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竜の本望  作者: 夜乃 凛
本都決戦
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竜の本望

 ベルーナ兵達は、レテシア本都に接近している。

ベルーナ兵から、レテシア国の展開された部隊が見える。


 街の中に立てこもるのかと思われたが、外に展開している。

歩兵部隊だ。馬の姿は見えない。



 すぐに戦いが始まった。

レイジス率いるベルーナ兵が叫びを上げ、レテシア部隊に突撃。


 規模はベルーナ兵の方が多い。当然だ。

剣と剣、甲冑が激突する音が聞こえだした。



 乱戦になると思われた。ルシルは、ゴルドと離れて戦っている。

ルシルは華麗な槍捌きで、相手を蹴散らしている。

レテシア弓兵は相手の後衛を狙っている。味方に当ててはならないからだ。


 ゴルドもまた、斧で敵を蹴散らしている。

鬼気迫る戦いぶりだった。

ゴルドは今度こそ全力を出す気でいたし、その通り全力を出すことが出来ていた。

 ベルーナ兵の兵量に負けていない。

しかし、ルシルとゴルドが倒れない。

一騎当千の勢いで、敵に遅れを取っていない。


 一方、ベルーナ兵は、レイジスが自慢の剣の腕で活躍していたが、全体的にキレがない。

とはいえ、兵量ではベルーナ兵が勝っていた。いずれはレテシア兵が突破されるのも、時間の問題である。



 レイジスは視野を広くして、戦場を見た。

圧倒的に強いヤツが二人いる。槍と斧だ。

指揮官だろうか?いずれにせよ、殺してしまえばいい。


 レイジスの剣では槍に対して不利だ。斧の兵士を狙うことにした。

レイジスは乱戦になっている兵士達の間をするりと抜け、ゴルドに接近した。


 ゴルドは直感で察した。誰かに狙われている。

黒い甲冑の兵士が、とても速く近づいてきている。


 ゴルドは狙いをその兵士に絞った。相手はただの兵士ではなさそうだった。

 レイジスが勢いよくゴルドに切りかかった。

ゴルドはしっかりと相手の太刀筋を見極めて、斧で防御した。


 レイジスは驚いた。斧にしては相手の動きが速い。そして、相当な力だ。

防がれたあと、剣を横に一閃。今度はゴルドは引いて避けた。


 ゴルドは斧を素早く振り、風を揺らす。

レイジスも引いて回避し、今度はまっすぐに剣を突いた。


 危うく直撃しかけるその一撃を、ゴルドは右に動いて回避した。

ゴルドは危機感を覚えていた。この兵士は強い。そう思った。


 しかし、もう以前の自分ではない。

戦う自信が、勇気があるのだ。


 ゴルドとレイジスの戦いは、レイジスが有利だった。

ゴルドの腕力も相当なものだが、レイジスの動きが速い。

ゴルドは確実に押されていた。


 とはいえ、レイジスも油断は出来なかった。

斧とは思えない速さの一撃を喰らったら、間違いなく致命傷だ。


 ゴルドとレイジスの間には、緊張感があった。


 睨み合う二人。

明らかに、お互いに相手だけを見ていたが、人が入り乱れて、互いの姿が見えなくなった。

ゴルドはたった一人に注意を向けすぎた、と思ったが、

倒さなければならない相手だったとも思った。


 黒い甲冑に赤い髪。実力は確かだ。もしかすると、指揮官かもしれない。

だが、無理して倒しに行くよりは、味方の安全、連携を重視すべきだと判断したゴルド。

窮地に立たされている仲間の傍に寄り、敵を蹴散らす。


 目的は時間稼ぎと防衛なのだ。

ゴルドはルシルが気になった。ルシルの姿はゴルドの視界からは見えない。

だが、ルシルの腕前ならそう簡単にやられるはずはない、と思いながら武器を振るった。



 ルシルは仲間と連携しながら、敵を蹴散らしている。

誰もルシルの槍の間合いに近づけない。

勇み足でベルーナ兵がかかってくるが、ルシルには届かない。


