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竜の本望  作者: 夜乃 凛
本都決戦
35/38

信念の突き

 正門から街に侵入したベルーナ兵と、ルシルが対峙していた。

ベルーナ兵は城に向かっている。

 それを食い止めるべく、ルシルは勇敢に立ち向かった。

流石にルシルを無視出来ないのか、街の奥に向かおうとしていたベルーナ兵は歩みを止めて、

ルシルに襲い掛かった。

 それを捌くルシル。

相手の振りかざした剣を見る。突こうとする槍を見る。

 敵の攻撃に当たらず、回避。

 そして、反撃で確実に相手を突き殺していく。

 一人でも多く倒すしかない。

 兵量では負けていたが、個の強さでは、ベルーナ兵の実力を、ルシルは完全に上回っていた。

 一騎当千の活躍である。


 そんなルシルに立ち向かえる敵が現れた。

レイジスである。

ルシルは黒い甲冑の姿を見つけた。ルシルは瞬時に思った。

 あの黒い兵士だけは、生かしておいては危険だと。

 ルシルの姿に気がついたレイジスも戦闘態勢を取った。

 レイジスはルシルへの距離を一気に詰めた。周りは街の建物。


「お前らは一体何のために戦ってるんだ?」

 嵐の前の静けさが、ルシルとレイジスの間に漂っていた。

 レイジスの、ルシルへの問いかけ。


「何のため?国のためだ!皆のためだ!」


「他人に尽くして何になる!」


「お前にはわからないのか?」


「まったくわからない。自分のために生きることがすべてだ!」


「お前には……きっと一生わからない」


「わからなくていいよ。お前たちに勝ち目はない。さっさと降伏したらどうだ?」


「それはこっちの台詞だ!」


「なんで俺たちが降伏しなきゃいけないんだ?兵量差は歴然だろうが」


 レイジスは勝ち誇って吐き捨てた。

 しかし、ルシルの目を見ると、その輝きは確かに勝利を信じる者の目だった。

 レイジスは不穏な気配を感じ取っていた。


「お前たち一体何を考えている?」


「教えない」


「何か狙っているな?」


「仲間を信じている」


 ルシルはそう言うと、構えをとった。槍の先がレイジスを向く。

 レイジスはまだ聞き出したかったが、ルシルに合わせて剣の構えをとった。

 緊張が二人の間に走る。

 沈黙。

 静寂。

 気迫。

 レイジスの方が先に飛び出した。

剣の間合いに持っていこうとしたレイジス。

槍に対し、急接近を試みる。

 ルシルは、レイジスの動きが速く、接近を許してしまった。

レイジスが斬りかかる。真っすぐ縦に。

 ルシルはギリギリ、左に回避した。金髪が大きく揺れる。

 剣が続けての攻撃。左から横薙ぎ。

これは槍を縦にして受け止めた。

 今度は右から横薙ぎ。槍で防ぐが、ルシルは防戦一方。

 レイジスの連続攻撃が続く。

 ルシルはなんとか間合いを取りたかったが、レイジスが許さない。

 怒涛の剣撃である。反撃の隙が無い。

 それでも、ルシルは一発も剣の一撃を喰らわなかった。

槍でなんとか捌いている。

斜め上から、剣の一振り。また槍で受け止める。


「仲間のためにそこまで戦うのか?」


「そうだ!」


「気に入らない……あのリーンっていう女もそうだった」


「リーンだって?」


 ルシルは交戦中ながら、動揺してしまった。


「そうだ。フォーレイで俺たちに突っかかってきた。殺してやったよ」


「……お前が殺したのか」


「そうだよ。まるで理解出来なかったね。さっさと逃げればよいものを」


「お前は……お前だけには負けない……!!」


 ルシルは剣の隙を狙って、槍を大きく横に振った。

 レイジスが回避するために、咄嗟に距離を取ってしまった。

 ルシルの動きが、気迫に満ち、明らかに良くなっている。

 ルシルは距離が取れたとみると、突きで牽制しながら、戦いの主導権を得た。

槍を相手に、レイジスが今度は防戦一方になる。

 ルシルの攻撃の間合いの中に、レイジスは一切入れなくなった。

 剣の射程が届かない。

 高速の突きで、接近も出来ない。

 おしゃべりをしている場合ではなかった。レイジスは舌打ちした。

 ルシルは、レイジスに時間を与えなかった。

 突き。鋭い突きを、連続で繰り出した。

 槍は、直撃こそしなかったが、レイジスの体を徐々に削っていく。

 かすった傷に、レイジスが苦痛な顔をした。レイジスの動きが悪くなっていく。


「お前だけは許さない!!」


 ルシルが叫んだ。そして、鋭い突き。その、鋭い突きが。レイジスの黒い甲冑に直撃した。

 甲冑を粉砕する威力の突き。甲冑を突き破り、レイジスの腹に槍が直撃した。


「何故、こんな、こんな連中に俺が……」


 レイジスが口から血を吐いた。


「リーンを返せ!!」


 ルシルはさらにもう一撃、心臓めがけて突きを放ち、直撃させた。

完全な致命傷と言えるその一撃で、レイジスを殺した。

 ルシルは乱れた呼吸を整えようとしている。

 リーンの仇を取った。しかし、まだ戦いは続いている。

早く敵を倒さなくては……。味方と合流しなければ……。

街の奥の住民とレイアが危ない。


 ルシルは思いだす。殺すために戦うのではない。守るために戦うのだ。

しかし、兵達は街に侵入してきている。兵量差が大きすぎる。守り切れるか……?

