。風景も。建物も。

 ルシルとレイアは、懐かしいね、と話しながらヒュンフとゴルドの元へむかった。


 昔、みんなでポーカーをしていた建物へ。

 ルシルが遠慮がちにドアを開けると、小さく開いた木のドアから灯りが漏れる。

そのままドアを開くと、そこにはヒュンフとゴルドがいた。

ゴルドの見た目はあまり変わっていない。茶色い髪に、筋肉質。元気そうだった。

ヒュンフは心なしか、少し穏やかな表情になっていた。

 建物に入っていくルシルとレイアを見て、ヒュンフとゴルドは片手を上げた。


「待ったぞ」


 ヒュンフは短く口にした。

ハッキリ物を言うその姿勢が懐かしくて、ルシルとレイアは笑った。


「懐かしい」


 レイアは嬉しそうだ。


「もう……戦いから五年になるからな。久しぶりだ」


 ゴルドも再会を喜んでいる。五年。五年が経ったのだ。


「元気だったか?」


 ルシルは皆の様子を尋ねた。ルシルの顔つきは、昔より精悍になった。


「そこそこ。周りは元気でやってるよ」


 ヒュンフは微笑した。やはり心なしか、穏やかになっている。


「昔みたいに、ポーカーがしたいが……リーンがいねぇとな」


 ゴルドは頭を掻いた。

 リーンは亡くなってしまった。

 もう、昔のようにポーカーをすることは出来ない。

 戦いが終わった後、ルシル達はリーンの墓をフォーレイに建てた。

 ルシルが英雄、カーラが英雄、と言われている中、

ルシル達は、優しいドラゴン、勇敢なリーンの事を想っていた。

 国を救った、本当の英雄達。

フォージの埋葬場所は、ルシルが決めた。

広い海が見渡せる、海岸沿い。

その海を渡れば、別の大陸に行ける。

フォージが、亡くなっても、旅ができるようにとルシルは願った。


 「お前たちは、最近はどうしてる?」


 ヒュンフはルシル達の様子を気にした。


「レイアと仲良くやっているよ。国も平和だ。本都の皆も良くしてくれる」


「それはよかった。本都は安全だな……ベルーナもカーラ将軍が収めるようになって、五年経つな……」


 ゴルドは遠い目をしながら言った。五年前の戦いを思い出している。

 カーラの治めるようになったベルーナは、最初は混乱の中にあったものの、

あっという間に盛況を取り戻した。

新しい指導者の元、侵略を行った歴史を恥じ、平和な国づくりをしている。

 昔の、優しかったベルーナ帝国に戻りつつあった。

 多くの人々はカーラに好意的だったが、カーラが頂点に立つことに疑問を覚えた民衆もいた。

 果たして、良い国にしてくれるのか?と。

しかし、その民衆の不安は杞憂で、その後のベルーナは、カーラの善政が実を結び、

レテシア国の一部として、空前の発展を遂げている。

 カーラに対して違和感を覚えていた者も考えを改め、

理想的な主導者だと、カーラを賞賛した。


 カーラが去った後のレテシア本都は、ルシルの力、みんなの力により、

とても穏やかに発展している。


 平和だ。戦いが終わり、平和が再び、帰ってきたのだ。

 戦いの傷は深かった。

 しかし、皆の力で国は復興している。

 フォージとリーンは天国で見ていてくれるだろうか、とルシルは思った。


「酒でも飲もう」


 ヒュンフが提案した。相変わらずだ。

 酒をグラスに注ぐヒュンフ。全員分、酒を入れた。

 

