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竜の本望  作者: 夜乃 凛
赤い悪魔のレイジス
18/38

誤算

 小さな会議室。円状のテーブルに、丸椅子が周りを囲うように設置されている場所にて。


ルシル、ヒュンフ、ゴルド、レイア、リーン、カーラ、ルーベルがいる。


「リーン?どうしたのですか?」


 椅子に座っているレイアが隣のリーンに話しかけた。リーンの様子が不思議だったからだ。


「なんでもないよ。なんか寒気が……」


 リーンは少し顔が青ざめていた。


「体調が悪いのでは?」


「うん……そうかも。でもすぐ治るから大丈夫だよ」


 リーンは笑顔を見せた。

何故、レイアとリーンが会議室にいるのかというと、

レテシア国本都の近くの街、フォーレイへの退避の計画を練るためだった。


 フォーレイはリーンの生まれ故郷。

リーンが地理に詳しく、住民の退避の先導役に適任だった。

レテシア本都の住民たちは大移動をしたわけでもないので、疲れてはいないが、

ルシル達自警団の街の住民達には疲労の色が見えるので、

まだ退避は始めない。しかし、いずれフォーレイに移動することになる。


 リーンに先導役を任せるべく、話し合いが行われていた。


「フォーレイまでみんなを連れて行って、そのあとはどうすればいいの?」


 リーンは首を傾げた。


「そのままフォーレイで待機して、本都から連絡が来るまで待っていてほしい」


 ルシルは答えた。フォーレイなら安全だ。


「わかった。自分にできることをやるって決めたから、私がやる」


 リーンは強く頷いた。

 レイアは微笑した。

リーンが少し変わったようにレイアには見えた。

心の中の勇気を手に入れている気がする。

本来持っている素敵な無邪気さと、勇気がある。リーンがさらに魅力的になったような。

リーンはやはりこの自警団に必要な存在だ。


 昔、レイアはリーンと話したことがあった。

リーンは、レイアが羨ましいと言ったことがあったのだ。

 しかし、レイアのほうこそリーンが羨ましかった。

レイアの目に、リーンはとても魅力的に映るのだ。

みんなから愛される愛嬌。

そして、自分を見つめる力を持っている。

 本心をひた隠しにし、偽りの自分を動かすレイアとは違う、と思っていた。

リーンは正直だ。真っすぐなのだ。

今のリーンなら、フォーレイへの移動も、とても安心して任せられる。

レイアが暖かい目でリーンを見つめていると、ヒュンフが喋りだした。


「本当にフォーレイは安全なのか?」


「え?」


 リーンが驚いた。そんなこと疑ってもいなかったからだ。


「本都から少し離れた場所にあるとはいえ、狙われない保証はあるのか?」


 場が静まり返った。カーラは少し考え込んでいる。


「大丈夫。フォーレイは話によれば、本都の海岸沿い。本都とは少し距離がある。

そして、防衛設備も無ければ、拠点として使えそうな設備もない。

落とすメリットが無いんだ。相手はフォーレイの存在自体を知らないはずだ」


 ルシルが強く断定した。心配のしすぎだと。


「……そうか」


 ヒュンフはぎこちなく頷いた。


「リーン達を心配する気持ちはわかるが、固くなってると軸がぶれるぜ」


 ゴルドはヒュンフの肩を叩いた。


「住民のためだ」


 ヒュンフはリーンの成長を買っていた。

戦えないながらも出来ることをする。良い心がけだ。


 しかし、ヒュンフの心は冷めている。

人間は簡単に寄り添ってくる。そして裏切る。

他者への期待、信頼がいかに無駄であるか。

今度の戦いでも、他人は深く信用しない。

自分の戦い方をするだけだ。


 ヒュンフは自分の中に、少し虚しさが居座っていることに気がついていなかった。



 「ふーん、フォーレイね」


 ベルーナ帝国本都にて。

バラージに口添えするようにと、ジャコンに頼まれたレイジスが、

城の右手にある図書室にいた。

司書が一人いるだけ。そこにレイジス。


 本棚が一定のスペースを開けて、多量に並んでいる。中の本はぎっしりだ。人気はない。

 さっきまで、レイジスはレテシア国についての地図を探していた。

そして数多にある本の中から、レテシア国の地図を発見した。

ベルーナとレテシアの国境の砦。北西方面にレテシア国本都。そしてその海岸沿いに……。


「ここに逃がすでしょ」


 レイジスは一人で笑みを浮かべながら、呟いた。

 レイジスは、本都を制圧することだけを考えているわけではなかった。

無意味な虐殺をしようとしている。


 しかし、誰も意見など出来ようはずがない、とレイジスは思っていた。

バラージの口から、レイジスに協力するように言われれば、誰も意見できない。

