鬼神
カーラの騎馬部隊はベルーナ帝国の街の入り口までやってきた。
街には人気が無いように見受けられた。
そして、兵士達が街で警備している様子はない。
出払っている。
「城を目指す!!邪魔をする兵士のみ、斬れ!!」
カーラは号令を出して、街に入っていった。
ベルーナ本都の住民達は驚いた。突然騎馬部隊が侵入してきたのだ。
住民達は驚いて逃げている。叫んでいる者もいる。
カーラ達の行く手を阻む者はいなかった。
城まで一直線、街の中を駆けていく騎馬隊。
全員無傷で、白の手前までたどり着いた。妨害が無かった。
城の手前に、人気はない。
カーラは白馬から降りた。部下もそれに倣い馬から降りる。
ここからは自分たちの足で、城に入っていくのだ。
街に兵士達はいなかった。しかし、城の中にはいると思われた。
室内戦が想像される。しかし、時間を喰ってはいけない。
より素早く、無駄なく、王の首を取らなければならない。
カーラは城の入り口の境界まで歩き、城にはいったタイミングで叫んだ。
「レテシアのカーラ、参る!」
ジャコンは執務室で何をするでもなく座っていたが、城の中に響いた声に驚いていた。
レテシア?カーラ?
わけがわからなかったので、ジャコンは急いで執務室から出た。
嫌な予感がしていた。
通路の階段から下のフロアが見える。
ジャコンは愕然とした。
敵兵に攻め入られている。甲冑の兵士達が侵入している。
何故?
先ほど、レテシアと聞こえた。侵入してきているのは、レテシア兵?
レテシア国は、今頃踏み潰されている最中のはずでは?
ジャコンは明らかに動揺していた。
このまま上がってこられたら、殺されてしまう。
入り口からも逃げられなそうだ。
ジャコンは、急ぎバラージの元へ向かった。
廊下を駆けて、玉座の間へ。
玉座の間には少数の兵士と、玉座に座っているバラージがいた。
玉座の間の兵士達とバラージは、異変に気が付いていない。
ジャコンはバラージの目の前まで走った。
兵士たちが怪訝そうな表情でジャコンを見ていた。
「バ、バラージ様!!」
「ジャコンか……何をしている」
「敵兵が城内に侵入しています!!」
「なに?」
バラージは流石に立ち上がった。
「どこの兵士だ!?」
「レ、レテシアと聞こえました……」
「馬鹿な!レイジスが今攻めている最中ではないか」
「そ、そうなのですが……」
ジャコンはその時、わかってしまった。
おそらく。おそらくだが、陽動作戦だ。
囮だ。レテシア本都を囮にして、その間にレテシアはベルーナを落とそうとしたのだ。
「兵士達を動員しろ!」
「間に合いません!それに、数もいない!」
「なんとかしろ、ジャコン!」
「無理です!出来ることは、逃げるだけです!」
「逃げる?馬鹿を言うな!ベルーナ帝王が逃げてたまるものか!」
バラージの態度に、ジャコンはキレた。
「ベルーナ帝王?はっきり言うが、思い上がりだ!状況もわからんのか!」
ジャコンは迫りくる脅威から、本音を出してしまった。
動揺していたこともあり、しまった、と思ったが遅かった。
怒ったバラージは、ジャコンに近づき、剣を引き抜いた。
「お、おやめくださ……」
バラージは聞く耳を持たず、ジャコンの首をはねた。
ジャコンのあっけない最期だった。
「城内に入った敵を撃退するのだ!私も戦う!」
バラージが周囲の兵達に命令した。バラージは抜いた剣を持っている。
玉座の間には少数の兵士がいる。
少数の兵士たちは、戦う気でいるようだ。
カーラ達は城内に突入した。
「邪魔をすれば命は無いものと思え!!」
カーラの叫び声が響く。
城内には兵士達がいたが、数は本当に少なかった。
突然の侵入者に、心構えもしていない兵達が対応出来るはずもなく、棒立ちの兵士が目立った。
カーラは、この状況は良い、と直感していた。
邪魔をする兵士がいない。完全に不意打ちを出来ている。
カーラは部隊を分けることにした。
「王を探すのだ!見つけ次第、首を持ち帰れ!各自分散!」
カーラの号令を聞いた兵達が別れだした。