 ルシルの力は仲間を勇気づけた。これなら、持ちこたえられるかもしれない。やはり英雄だ。

弓兵と投石部隊も健闘している。着実に敵に直撃を与えている。

ベルーナ兵は焦っていた。足並みの揃わないベルーナ兵。

対して、相手、レテシア兵からは、何か、気迫のようなものが感じられる。

たかが弱小国、と侮っていたはずのレテシア国が強い。


 わからない。

 何故自分たちが押されている感覚になるのかがわからないベルーナ兵。

違いは明らかだった。

レテシア兵は信念のために戦っている。

対して、ベルーナ兵には何もない。

ただ、命令にしたがっているだけ、名誉のため、自分のため、

そのいずれもが信念に敵わない。


 しかも、ドラゴンまで存在しているのだ。自分たちはレテシア国のことを何も知らなかったと思い知らされるベルーナ兵。

戦場での焦りは命取りとなる。怯んだベルーナ兵に追撃を加えるレテシア兵達。



 街の中の住民は祈りを捧げていた。

自分たちを守ってくれた勇敢な女性。そして、身を犠牲にしてくれたドラゴン。

感謝の祈りと、どうか勝ってください、という気持ちで祈っている。

レイアも住民達と一緒に祈っていた。皆が無事に帰ってくるように。

その祈りに応えるかのように、レテシア兵は戦っている。

レテシア兵達の士気はさらに上がっていた。

善戦出来ている。

これならば、カーラ将軍が帰ってくるまで持ちこたえられる。そう思った。


 しかし、ベルーナ兵にはレイジスがいた。

ゴルドに手間取ったレイジスだったが、今は誰もレイジスを狙っていない。

レテシア兵に素早く近づき、剣で一閃するレイジス。

味方がやられた、と周りのレテシア兵がレイジスを倒そうとするが、

レイジスに武器が当たらない。回避されてしまう。


 レテシア兵は少し怯んだ。この、黒い甲冑の兵士の実力は、只物ではないと思った。

レイジスは順調にレテシア兵の数を減らしていく。



 誰かがレイジスを止めなければならない。

戦場の様子を見ていたルシルが、レイジスの存在に気が付いた。

一人だけ異常だ。一人だけ、とても強い。


 野放しにしてはならないと判断したルシルは、レイジスに向けて突進した。

レイジスが野生の勘、と思えるような直感でルシルの方を振り向いた。

また一人、死にに来た。レイジスはそう思った。



 だが、それはレイジスの思い上がりだった。

ルシルは槍で先制した。鋭い突き。

レイジスは驚きながら身をそらした。

速い。こんなに速い突きは見たことがない。

レイジスが身を翻し剣で払おうとしたが、簡単に槍で受け止められた。

そのまま剣を払われ、左上から槍の一閃。レイジスは後退する。

そしてまた突き。腹に当たりそうだったが、ギリギリで避けるレイジス。


 レイジスは最強の剣士と言われていた。

実力があるが故に、わかった。この槍の戦士は、一、二を争うくらい、厄介だ。

一番倒すべき相手、本命はこの槍の戦士だと、レイジスは思ったのだ。

槍と剣の相性差が無ければ、まだわからないが、剣と槍という現実が立ちはだかっている。

剣同士でも負けるかもしれない。



 レイジスは苛立った。自分がこんな簡単にいなされてたまるものか、と。

それに、相手の目が気に入らなかった。

とても強い眼差しをしている。

怯えなど、まったく感じられない。

兎の分際で、レテシア国は諦めていないのだ。

気に入らない。何がレテシア国を動かしているのかが理解できない。


 レイジスはルシルに斬りかかった。

 槍で受け止めるルシル。

 しなやかに、槍の右薙ぎの反撃。

 レイジスは避ける。

 剣の間合いに持ち込めば有利だ、というレイジスの思惑。

 近づくまでが、鬼門だ。

 高速の突きが、とにかく厄介。

 薙ぎは見えるが、突きの速さ。一撃で負けてしまう可能性もある。

 レイジスは一旦、冷静になった。これは戦争だ。