いや、必ず守り抜いて見せる。命に代えても、とルシルは思った。

カーラ将軍が来てくれれば、敵は攻める目的を失う。

 カーラ将軍はまだなのか?

 早く、早く……。

 ルシルは焦りながらも、街の奥に兵を入れないために、街を突っ切っていった。



 カーラ将軍の騎馬部隊、もっとも速さを要したため、全員揃っているわけではないが、

騎馬部隊はレテシア本都まで目前と迫っている。

 カーラは仲間たちの事を案じていた。

 もしかすると、本都に帰還したら、味方は全滅しているかもしれない。

 そんな不安が頭をよぎった。

 しかし、その考えをすぐに振り払った。

 大丈夫。

 きっと生き残ってくれている。

 信じるしかない。

 駆ける白馬。

 もう少しで本都に着く。

 カーラは速度を上げた。

これから見える光景が、酷いもので無いことをカーラは祈った。

 王の首は取った。これを敵兵達に見せれば、敵兵は戦うことを止めるだろう。

 待っていてくれ!

 仲間を信じて、カーラは速度を上げ続けた。

 レテシアの本都が見えてくる。

 カーラは目を凝らした。

 ベルーナ兵の群れが、レテシア本都を囲んでいる。

 焦るカーラ。

 間に合わなかったのか?

 しかし、さらによく見ると、レテシア兵が戦っているのが見えた。

 戦っている!

 勇敢なレテシア兵が戦っている!

 全滅していない。防衛戦は続いているのだ。

カーラは後ろを振り返った。

白馬の速さに付いてこれていない部下達もいるようだ。

 しかし、今は全力で馬を走らせるしかない。

みんな耐えてくれているのだ。

カーラがレテシア本都に到着すれば、勝ちなのだ。

国を守り抜くことが出来るのだ。


 レテシア兵のことを思うと、カーラは涙が出た。

勇敢だ。とても勇敢な、戦士達た……。



 ルシルは街の中央で戦っていた。広場である。視界は広い。

街の中の拠点とでも言える場所だ。広場を通らないと、城には行けない。

 ルシルはベルーナ兵に対して、防戦一方だった。

 敵兵は城を目指そうと、正門から入ってくる。

弓兵隊も、投石も、正門の外の部隊も頑張っていてくれているが、

中への侵入を許してしまっている。


 ルシルを取り囲むように、ベルーナ兵が集まってきている。

ルシルの背中以外は、囲まれている。

レイジスとの戦いに勝利したルシルだったが、戦況は極めて難しい。

ルシルが今立っている地点を突破されれば、街の奥まで敵を通してしまう。

幸いなことは、ベルーナ兵はルシルに気が向いていることだった。

 全員がルシルを警戒せずに無視すれば、突破されてしまっているだろう。

ルシルは敵の注視を集めていた。

槍を構えたまま静止するルシル。

 周りのベルーナ兵は、いつ攻めるか迷っている。すでに十人単位でルシルに兵を殺されている。


「ルシル!!いるか!!」


 大きな声が響いた。ゴルドの声だ。

ルシルの真正面側から聞こえてきた。


「ゴルド!!どうした!!」


 ルシルが叫び返した。これでゴルドからルシルの位置がわかるはずだ。


「カーラ将軍が帰ってきた!!」


 ルシルは一瞬驚いた。そして、喜んだ。

 よし!

 つくづく、頼りになる将軍だと思った。頼もしかった。


「ベルーナ帝国の兵達!!」


 ルシルは周りの兵士に向けて叫んだ。


「お前たちの王は死んだ!!無駄な戦いは止めて、ここから出ていけ!!」


 ベルーナ兵達はどよめいた。

 いきなり、何を言い出しているのか、と思った。

 王は戦場に出ていない。城にいるはずだ、と。

 周りの兵達はざわついている。

 嘘をついて、窮地を逃れようとしているのだ、と発言する者がいた。


「信じてはくれないか……そうだろうな……」


 ルシルが呟いた。

カーラ将軍が、直接、王の首を見せないと納得してくれないだろう。

それまで持ちこたえなければならない。

カーラ将軍はすぐそこまで来ているはずだ。

終わりのない戦いに希望が見えた。

 それだけで、ルシルの戦闘能力はさらに上がった。

何者も通さない鉄壁の守りとなっている。

ベルーナ兵が何度も突破を試みたが、ルシルに阻まれる。


「何者なんだ、こいつは……」


 ベルーナ兵は困惑している。

たかが一人に苦戦しているのだ。無理もない。

ルシルは一人で粘り続けた。

通さない。国を、皆を守るのだ。

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