戦術
リーン達はフォーレイへと向かっている。
住民たちは、どこか不安そうに見える。
当然だ。
本都で戦いが始まるのだから……。
リーンは周りを励ましながら歩んだ。
仲間たちの勝利を願おう、と。
リーンも仲間たちのことが心配だったが、先頭を歩く自分が弱気ではいけないと、
立派に先導役を果たしていた。
リーンはフォーレイ周辺をよく知っている。道に迷うことはなかった。
草原しかない光景に、街が見えてきた。
フォーレイの街はもうすぐそこだ。
あと一息だから、頑張ってと、リーンは住民を励まし続けた。
そして、リーン達はフォーレイにたどり着いた。
大規模な群れがフォーレイに接近したので、
フォーレイの街のみんなも、リーン達が来たのだとわかった。
リーン達が来るのをみんな出迎えてくれた。
「おお、来たかリーン!この方々が住民の皆さんだな。ささ、街に入るといい。もてなしの準備はしてある」
出迎えてくれた男の一人が言った。どうやら、リーン達住民の歓迎をしてくれるようだ。
思っていたより深刻な雰囲気ではなく、長い旅を終えた旅人を祝福するかのように、
フォーレイには明るさが灯っていた。
「ありがとう!お世話になります」
リーンは代表して、礼を述べた。
「堅苦しいことはいいんだよ。さあ、歓迎会をしよう」
リーンが前回来た時とは街の雰囲気が違って、街の建物の外に、たくさん食材が並んでいた。
フォーレイは豊かな街だ。農作物などがよく取れる。
どうやら、住民達が来るのを待って、食料を用意してくれていたようだ。
フォーレイの温かさにリーンは胸が熱くなった。
住民も、フォーレイの温かい雰囲気に、安心を感じた。
食物の焼ける匂いがし始めた。
「みなさん、好きなだけ食べていいですからね」
街の女が笑顔で住民に語りかけている。
場は華やかになった。フォーレイの人々がみんなに食べ物を食べさせている。
フォーレイの作物を食べた住民は、感嘆の息を漏らした。
子供たちも喜んでいる。みんなの不安は明らかに薄らいでいた。
当面、食料の心配はない。住処も確保出来た。
リーンは肩の荷が少し下りた気がした。
なんとか、皆の無事を確保したのだ。
後はルシル達が、勝ってくれることを願うのだ。
ベルーナ帝国本都にて。
本都に兵たちが集結しつつあった。
その中でも一番やる気があるのは、ジャコンの部隊だ。
その他の部隊は、そんなに士気は高くない。
ジャコンの部隊はレイジスの指揮下に入っている。
全体として兵量は多いのだが、新王の政治に疑問を持っているものが多い。
ジャコンが巧みにレテシア国を敵視するように仕向け、
また事実として、レテシア国にドラゴンがいるということが、兵力を増やすきっかけとなった。
ドラゴンに対抗するのは、バリスタと鎖である。そのための部隊も既に編成されていた。
レイジスは最後の偵察部隊が帰ってくるのを暇そうに待っていたが、
その部隊が帰還して、暇な時間は終わった。偵察兵が報告に来た。
「レイジス様、レテシア国本都ですが……城壁に阻まれ内部は見えませんでした。しかし、ドラゴンが空中を飛んでいました」
「そう。周囲に異常は?」
「いたって普通でした」
「結構。下がってよろしい」
「はっ!」
兵士達は言われた通りに下がっていった。
レイジスは思った。やはり本都に兵力を集中させている。
ドラゴンの脅威。犠牲が出ると思った。城門を突破する前が一番危ない。
街の中にさえ入ってしまえば、兵量で押せる。
しかし、城壁突破前のドラゴンの動きが気になる。
突破に時間をかけてしまっては、その時間だけドラゴンの攻撃を受けることになる。
レイジスは、まあ、来るだろうと思っていたが、やはりドラゴンは厄介だ。
城壁の突破部隊を少し増やそうと思った。
市街地戦に割く戦力を少し減らすことになるが、構わない。
全ての偵察部隊が帰ってきた。
レイジスにとって、フォーレイを攻めるのは遊びのつもりだったが、案外策にもなるかもしれない。
レテシア国の連中を、城壁の中から引きずり出せるかもしれない。
城壁を捨ててベルーナ帝国と戦う馬鹿とは思えないが、可能性はある。
第一の目標はフォーレイだ。




