戦線と弓
レテシア本都の戦い。
城門の外。兵士達がルシルとフォージを取り囲んでいる。
ルシルがフォージにいくら話しかけても、動かない。
ベルーナ兵は、ルシルとフォージを取り囲んではいたが、動揺している。
また、ドラゴンが動き出すのではないかと。
そこに、ベルーナ兵をものともせず、突っ込んでくる影があった。ゴルドだ。
ベルーナ兵を蹴散らしながら、ゴルドがルシルの傍についた。
「ルシル!!囲まれてるぞ!!皆と合流しろ!!」
「フォージが!」
ルシルは戸惑っている。フォージを置いてはいけない。
「お前が無茶していたら、ドラゴンは戦い続けるぞ!囲いを突破するんだ!」
ルシルはその言葉に戸惑った。
自分が無茶をしていたから、フォージを危険に晒してしまったのだ。
「ドラゴンなら自分の身くらい自分で守れる!さあ、行くぞ!!」
ゴルドは周りを取り囲んでいる兵達を突破しようと、突撃を試みた。
ルシルは迷った。
しかし、ゴルドの言う通りだと思った。自分がフォージの足手まといになる。
ルシルはフォージを振り返りながらも、無事であるようにと祈りながらも、
ゴルドと共に敵兵の突破を試みた。
指揮官のレイジスを吹き飛ばされた兵たちは、動揺していた。
その隙を突いて突破することは、ルシルとゴルドなら可能だった。
兵達を蹴散らして味方の元へ向かう二人。
相手が混乱していたこともあって、兵達の連携は薄かった。
その隙を突いて、ゴルドとルシルは無事に味方と合流した。
後は戦線を維持する戦いに戻るだけだ。
レイジスは吹き飛ばされて、大変な痛みを味わっていたが、復讐心から再び立ち上がった。
たかがレテシア国に舐められてたまるか、と思った。
全体の戦況をレイジスは見た。
広い視野で見れば、やはりベルーナの兵力が圧倒的だ。
レテシアが正門と思われる門を守っている。
恐らく、中に住人が避難している、とレイジスは思った。
あの正門さえ崩せば、住民を交えた市街戦に持ち込める。
そうすれば、住民への被害を気にして、敵の動きは弱くなるはずだ。
槍使いは無視していい。被害が出ようが、味方を捨て駒にすればいい。
正門を突破しようとしている破壊槌を守れば、門は破壊出来る。
レイジスは兵士達をくぐって、正門に向かおうとした。
しかし、一つの矢がその時、飛んできた。レイジスに命中はしなかったが、
レイジスの立っている位置のすぐ傍に、矢は着地した。
慌てて、矢の飛んできた方向を見るレイジス。
塔が立っているのが見えた。
塔の中から誰かが見ている。
物凄い殺気だった。
塔までは距離がある。
狙ったのか?まぐれか?
弓で狙うには、塔とレイジスの間には距離がある。
しかし、塔の中の人物の殺気が普通ではない。レイジスに弓を向けている。
まぐれのはずだ。この距離で狙えるわけがない。
「なんなんだ、どいつもこいつも……!」
レイジスはベルーナ兵に紛れて弓矢を避けることにした。
思い通りにいかない。
塔の上か、正門か、城壁の上か、どこを狙うべきか、レイジスは一瞬迷った。
しかし、やはり正門だと判断した。住民に対して、レテシア国は気を遣いすぎている。
住民を守るという行為がレイジスには理解出来なかった。
相手の兵士を減らすことだけ考えればいいのだ。連中にはそれが出来ない。
レテシア国は善戦している。
正門は攻撃を受けているが、すぐにレテシア兵が対応して、破壊槌の攻撃を許さない。
城壁にも上がられていない。梯子をすぐに崩すように、徹底して守りが保たれている。
しかし、正門前のレテシア兵たちは、相手の兵量に押されて、少しずつ後退しつつあった。
このままでは、追い詰められて正門を突破されてしまうのも時間の問題だった。
みんな思っていた。カーラ将軍はまだ来ないのかと。
皆、カーラがベルーナ帝国への奇襲が成功すると信じている。
失敗するわけがない、と信じて皆戦っている。
信頼。
レテシアとベルーナの明確な差。信頼する心があるかないか。
人間としての、心の強さが違う。
レテシア兵の士気はまったく衰えていない。
強大な敵を前にしても、一歩も怯まない。
勇気。その言葉が相応しい。
カーラはまだ来ない。
きっと、きっと現れる白馬を待ちながら、レテシア兵は敵に立ち向かっている。
ヒュンフのいる塔の中から戦況がよく見える。ヒュンフは状況を分析していた。
相手の指揮官は赤い髪をした、黒い甲冑の男。間違いない。
一度狙ったが、矢が直撃しなかった。逃がしてしまった。
城壁の上は、確実に大丈夫とはいえないが、まだ余裕がある。梯子は落とせている。
問題なのは正門だった。正門に近づきたがる破壊槌を妨害出来てはいるが、
敵兵の注意が正門に注がれている。
ベルーナ兵の性質が脅威だった。ベルーナはフォーレイを狙った。無駄な侵略行為をしようとした。
正門が突破されれば、街の住民達に被害が及ぶ可能性は高い。
しかし、正門ばかりにレテシア兵の注意が向くと、敵に押しつぶされてしまうかもしれない。
正門は突破されても仕方ない、そう心がけるしかない。
住民達は街の奥だ。市街地戦になっても、奥に進ませなければよい。
街に侵入された時の自分の行動を考えた。
塔の上から外側の敵を撃ち続けるか、塔から降りて市街地戦に参加するかのどちらか。
二者択一。これは、塔の上だろうとヒュンフはイメージした。
住民は気になるが、仲間に任せるしかない。
塔の上から撃ち続けることが、最善の策だ。市街地戦では弓の良さは出ない。
塔の上から外の歩兵部隊を掩護するのが、最善の策。
今のヒュンフは仲間を信頼している。兵達は皆一生懸命戦っている。
ヒュンフは塔に上られた時のことなど、考えていない。
背中を仲間に預けている。それがヒュンフに出来るようになった。
そして、正門前で戦ってる仲間を案じ、弓で必死に援護している。
「死ぬなよ」
ヒュンフは呟きながら弓を構えた。




