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竜の本望  作者: 夜乃 凛
本都決戦
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違和感

 ルシルは正門より少し外れた位置で戦っている。

後ろには城壁。上に味方の弓兵がいる。


 後ろに下がれないのはルシルにとって有利な状況ではないが、

ルシルを後ろに退けるほどの相手はいなかった。

 ルシルの目の前に、ベルーナ兵が見える。

 突きをベルーナ兵めがけて放つ。

 そして、一瞬で離脱する。

もう何回、敵兵を突き殺したのかわからないほど、ルシルは功績をあげている。

 ルシルはフォージが心配だったが、自分がまた無暗に突っ込めば、

逆にフォージを危険に晒してしまう。


 今のルシルは仲間との連携が取れている。ルシルの隣にはレテシア兵がいる。

囲まれてはいない。

梯子を城壁に掛けようとしている相手には、すぐに対処した。


 ルシルは、戦いの中出会った、黒い甲冑の兵士のことを考えていた。

黒い甲冑の兵士にだけは注意しなければならない、とルシルは思っていた。

他の兵士より、圧倒的に動きが良かった。

勝てる自信もあるかというと、わからなかった。

味方の皆に被害が出るかもしれない、と案じた。


 ルシルは目の前の敵兵を片付けたところで、正門の方を見た。

敵の破壊槌が門を叩いている。周りにレテシアの兵達が倒れている。

 正門の中で待機させておく戦力など無かったため、正門が突破されれば、

相手は容易に街で動ける。

 レイアの顔が頭に浮かんだ。優しい顔のレイア。

 ルシルは孤立しないように注意しつつも、正門の方へと近づいていった。

 正門は今にも破られそうだ。

 正門の近くにゴルドがいた。敵の多さに手間取っている。

ルシルがそこに乱入し、ゴルドとの連携でベルーナ兵を蹴散らしていく。

 正門の耐久度が限界を迎えつつある。


「街の皆を頼めるか?」


 ルシルはゴルドに呼び掛けた。

ゴルドに、街に侵入した兵達を任せ、ルシルは正門で死ぬまで戦い続ける気だった。


「お前はどうするんだ?」


「正門で戦う」


「ダメだ。弓兵に狙われる。ドラゴンが心配なのはわかるが、街の中に入るんだ。

街の内側に食い込まれるとヒュンフ達も危ない。

戦線を下げよう。住民達は奥にいるんだ。奥まで通さなければ大丈夫だ」


 ルシルは言葉を飲み込んだ。確かにゴルドの言うとおりだ。

冷静な仲間に、ルシルは心の中で感謝した。


「わかった」


 街を戦場にするのは気が引けたが、住民は確かに奥なのだ。市街地戦が良さそうだ。

 そして、いよいよ侵入される時が訪れた。

 正門の扉が破壊されたのだ。

ここまで、レテシア国はベルーナ帝国に対して、大善戦したと言える。

指揮官のレイジスを叩き、城壁と塔の戦線も維持出来ていた。


 そして、士気では負けるどころか、むしろ勝っている。ベルーナ帝国に勢いはない。

しかし、やはり兵量の差は歴然だった。レテシア国は後退せざるを得ない。

 正門が破壊されたのを見て、ルシルとゴルドは正門の中へと急いだ。

 敵兵が正門から中に侵入している。

街の中、城までの道のりに、兵士は配属されていない。

王を守るため、最小限の戦力が城の中にいる。しかし、気休め程度だ。


 実際に正門を破壊されると、ルシルには焦りが見えた。

 兵量差。ベルーナへの奇襲作戦が成功し、カーラ将軍が来ないと、

この戦いに勝ち目はない。

ベルーナ帝国に攻め入るのに、カーラ将軍も苦戦しているはずだ。

時間がかかることをルシルは元々、予想していた。

そして、その時間稼ぎが間に合わないかもしれない、と一瞬だけ不安になった。

 しかし、皆カーラ将軍を信じて戦っている。

ここでカーラを信頼せずして、どうして敵に勝ちうるか。


 ルシルは街に入っていくベルーナ兵達を追いかけた。

奥に進ませてはならない。

ゴルドと二手に分かれた。黒い甲冑の兵士の姿は見えない。

市街地戦が始まってしまった。



 レイジスは正門の破壊に成功する様子を見た。

 好機。

住民を巻き込めば、平和気どりのレテシア国は能力が落ちる。

レイジスは急いで正門へと向かった。

正門への、ベルーナ兵の侵入をなんとか止めようとするレテシア兵を斬り殺す。

そのままレイジスは正門目がけて走っていった。


 レイジスは正門まであと少しの所で、ふと立ち止まった。

 なにかがおかしい。

 レイジスは周りを見回している。

 なにがおかしいんだ?

 何も疑問に思うことはないはずだ、とレイジスは思った。

 しかし、直感がなにかがおかしいと言っている。

 なんだ?

 考える。

 この状況に疑問点など……。

 いや?

 ある。おかしい。これはおかしい。


 ベルーナ兵は歩兵部隊で編成されている。レイジスが本都から連れてきたのだ。

しかし、レテシア国の編成がおかしい。騎馬兵が一体もいない。

馬は歩兵に対して圧倒的な有利を持つ。

 なんで、レテシアは馬を出さないんだ?

一匹もいないなんて馬鹿な話があるわけがない。

たとえ一匹しかいなかろうと、追いかけられる兎は出すはずだ。

一匹の戦力でさえ、使うはずだ。


 思いつく可能性は一つだった。街の中に騎馬隊がいる。

 注意しなければならない。レイジスは馬の強さをよくわかっていた。

 不気味さを感じつつも、レイジスは正門をくぐり抜けた。

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