レイジスは満足そうに手に持った本を棚に戻した。

もう不要な物だ。大体覚えた。


 バラージの元へ行かなければならない。

しかし、ジャコンもつくづく情けないものだ。

剣の腕も無ければ人徳もない。小賢しいのが取柄くらいだ。

自分が王になった時のことを、レイジスは考えた。

ベルーナ帝国は、強い国だ。

武力国家にしよう。周辺の中立国と戦うのも悪くはない。

 人が恐怖する姿が見たい。戦乱の世になれば多くの悲鳴が聞こえてくるだろう。

レイジスは機嫌良く、バラージの元へ向かった。


 玉座の間。赤い玉座にバラージが座っている。

ひじ掛けに添えた腕は微動だにしない。

レイジスの赤い髪のように赤い絨毯が、バラージまで伸びている。

兵士達はいない。バラージ一人だ。

玉座の間に、レイジスが入っていった。

バラージは近づいてくるレイジスに気が付くと、ひじ掛けから腕を戻した。


「バラージ様、要件があり参りました」


 レイジスは丁寧に一礼して言った。一応、様付けである。


「何の用だ」


 バラージは無愛想だが、嫌な顔はしていない。レイジスを買っているのだ。


「レテシア国侵攻のことです」


「それは気になっていた。ジャコンはどこへ行った」


 バラージは顔をしかめた。


「ええ、なんか、失敗したらしいですよ。侵攻」


 レイジスは笑った。


「なんだと?馬鹿な、相手はあのレテシア国だぞ」


 バラージの声に少しだけ怒りが見える。


「そうなんですけどね。なんでも、相手にドラゴンがいるみたいなんですよ」


「ドラゴン?伝説上の生き物だ」


「しかし現実です。城に逃げ帰ってきた兵士も証言してますよ」


「……そのドラゴンのせいで負けたと?」


「そうなんでしょうね」


「……ジャコンを呼べ。責任を取って死んでもらう」


 バラージは難しい顔をしている。


「まあまあ、ちょっと待ってくださいバラージ様。ジャコン、あいつはなかなかよくやってますよ。

これはジャコンの案ですが、悪のドラゴンに正義の兵士達が傷つけられた。

悪のドラゴンを打ち倒すベルーナ帝国。大陸の英雄。悪くないでしょ?」


 レイジスは、バラージに幻想を提供した。バラージは少し、考え込んでいるようだ。


「ふん……いいだろう。しかし二度目はない。レテシア国ごときに苦戦するとは、

我が国の恥さらしだ。兵たちをもっと動員して、思い知らせねばならぬ。我が国の強さを」


「俺が行きますよ」


「行ってくれるか、レイジス。ならばお前が兵たちを導け。最強の剣士の実力を見せてみろ」


「報酬は?」


 どうせ、全部俺が手に入れるんだけどね、とレイジスは心の中で笑いながら言った。


「金銀財宝、なんでもくれてやろう。ただし、帰還した際に侵攻の内容の説明をせよ。物語は面白い」


 バラージが珍しく笑顔になっている。

戦争を物語と呼ぶその姿は、どこか浮世離れしているように思われた。

戦いを、お話くらいにしか思っていないのだ。


「全兵力を持って、踏みつぶしましょう。さて、どうするかな、ドラゴン……」


 二人とも笑っている。

笑いながら、人の幸せを踏みつぶす。

自分の事しか考えていない。

人の悲しみがわからない。

哀れである。


「レテシアに偵察部隊をまず出しましょう。我々の兵は、まだ揃わない。

俺が目をつけている所があるんですよ」


 レイジスは地図に描かれた、フォーレイを思い出しながら言った。


「任せる。ただし、失敗は許されないのはわかっているな?」


「もちろんですよ。まあ、負けた事ないですし」


 レイジスは軽口を叩いた。


「ま、期待していてください。いい報告を持ち帰りますよ」


 レイジスはそう言うと、くるりと身を翻し、玉座の間を出て行っていしまった。


 しかし、レイジスは軽口を叩きながらも、やはりドラゴンを警戒してはいる。

高く空中に飛んでいる時は無敵だ。

ドラゴンが攻撃に出てきたところを、地上に引きずりおろすしかない。

 レイジスは強いが、剣ではドラゴンには対応出来ない。

地上の敵を蹴散らすことは出来る。

ドラゴンへの対策。強い弓と鎖が必要だ……。


 だが、勝てる。ドラゴンは一体しかいない。

最初にレテシア国が健闘したのは、ドラゴンの力の奇襲があってこそ。

次は、こちらの兵力の量が違う。さらに、ドラゴンへの対策もじっくり練ってから攻めればいい。

相手は守るので精一杯なのだから。

狩人と動物のようなものだ。

兎は逃げることは出来ても、狩人を倒すことは出来ない。

狩人側は無敵なのだ。じっくり時間をかければいい。

ドラゴンとの遭遇を楽しみに、レイジスは不気味に笑った。

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