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竜の本望  作者: 夜乃 凛
戦乱の予兆
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守備徹底の構え

 自警団本部の外の広場。

草はなく砂ばかりが広がっている殺風景な場所に、自警団の人員が集まっている。


 規模は三百人弱。

天気は快晴。敵の侵略などとは程遠い、綺麗な空。


「本都にはルーベルに報告に行ってもらっている。

本都に連絡がつけば、本都も警戒し兵を集めるだろう。しかし、敵の進軍が急すぎる。

どこかで相手の足止めをしなければならない」


 ルシルは皆によく聞こえるように、大声で話している。


「まず僕がドラゴンに乗って、相手の注意を引く。

この城塞都市に脅威があるように思わせるんだ。そしてここに誘い込む」


 ルシルの隣には大きなドラゴンが座っている。

言葉は喋らず、黒いその鱗は太陽の光を浴びて輝いている。

金色の眼が時折ギロリと周りを向いていた。


 ドラゴンは伝説上の存在だが、

この大陸に一体のみ存在するそのドラゴンは、ルシルに懐いている。

 別の大陸からルシル達の大陸に現れたドラゴンは、傷を負いながら海を渡ってきた。

苦しそうにしているドラゴンを発見したルシルが手厚い看護をし、

ルシルはその代償を別に求めなかった。

 

