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竜の本望  作者: 夜乃 凛
赤い悪魔のレイジス
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ジャコンの狙い

第三章 赤い悪魔のレイジス


 ベルーナ帝国本都にて。

ジャコンはバラージと直接会うことを、ギリギリまで引き延ばした。

すぐに会っては殺されてしまう。

兵士たちに口封じをし、レテシア国への侵攻が失敗したことを隠した。

 

 ジャコンは今、城の執務室にいた。

部屋中に書物が置いてあり、本の香りがする。

赤い椅子に大きな木製の机がある。その机の上には書類が雑多に置いてある。

 ジャコンは赤い椅子に座りながら、ある人物の到着を待っていた。

トントンと神経質に机を小刻みに叩いている。

まだか、まだ来ぬのか……。


 ジャコンが待っている人物の名は、レイジス。

ベルーナ帝国最強の剣士である。

レイジスは、他を寄せ付けない圧倒的な力を持っている。

レイジスに剣を抜かれて、立っていた者はいない。

赤い髪に赤い瞳をしており、その風貌は相手を威圧する。


 人格者とはいえず、全ては自分を中心に回っている。

自分のためならなんでもする。愛国心などはまったく持っておらず、

戦うことで得られる報酬のために戦う。また、殺しが好きだ。

ジャコンはレイジスの冷酷さを買っていた。

他人のために行動しないところが素晴らしい。

 誰かを守りたいだの、他人のためだの、どうでもいいことを口にする人種がいる。

たかが他人のために戦うなど馬鹿馬鹿しい。

自分だ。全ては自分のためなのだ。


 執務室のドアが開いた。ノックは無かった。

赤い髪に、黒い鎧を着たレイジスが現れた。

鎧は不気味に光を反射している。

レイジスの赤い瞳がジャコンを捉えた。


「待っていたぞ、レイジス」


 ジャコンは机の上で手を組み、手に顎を乗せている。


「よう、ジャコン。急な仕事だって?」


「そうだ。レテシア国への侵攻のことだ」


「ああ。あの弱小国ね。制圧したんだろ?報酬が高ければ俺もついていったけどな」


「レテシア国の制圧は失敗した」


「ああ?」


「侮りすぎていた。なんでも、ドラゴンが邪魔をしたらしいのだ」


「へえ」


 レイジスは笑っている。ドラゴンという言葉に興味を引かれた様子だ。


「笑い事ではない!このままではバラージに殺される……」


「呼び捨てにしちゃっていいのかね」


 レイジスはさらに大きく笑った。


「構わん、あんな若造。それで、だ。お前に頼みがあるのだが……」


 ジャコンはゆっくりと切り出した。


「頼みねぇ」


 レイジスは腰に下げた革袋から金貨を取り出すと、ちらちらとジャコンに見せた。

頼みと聞いて、金を寄こせと早くも言わんばかりだ。

ジャコンは心の中で舌打ちした。レイジスは、足元を見ている。


「お前はバラージに好かれている。お前の口からバラージに申し出てもらいたい」


「なんて?」


「悪のドラゴンを自分が退治し、レテシア国を制圧すると」


 ジャコンは顎髭に手をつけた。

 レイジスは考え込んだ。革袋の金貨をじゃらじゃらといじっている。


「なんで俺がレテシア国に行かなきゃならないんだ?あんな弱小国との戦いに行くつもりはないね。

ドラゴンだがなんだか知らないが、ジャコンがなんとかすればいいだろ」


「ドラゴンには勝てないと?」


 ジャコンは目を細めた。煽るような言葉の使い方だった。

 レイジスはムッとした。


「勝てる勝てないの話じゃない。無意味なことをする気がないだけだ」


 レイジスは早口になった。


「まあ、待て……無意味ではないのだ」


 ジャコンはニヤリと笑った。


「なんの意味が?」


「悪のドラゴンに傷つけられた兵士達。悪のドラゴンを退治した者は何者になる?」


「……英雄ってとこだね」


「そう。そして、英雄が誕生し……バラージが死んだらどうなる?バラージにまだ跡継ぎはいない。誰が王になる?」


「なるほどね」


 レイジスは機嫌を取り戻し、悪魔のような笑みを浮かべた。


「金貨などゴミだ。全てを手に入れるのだ……悪い話ではないだろう」


「いいね。やってやるよ。ただジャコン、お前にとって好条件ばかりだね。生き延びるんだから。お前は何も支払わないのか?俺は危険を冒すんだぜ?」


「バラージの毒殺と、お前の配下になることを約束しよう」


 ジャコンは苦そうな顔で言った。


「うーん、まぁいいか。王になったらジャコン君と呼んでやるよ」


 ジャコンは怒りそうになった。だが、必死に耐えた。どいつもこいつも、馬鹿にしやがって……。

今にも怒りが爆発しそうだった。


「当然のことだけど、お前の兵力は借りるからな」


 レイジスはすっかり乗り気になったようだ。


「それで構わん。バラージへの対応、くれぐれと頼むぞ」


 ジャコンは頭を下げた。屈辱である。


「任せといて。総力戦か……レテシア国、可哀そうにな」


 レイジスは笑いながらジャコンに背を向けた。

そのまま茶色いドアを開けて出て行った。


 レイジスは飄々と廊下を歩いていく。

レイジスは早くも頭の中でレテシア国本都の制圧の方法を考えていた。

ドラゴンなる物体は確かに邪魔だ。

鎖などで縛って、地に叩きつけるか……。強力な弓か……。

この時、レイジスの頭には、ドラゴン以外の敵は眼中に無かった。

この俺に勝てる者がレテシア国ごときにいるはずがない。とレイジスは思っていた。

 そして……ただ攻めるだけでは物足りない。

折角だから、レテシア国には苦渋を味わってもらおうと。

 本都を攻める前に、どこかまったく本都に関係ない場所を落としてやる……。

どこがいいだろう?

レテシア国はおそらく、本都に兵力を集中させているはずだ。

住民はどうする?

奴らは住民を逃がす。どこかへ……。

ベルーナ帝国が諦めないのは奴らもわかっているはずだ。

どこか、住民が避難できるところに逃がすはず……。

レテシア国本都の周りを詳しく調べようとレイジスは思った。

住民から嬲り殺しにしてやる。

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