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竜の本望  作者: 夜乃 凛
赤い悪魔のレイジス
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剣撃三閃

「カーラ将軍って、なんであんなに味方に信頼されてるの?」

 リーンが草むらに座っている。

目の前には穏やかに川が流れ、時間の経過が遅くなる感じがした。

前には深い森が広がっており、じっと見つめていると飲み込まれてしまいそうだ。


 リーンの隣にレイアもちょこんと座っている。


「ゴルドが呟いていましたが……なんでも、この国で三本の指に入るほど強いとか」


「ええ!?最強じゃない!ちょっと抜けてる人くらいにしか思ってなかった……」


「ゴルドが言うのだから間違いないでしょうね。不思議です……」


「カーラ将軍は剣を身に着けてるよね。あれを、ひゅんひゅんっと、振るって戦うのかな……」


 リーンは手に顎を乗せ、想像している。

見た目も立派なカーラ将軍だが、どうしても、戦っている姿が想像出来ない。


 二人はそのまま穏やかに川の前に座っていた。

話したいこともたくさんあったが、何故か、目の前の川に癒されるのだ。


 噂をすれば影、という言葉がある。

草むらに座っている二人の元に、カーラがやってきた。


「あれ、お二人、何を?」


 カーラが驚いている。服は甲冑ではなく、真っ白い服だった。剣は腰に下げている。


「うわあ!びっくりした……こんにちは、カーラ将軍」


 リーンはのけぞりそうになっていた。


「お世話になっております」


 レイアが深く頭を下げた。礼儀正しい。


「こちらも驚きました。思考が凝り固まっているので、

散歩でもしようと思い散策していたのですが……」


「なるほど!今ちょうどカーラ将軍の噂をしていたんですよ」


 リーンは好奇心に満ちた笑顔になっている。


「噂?」


「カーラ将軍はこの国で三本の指に入るほど強いって」


「ええ!?」


 カーラは目を見開いて驚いている。


「誰がそんなことを?」


「自警団の仲間です。頼りになるのですよ」


 レイアはのほほんとしている。


「剣で戦うんですよね?ちょっと、その、剣捌きを見せてくれませんか?」


「う、うーん……剣裁きですか……」


 カーラは戸惑っている。


「リーン、あまりカーラ将軍を困らせてはいけませんよ」


 レイアが苦笑している。


「だって、気になるし……」


 リーンの好奇心は止まらない。


「では、三つを六つにします」


「え?」


 リーンは意味がわからなかった。

 風が吹いている。柔らかなそよ風が吹いている。

 カーラは腰から剣を引き抜いた。剣が光る。隙がまったく無い動作。

 そのまま右手で剣を持ち、右肩をわずかに上げ、剣を真っすぐ目の間に構えた。

 そして、静止。

 数秒の後に剣を振った。

 風を切りながらカーラの剣が動いた。とても動作が速い。

 剣を振り終わると、再びまったく無駄のない動作で剣を収めた。

 レイアとリーンは驚いてしまった。ほぼ剣の動きが見えなかった。


「ま、参りました……」


 リーンは、好奇心より驚きのほうが勝ってしまった。この将軍は、本当に強いのだ。


「国のために剣を振るいます。お二人、守るべきもののために頑張りましょう。では失礼」


 カーラは微笑んで去っていった。

 レイアとリーンはその後、しばらく話に花が咲いた。

 かっこいい、可憐、など誉め言葉が幾つか出た。

 風に吹かれた木の葉の三枚が六枚になってることには気が付かなかった。



 レイジスは偵察部隊を手配した。

少数の騎兵に情報を与えて、レテシア国に向かわせた。

偵察場所は、ドラゴンの現れた城塞と、レテシア国本都、そしてフォーレイの三つである。


 ジャコンは偵察など無用だと言っていたが、それは甘いとレイジスは思っていた。

兎一匹殺すのにも、効率というものがある。

ベルーナ帝国は絶対に敗れることは無いが、相手が多少嚙みついてくることはあるだろう。

 ドラゴンの位置を知ることが一番大事だ。

相手はドラゴンを主軸に据えてくる。

位置がわからなかったら仕方がないが、わかればラッキーだ。


 携帯型のバリスタも、あるだけ動員する。

弓矢だけでは失敗するということは、ジャコンの失敗でよくわかっている。


 一方、相手の歩兵部隊は相手ではない。

兵力差に加え、レイジスは圧倒的な剣の力を持っている。

白兵戦なら、どんな敵だろうが相手ではない。


 レイジスは偵察部隊が帰ってくるのを待つことにした。

深く考えるのはそのあとではも遅くはない。



 ルシルは本都の街を歩いていた。

しかし、非常に歩きづらい。

何故かというと、周りにたくさんの人が集まってくるからである。

 ルシル様、と呼び掛ける人がとても多い。

兵士から住民まで揃って、同じ言葉をかけてくる。

みんなの士気が高まって、不安が取り除かれてくれるなら、良いか……。

ルシルは基本的に皆の事を思っている。


 しかし、心の中で思っていても、やはり英雄扱いは慣れない。

本来笑顔で応えるべきなのだろうが、ルシルは苦笑してしまう。

ぎこちないルシルの対応。


 ルシルは一人で川でぼーっとしているのが好きだ。

それとはまるで正反対の状態である。

英雄はフォージなのだけど……と思わずはいられない。


 ルシル自体も弱くはない。むしろ、強い。

格闘術も強いし、主力武器の槍を握れば、敵はいないほどだ。

一対一でルシルと戦えるのは、ゴルドくらいだ。


 自警団の前団長に憧れて、必死に訓練を積んだルシル。

強くなりたいという気持ちがあった。

しかしそれは自分ためではなかった。

誰かのため。

困っている人を助けるため、誰かを守るために訓練を積んできた。

自分のためだったら、ルシルは途中で投げ出してしまっていただろう。

ルシルは他人のために力を発揮するタイプなのだ。


 ヒュンフに、お前は人のために動きすぎだ、と言われたことがあるが、

どうしようもなくそうなってしまうのである。

その性格が自警団員の人望を獲得しているのであるが、ルシル自身は全然気が付いていない。

みんな無事で戦いを終えられるといいな、ルシルは思った。

英雄と呼んでくれる皆は、安全なフォーレイで、戦いが終わるのを待っていてほしい。

国を守り切るのだ。ルシルは自分を呼び掛ける声の応えるように、強く思った。

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