 犬が怪我をしているのを助けるのと同じことだったのだ。

それ以来ドラゴンは何かとルシルについて回り、背中にも乗せてくれた。

竜に乗るのにも慣れ、竜騎士とルシルは呼ばれている。


 人の言葉がわかるらしく、たまに喋る。ルシルと以心伝心である。

ドラゴンには名前があったらしく、フォージという。


「兵を誘いこんだら、ひたすら防戦に徹する。この作戦の目的は勝つことじゃない。

負けなければいい。ルーベルが本都についたら、本都も兵を出してくれるだろう。

本都の守りも固くなる。時間稼ぎだけを考えてくれ。死なないでくれ!国を守るぞ!」



「バラージ様、レテシア国への侵攻、始まりました」


 ジャコンが満面の笑みで玉座に座るバラージと向き合っている。


「ご機嫌だな」


 バラージは険しい表情だ。


「あ、いえいえ、そんなことは……ベルーナ帝国の繁栄が嬉しゅうございまして」


「ふん……それで?侵攻の報告だけか」


「え?はい、そうでございますが……」


「くだらぬ用で顔を出すな。侵攻が始まっただけではないか」


「申し訳ございません」


 ジャコンは慌てて、深く頭を下げた。

若造が……。ジャコンは心の中で舌打ちした。


「制圧が完了次第顔を出せ」


「かしこまりました」


 ジャコンは姿勢を戻し、玉座の間を後にした。

ジャコンは思った。

まったく、癪に障るガキだ。

 ジャコンは怒りの矛先をどこかへ向けようとしていた。

そうだ、兵士の家族の処刑がまだだった……。

ジャコンは嬉々として廊下を歩いていった。



 ルシル達の城塞都市。

その城壁側で自警団のメンバーが防衛準備をしている。

扉を固くし、弓兵隊が上で射る準備をし、突破された場合に備えて歩兵部隊が扉の裏に展開している。

 ルシルとヒュンフは今、弓兵隊のいるところ、つまり城壁の上にいる。


「弓兵隊の指揮はヒュンフに任せる、いいよな?」


「ん……」


 ヒュンフは少し考えこんだ。


「問題あるか?」


「……ない」


「何か考えていたよな」


「俺は指揮をするよりも撃ち続けていた方が効率的かと思っただけ」


「なるほどな……。しかし、指揮官は必要だ。任せる」


 ルシルはヒュンフを相手にすると、砕けた口調だ。

二人は幼馴染であり、気の置ける存在なのだ。


「弓兵隊の指揮は引き受けるが、お前はどうする?」


「ドラゴンに乗って敵を引き寄せて、そのまま戦う」


「油断するなよ。ドラゴンが固いとはいえお前が落ちたら終わりだぞ」


「大丈夫。弓に気を付けて、長槍に引きずり込まれなければ」


「歩兵部隊は?」


「ゴルドに任せる」


「うってつけだな」


 ヒュンフは砦の向こう、ベルーナ帝国が来るであろう方向をちらりと見た。

ルシルもつられて同じ方向を向いた。

ヒュンフは目が良い。


「ヒュンフ、見えるか?」


「幸いなことにまだ見えない」


「歩兵部隊のところにいってくる」


「了解。俺は弓兵隊と話してくる」


 二人は城壁の上で別れた。

ヒュンフは弓をくるくるさせながら弓兵隊の元へ、

ルシルは石造りの階段を降りゴルドのところに向かった。


 一階ではせわしなく自警団の兵士が行き交っていた。

その中からゴルドの姿を見つけ、ルシルが歩み寄る。


「ゴルド、どうなってる?」


「勇気のある連中が多い。大門が突破されても、これならある程度は持ちこたえられるかもしれない。

だがある程度だな。弓兵隊に期待しねぇとな……弓兵隊はどうなってる?」


「ヒュンフが指揮する」


「妥当だな。投石器は?」


「レイアが指揮を執ってくれて、順調に進んでる。投石器なら、と助けてくれるみんなのおかげだ」


「レイアか……俺たちが敵を止めねぇとな……」


 ゴルドは悲しそうな顔つきで言った。

 彼は、昔恋人がいた。

仲睦まじく、結婚する予定だった恋人。

その幸せの日々は破れて消えた。

家に押し入った一人の強盗に彼女は殺されてしまった。


 ゴルドには強盗に勝てる自信があった。

しかし、彼女を人質に取られ、何も出来なかった。

あの時、怯まずに戦えば、彼女は死ななかったかもしれない。

守れたかもしれない。

守れたかもしれないのに。

ゴルドは悔いて生き続けてきた。

ゴルドの腕は確かである。

しかし、戦うことに自信がないのだ。


「ゴルド、頼む、死なないでくれ」


「それは俺の台詞だ」


 ゴルドはルシルの肩を強く叩いた。


「死ぬなよ。お前が一番敵に接近するんだ」


「死なないよ。レイアに伝えていないこともあるんだ」


 ルシルは真剣な眼差しだった。


「そうか。なら今行ってこい」


「え?」


「まだ敵は来てないんだろ?」


「そうだけど……」


「弓兵隊は準備完了、投石器も準備完了、歩兵部隊も万事良しだ。行くなら今しかないぞ。行ってこい」


「わかった」


 ルシルはゴルドに背中を押され、レイアの元へと歩き出した。

 城塞の構造は地続きの一階、投石器のある二階、外を見下ろせる城壁の上の三階である。

二階へと階段を上がるルシル。

階段で数人の兵士とすれ違った。

みんなの準備が慌ただしいが、守りの形は確かに出来てきている。

二階にやってきたルシルはすぐにレイアの姿を見つけた。

レイアは投石器の石を細かく確認していた。


「レイア」


 ルシルはレイアの元に駆け寄った。


「ルシル?また会いましたね。どうかしましたか?」


「えっと……」


 ルシルは腰に下げた袋を開いて、中から物を取り出した。

指輪である。


「これを受け取ってほしい」


「これは……」


「レイア、死なないでほしい。こんなことになるなんて思っていなかったけど、

今言いたい。好きだ。一緒に暮らしてほしい」


「ルシル……」


 レイアは指輪とルシルを交互に見つめている。


「だめかな?」


「いえ……嬉しい。とっても嬉しいわ。でも……」


「でも?」


「ルシル、死なないで帰ってきてくれる?」


 レイアの目は潤んでいる。


「絶対に死なない。生きて君の所に帰ってくる。約束する」


「約束よ」


 レイアはこぼれた涙を拭い取った。


「戦いが終わったら、もっと話せる。必ず国を守り抜こう。どうか無事で」


 ルシルはレイアに別れを告げると、城塞の上へと階段を上った。


 レイアは、とても嬉しかった。

ルシルの事を、想い続けていた。

関係が崩れてしまうことを恐れて、何も言い出せなかったレイア。

 本当は戦うことも怖い。

みんなは、レイアは勇気があるという。

しかし、それは虚勢なのだ。本当は、弱虫なのだ。

人目ばかり気にして、人に嫌われまいとしている。

リーンのような正直な人が羨ましいし、素敵だと思える。


 敵が来る……。

レイアは頭のスイッチを切り替えた。

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