レテシア最強の騎士
レテシア国にて。
国境の砦。最初にベルーナ帝国の接近を察知した砦。
その砦に、カーラの騎馬部隊の一員が待機している。
ベルーナ帝国が再び侵攻して来た時、真っ先にカーラに伝えるためだ。
相手が動いてきた瞬間に、レテシア国も攻めなければならない。
カーラの攻めが通用しなければ、時間切れでレテシア国が負けてしまう。
その攻めるタイミングを測る、最も重要といってもいい拠点、国境の砦。
見張りは緊張しながら、交代交代で監視を続けていた。
砦全体に情報が行き渡っている。絶対に見逃してはならない、という緊張感。
その緊張の糸が、蜘蛛の糸が切れるように簡単に切れた。
「来たぞ!!」
見張りの兵士が叫んだ。
砦の上にいた十名ほどの兵士たちが、一斉にベルーナ帝国の方角を見た。
来ている。赤い群れが移動している。大分距離があるが、間違いない。
砦の上の兵士は、真っ先に騎馬部隊の一員に声を掛けに行った。
急ぎ足で兵士達が動く。
兵士は、砦下にて待機していた騎馬部隊に駆け寄った。
「ベルーナ帝国が動いたぞ!!早く伝令を!!」
騎馬部隊に緊張が走った。
そして、瞬時に早く発たねばならないと察知。
「了解!!」
騎馬兵はレテシア本都に向けて走り出した。
俊敏に走る騎馬兵。
ベルーナ帝国の赤い群れは、徐々に移動している。
レテシア国本都では、防衛の準備が完了していた。
門を固く閉じ、カーラの騎馬部隊は本都の外に待機している。
いつ攻めてくるかわからないため、裏口を城壁に設置してある。
相手が気づく可能性は低く、そこから兵の出入りが出来る。
門を突破しようとする相手を、城壁の上、また幾つも並んだ塔の上から迎撃する。
門が突破されるまでが鍵だ。ドラゴンの戦力を最大限に活かすには、市街地戦より外が良い。
カーラは目を伏せていた。
昔の記憶が頭を掠めていた。
身を守るために剣を習った。そうしなければ、生きていけなかった。
カーラの両親は悪党からカーラを守るために死んでしまった。カーラは己の無力を嘆いた。
ずっと一人だった。武術のみが上達し、虚しかった。
しかし、武術を披露する場所で活躍し、レテシア国王に呼び出された。
王はカーラの身の上を聞くと、涙を流した。
その涙が何故か、何故かカーラの心に刺さり、カーラも涙を流してしまった。
そして、王はカーラに、国のために尽くしてみないか、と持ちかけた。
カーラは了承した。誰かの役に立つために剣を振るう日が来るとは思っていなかった。
そして、カーラは騎士になった。圧倒的な実力から、周りから賞賛された。
悪党を退治すると、住民は何度も頭を下げてカーラに礼を言った。
住民を守れた時、カーラはとても嬉しい気持ちになった。不思議な感覚だった。
カーラはやがて将軍の地位に選出され、周りは皆賛成した。
兵と民はカーラを信頼し、またカーラもその期待に添えるべく努力を重ねた。
そして、今培ってきた力を発揮しなければならない場面になっている。
カーラは目を開けた。
そして、カーラの視界に馬が映った。
カーラの指揮する騎馬兵だ。
ピリッとした緊張がカーラに走った。
来る。あの騎兵が戻ってきたということは、敵が来ている。
「皆、進軍の準備をせよ!馬が戻ってきたぞ!」
カーラは号令をかけた。
この作戦に失敗するわけにはいかない。
カーラ達の速さ次第で、死者が増える。
速く、速くベルーナ帝国本都を落とさなければならない。
そして、王の首を持ち帰らねばならない。
レテシア本都がいつまで持つかわからない。
カーラは静かな水面のような冷静さと、鬼神のような殺気を持っている。
あの馬が帰り次第、進軍だ。
国を守る皆を信じて、迅速に作戦を成功させるしかない。
レテシア本都内にて。
街の中にいるルシルとフォージが会話している。
珍しくフォージからルシルに話しかけていた。
「敵が来る前に言っておくことがある、ルシルよ」
「どうした?」
「この大陸では……たくさん、楽しい思いをした。忘れない」
「フォージ……?旅に出れば、もっとたくさんの物が見れる。この戦いを乗り切れば」
「乗り切れば、な……」
フォージは目を瞑ってしまった。
その後、フォージは黙ってしまった。ルシルも同じように沈黙してしまう。
ルシルとフォージがこんな雰囲気になったのは、初めてだった。
一体なんだろう、とルシルが思っている時に、声が響いた。
石造りの城壁の塔の上からだ。
「騎馬兵が帰ってきた!!」
ルシルを含め、街の中で待機していた皆に緊張が走った。
騎馬兵が帰ってきたということは、敵の侵攻を発見して戻ってきた可能性が非常に高い。
騎馬兵が戻り次第、出発した相手の兵達の隙をついて、カーラの騎馬部隊が出撃するはずだ。
いよいよ始まる。背水の陣の陽動作戦の第一歩だ。
敵兵をレテシア本都で迎え撃つのだ……。
ルシルはフォージに再び目をやった。
フォージは目を開いており、その顔がルシルの心に妙に染みついた。
穏やかな顔だったからだ。フォージは何かにふけっているかのように、穏やかな顔だった。