 敵に対して、有利な武器で戦えばいい。

長槍と弓矢で殺せばいい。俺は負けていない、レイジスはそう思った。


「金髪の槍兵を殺せ!!」


 レイジスの号令が響いた。

 ベルーナ兵達がルシルの方を向く。


 その声はゴルドにも聞こえた。

狙われている。ルシルが狙われている。

 ゴルドは急いでルシルの元に向かおうとしたが、

ゴルドの周りにも敵兵が多くおり、その相手で手一杯。


 ルシルは、自分が狙われていることがわかった。

 そして、同時にわかったことがある。目の前の黒い甲冑の男が、指揮官だ。

この男がフォーレイを襲わせ、リーンを殺したのだ。

 本来、弓と槍に狙われていたら、すぐに的になってしまう。

だが、ルシルは構わずにレイジスに突っ込んだ。

こいつだけは生かしておいてはいけない。そう思った。


「馬鹿野郎!」


 塔の上から見ていたヒュンフが思わず叫んだ。

ルシルが完全に囲まれている。

いかにルシルとて、囲まれてしまってはどうしようもない。

ヒュンフは矢で援護しようとしたが、絶対にあの囲いだけは破れないと思った。数が多すぎる。


 ゴルドがどこかにいるはずだ。ゴルドにルシルを任せるしかない。

 しかしゴルドは敵兵を突破できていない。

ルシルは周りが見えていない。

レイジスが、これで殺せる、と思ったその時だった。

 フォージが城壁の上を飛んで、正門の外に現れた。


「ドラゴン!?嘘だろ!?」


 レイジスは驚いてしまった。完全に予想外だった。

あのドラゴンが戦えるはずがない。もう瀕死のはずだ。

ただでさえレテシア国ごときに苦戦しているのに、ここでドラゴンに参入されたら、

突破など不可能だ。

 そうレイジスが思っていると、フォージはルシルの傍に舞い降りた。


「フォージ!来るなと言っただろ!死んでしまう!逃げるんだ!」


 ルシルは慌てている。フォージは絶対安静なのだ。

戦うことはおろか、飛ぶこともだめなのだ。


「周りをよく見るのだ」


 フォージは弱々しい声でルシルに語りかけた。

 ルシルは言われた通り、周りを見た。

ドラゴンの存在に怯みつつも、兵達がルシルを囲んでいることがわかった。


「お前と出会えてよかった。生まれてきてよかった」


 フォージは小さい声で言った。

周りの敵兵はドラゴンの存在に動揺して、動きが止まっている。

 フォージは再び、少しだけ宙に浮いた。

本来あり得ない。もう死んでいてもおかしくない。


 だが、フォージは飛んだ。ルシルのために飛んだ。

そのままレイジスめがけて突っ込んだ。

 レイジスは予想外の行動に、回避行動が取れなかった。

 フォージがレイジスに激突。

 レイジスは激しく飛ばされた。


 飛ばされながら、レイジスは思った。

 何故?

 なんのためにドラゴンは戦ってるんだ?

 他人を守ってどうするんだ?

 瀕死なのに何故逃げない?

 レイジスはわからなかった。まったくドラゴンの行動がわからない。

 レイジスは地に強く叩かれた。

 フォージは突進してから、動かない。止まっている。

周りのベルーナ兵はさらに動揺している。指揮官がドラゴンの攻撃を受けたのだ。


 ルシルはフォージに駆け寄った。

本来、ここでルシルは逃げなければならなかった。

動揺している兵達の間をくぐり抜け、味方と連携することが大事だった。

 だが、ルシルはフォージが限界を超えるのを見ていられなかった。


「フォージ!」


 ルシルは叫んだ。

 返事がない。

 フォージは目を閉じており、口も閉じている。


「フォージ!フォージ!」


 何度もルシルは呼び掛けた。

しかし、返事はない。少しも動かない。

倒れこんだフォージは、死ぬ一歩間際だった。


 そして、死ぬ瞬間に思った。本望だった、と。

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