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竜の本望  作者: 夜乃 凛
赤い悪魔のレイジス
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フォーレイの人々

 翌日。

リーンは本都から離れていた。

本都からフォーレイへ、住民の避難をしたいことを伝えるため、

また、フォーレイの様子を伺うために、リーンが故郷であるフォーレイに向かうことになったのだ。


 リーンは馬に乗りながら草原を駆けている。

馬に乗るのが得意というわけではないが、下手でもない。普通に乗れるのである。

揺れる天秤のように危なっかしい乗馬ではない。


 リーンは駆けながら、故郷へと思いを馳せていた。

幼いころからフォーレイで育った。

周りはみんな優しかったし、緑がたくさんあってとても静かな場所だった。


 リーンが大きくなった頃、じっとしていられないリーンは、

旅に出たいとフォーレイのみんなに言った。

皆からは心配されたが、大物になるから大丈夫、と大見栄を張って、

自警団のいる街に移ったのだった。


 皆、元気にしているだろうか。リーンは想像する。

また昔のように、美味しいお菓子を出してくれるだろうか。

 こんな形で街に戻るとは、不思議な気持ちだった。

もしかしたら怒られてしまうかもしれない。


 リーンの両親はもう亡くなっているが、街のおばあちゃんが、心配かけて!と言っている姿が目に浮かぶ。

怒られたらどうしようかな、とリーンは楽しい気持ちになりながら馬を飛ばした。



 フォーレイの街は深い緑に囲まれている。

樹々は美味しい果物を熟させ、また、畑などもある。

街の中を横断するように川が流れている。筏で遊べそうだ。

 城壁のような類の防衛設備は無い。

建物は木で作られたものが並んでいる。

とても和やかで、住民達も穏やかな顔つきの人が多い。


 リーンは馬に乗りながら、フォーレイの街にたどり着いた。

入り口に木の柵が横に並んで立っている。

リーンはフォーレイの様子を見る。昔と、何も変わっていない。


 馬から降りて、リーンは柵の間からフォーレイの街に入った。

すぐそばにいた中年の男性が、リーンに気がついた。

 男性は麦わら帽子を被っており、肌が黒かった。

男の顔は一瞬の後、驚きの顔に変わった。


「お前、リーンか!?」


「リーンだよ!ただいま!」


 リーンは笑顔でガッツポーズをした。



 フォーレイは大騒ぎになった。リーンが帰ってきたと、

麦わら帽子の男は町中に触れて回った。

 とても小さな子供は首を傾げていたが、

それ以外の住民が押し寄せてきて、リーンを囲んでいる。


「今まで何をしていたんだ?」


「上手く生活出来ていたのか?」


「今何をしているんだ?」


「この街に戻るのか?」


 質問の嵐。

リーンはうむうむと頷きながら皆の質問に答えている。


「私は遠い町で自警団をやっているんだよ」


 そう言うと、住民たちはざわついた。

自警団……?

あのリーンが……?

リーンに出来っこないというような反応にリーンは頬を膨らませた。


「自警団です!今日は、みんなに相談があって帰ってきたんだよ……」


「相談?」


 麦わら帽子の男が首を傾げた。


「うん。驚かないで聞いてほしいんだけど、ベルーナ帝国がレテシアに攻めてきたんだ」


 周囲から驚きの声が漏れた。ざわついている。

本当なのか?ベルーナ帝国?本都は?国は?

皆、それぞれに口にしている。


「みんな、落ち着いて!ベルーナ帝国は追い払ったの。でも、また攻めてくる。それで……」


「お、追い払った?それで?」


 みんな動揺している。


「本都で決戦になるんだ。だから……戦いに巻き込まれないように、この街に、住民を避難させてほしいの」


「ここしか逃げ場がないということか?」


「そうなの」


 場が静かになった。突然の静寂にリーンは緊張した。

断られるかもしれない……。そうしたら、どうしようかと迷った。

 しかし、リーンの心配はまったくの杞憂だった。


「わかった。リーンの頼みだ、それにそんな人達を放ってはおけないな」

 麦わら帽子の男は心地よい笑顔で言った。

「みんなもいいよな?」

男は周囲に呼び掛けた。

周りも賛同の声を上げている。

 リーンの目は少し潤んでしまった。

 みんな、優しいんだ。

 フォーレイに生まれてよかった。

 温かい。


「おいおい、何を泣いているんだリーン」


 周囲の街の人々は笑っている。バンバンと肩を叩かれるリーン。


「ごめんね、なんか、その……ありがとう」


 リーンは礼を言った。


「いいんだよ」


 周りの人々は優しい顔だった。


 

リーンはフォーレイに退避させてもらう約束をすると、

すぐに馬に乗って本都へと帰還し始めた。

 久々の故郷で、少しゆっくりしたい気持ちもあったが、早めに連絡しておいた方がいいはずだ。

これで住民は安全だ。戦うことは出来ないけど、やれることをやる。


 後は、ルシル達がベルーナ帝国に勝ってくれることを祈るしかない。

リーンは不安だった。仲間を失うのが怖い。

自分の手が震えていることに気が付いたリーンは、ぎゅっと手を強く握った。

信じなきゃ。ルシル達なら絶対に大丈夫。

リーンは正面を見据えたまま、馬を飛ばした。

正面以外は見ていなかった。


 リーンは、リーンを目視している人間に気が付かなかった。

リーンを見ていた謎の兵士は、リーンを見届けると、馬に乗ってそっとその場を後にした。

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