カーラは入った広間から赤い階段を上がって、王を探している。
周囲を見る。走って探すカーラ。そこに、敵兵の殺気が向けられた。
バラージの命令を聞いた兵士だった。その兵士が、カーラに襲い掛かってきた。
だが、数は一人。相手にならない。カーラは兵士の胴を一閃して、振り返りもしなかった。
兵士は剣を振る間もなく、廊下に倒れた。自分が何故倒されたのかわからないまま、
兵士は死んだ。
そして次々に、億の部屋から兵士が出てきた。その数、五人。
カーラは直感した。あそこの部屋に王がいるのではないかと。
一対五の状況より、王のいる部屋に気が向いていたカーラ。
兵士達が襲い掛かってくる。
一人目を突き殺す。
突いた剣を即座に引き抜き、下から振り上げる。二人目。
左上から、右に一直線の薙ぎ。三人目。
右上から下に振り下ろす。四人目。
五人目に、足元への剣撃。五人目。
あっという間に五人を片付けた。
そのまま兵士達が出てきた部屋に飛び込んだ。
カーラの視界に玉座が映った。
ここだ。ここに王がいる。
銀髪のバラージが、突然現れたカーラに驚いている。
しかし、すぐに周りの兵士に命令を下した。
「侵入者を撃退せよ!」
バラージは勇ましく叫ぶと、自らも剣を手に取った。
カーラはバラージを見据えている。
この男がレテシア国を攻めた。
無意味な侵略行為。
許せなかった。
カーラの部下はついてきていない。分散している。
カーラ一人しかいない。
敵は右手に五名、左手に四名、真向いにバラージ。
一人で十人を倒さなければならない。
しかし、カーラに怯んだ様子は見られない。
国を攻めるという悪行に対する、怒りのみがあった。
「時間がないのだ」
そう呟くとカーラは左手の四名に斬りかかった。
素早いカーラの剣。
俊足の二振り。兵士が二人倒れた。周りは、反応出来ない。左側が残り二名。
右から五人、慌ててカーラに向かってくる。
カーラは接近される前に、残りの左の二名を切り捨てた。
バラージは怯んで立ち止まった。四人、あっさりとやられてしまったのだ。
右手から、兵士達がカーラを襲う。
兵士の一振りを剣で流すように受け止め、返しで一撃。
兵士が残り四名。
カーラの間合いに入ることに、兵士は怯んだ。怯んでいる兵士を突き刺し、残り三名。
残り三名が倒れるのも早かった。剣こそ抜いていたものの、
それを振るう暇も無く、カーラに倒されてしまった。
結局。カーラは無傷で兵士を全滅させた。
カーラがバラージの方を向く。鬼神のような表情だった。
バラージは初めて、恐怖という存在に直面した。
強い。強すぎる。
死の気配。
バラージにはもう戦う気力は無かった。
目の前に現れた恐怖に対し、逃げようとした。
しかし、カーラがそれを許すはずがなかった。
カーラがバラージに素早く接近。
「言い残すことはあるか」
鬼気迫る表情だった。
「ま、待て、私を殺せば、どうなるか……私はベルーナの王だぞ」
「だから……」
だからどうした、とカーラは思った。
無意味な侵略を兵士に任せ、自分は逃げようとするとは。
話にならない。時間の無駄だ。
カーラはすぐにバラージの首を飛ばした。
首が足元に転がり落ちる。
カーラに返り血がついたが、状況は、一刻も早く、城を出なければならなかった。
仲間たちが待っている。
首をカーラは拾い、急ぎ部屋を出た。
「王の首を取った!!帰還するぞ!!皆が待っている!!」
部屋を出て大声で叫ぶ。
これにより、ベルーナ国の王は死に、跡継ぎはいなくなった。
ベルーナの圧政が終わった瞬間だった。
カーラは急ぎ、入り口の馬の元へ向かった。
部下を全員合流させてから帰還したいところだったが、
城内に部下は分散している。
声の届く範囲の部下だけ集め、とにかく早く出発する必要があった。
「出発するぞ!!一刻も早く、このことを敵と本都に伝えるのだ!!」
カーラはもう一度叫んだ。
城の入り口に置いてきた白馬に乗る。
部下たちは少数、ついてきている。
レテシア本都へと、カーラ達は急いだ。