 皆で酒を飲みながら、昔話に花を咲かせた。

ヒュンフは相変わらず酒に強い。

酒を飲むヒュンフの姿は昔と変わらなかった。

 よく、自警団の中で仲の良い五人で、この建物で酒を飲んだ。

もう五人が揃うことはない。リーンは天国にいってしまった。

今は四人である。その四人も、離れ離れになって、簡単には会えない。

 みんな生きているうちは、誰かが死ぬなんて思いもしなかった。

 失ったものは戻らない。

 失ってから気づく。

 当たり前だったことが、当たり前ではなかったことに。


「もう少し優しくしてやればよかった」


 ヒュンフは呟いた。誰に向けてでもなく、リーンのことを思い出しながら。

 その声は誰にも聞こえなかった。


「ベルーナとレテシアの合併を、周辺国はどう見てるんだ?」


 ゴルドは酒を飲みつつ、ルシルに話しかけた。


「周辺国は、バラージ王が収めていたころのベルーナ帝国には、

いい印象を持っていなかったみたいだけど、今は温かく見守ってくれているよ。

レテシアにも、前より多く、他の国から商人が来るようになった。

レテシアは治安が良い、と言ってくれる商人も多い」


 ルシルは穏やかに言った。

本都の安全を守るルシルは、常に周りに気を配っていた。

 他の国から行商に来た商人に、竜騎士と呼ばれることもあった。

以前のルシルなら戸惑っていたが、今のルシルは竜騎士と呼ばれることに誇りを感じている。

 フォージが命をかけて戦ってくれたのだ。

 それを忘れないためにも、竜騎士という名を大事にした。

 フォージの事を思い出す。

 森の近くで出会った。

 ルシルは何か、フォージにしてやれただろうか、とぼんやり思った。

 戦いが、まるで嘘だったのかのような、平和。

 本来の姿を取り戻したレテシアだが、それはフォージ達が掴み取った物だ。

 竜と人間の勇気で、レテシアは存在している。

 もしかしたら、地図から無くなってしまうくらいレテシアは危なかった。

住民が安心して暮らせるのも、兵士達が戦わなくていいのも、王が健在なのも、

守り抜くために戦った、勇敢な者たちのおかげだ。

 フォージは死ぬ時、何を思ったのだろうか。

何も思える暇はなかったかもしれない。


 ルシル達は昔の事を思いつつ、酒を飲んだ。

皆、しんみりと、懐かしい空気を楽しんでいる。



 フォージの墓の場所は、レテシアの住民達に広く知られている。

海岸沿いに建てられた灰色の墓には、レテシアの住民達がよく訪れる。

 特に、フォーレイで命を救われた住民達は、フォージへの恩を忘れなかった。

 命をかけて住民を守ったフォージ。

 灰色の墓に、花が添えられている。

 亡くなってしまったフォージの気持ちは、もう誰にもわからない。

 人間に酷い仕打ちを受けてきたフォージ。

 生きていても楽しみがなかった。

 辛い毎日だった。人間の事が嫌いだった。

 また、人間の事を愚かだとも思った。

 しかし、逃げのびた大陸でルシルに出会った。

それからの日々は、フォージにとって大切な宝物だった。

初めて、生きることの幸せに包まれたのだ。


 フォージは、人間も悪い人間ばかりではないことを知った。

食べ物も美味しかった。自然は綺麗だった。

 フォージは日に日に元気を取り戻していった。

 幼いころから虐待を受けたため、ドラゴン本来の力は無かったものの、

心の優しいドラゴンに育った。

 自警団が好きだった。優しい人間ばかりだった。

 勿論、悪者の人間もいた。それでも、そういう輩を止める自警団のような、

正義の心を持つ者達に触れて、フォージも正しさの天秤を心に持った。

 フォージは本当に幸せだった。

 何者にも縛られず、清い心を持った人間を友に持ち、自然を謳歌し、毎日生きられた。

 ルシルが手当てをしてくれなければ、フォージは死んでいた。

 だから、フォージはルシルに恩返しをしようと思った。

その機会はなかなか無かったが、ベルーナとレテシアの戦いで、

最初で最後の恩返しが出来た。

 フォージはルシルのために、住民のために、命をかけて戦って、死んでしまった。

 だが、それはフォージの本望だった。

 誰にも汚せぬ、勇敢な、優しい、想いだった。

 竜の本望が、国を守ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