赤い果物
ルシルが街に帰ってきた。
辺りを見渡しながら、ルシルは中央の広場へと向かった。
大きな池が太陽を反射している。綺麗な池だ。
広場では、来た時と同じように皆が集結していた。
フォージの姿が一番よく見える。
「みんな、戻ったよ!」
ルシルが帰還の挨拶をした。
仲間たちがルシルの元へ駆け寄ってくる。
「どうすることになったんだ?」
ゴルドが真っ先に質問した。一番、気になるところだ。
「カーラ将軍が、相手の本都を攻める。その間、自警団と残りの兵力でこの本都を守る」
「陽動作戦か……背水の陣だな」
ゴルドは難しそうな顔だ。それも当然である。危険を冒すのだから。
「住民は?」
ヒュンフからも質問が飛んだ。彼はぶっきらぼうだが、住民の事もしっかり考えている。
「この本都に近くに、フォーレイという街があるらしい。そこなら、十分に住民みんなが避難出来るみたいだ」
「フォーレイ!?」
リーンが驚いている。いきなり、故郷の名が挙がったためだ。
「フォーレイ……リーンの生まれ故郷でしたね」
レイアがリーンの方を見ている。
「そうそう。フォーレイはいい街だよ。皆優しいし、とっても広いんだ。野菜が美味しいんだよ」
「肉しか食べないと思っていた」
ヒュンフが呟いた。
「聞こえてるんですけど」
リーンは口を尖らせた。
「もしかしたら、リーンに、フォーレイへの住民達の避難をお願いするかもしれない」
ルシルは作戦のことを考えながら言った。
「それなら任せて!絶対迷わないよ」
リーンは頷いた。
「ありがとう。頼りにしているよ。あとは……皆疲れているだろうから、この街で休むように言われた。
だから、みんな街で疲れを取ってほしい」
「結構歩いたからな」
ゴルドは頷いた。ゴルド自身は体力があるが、住民達は疲れ果てている。
「うん。皆よく頑張ってくれた。それと、フォージ」
ルシルは傍にちょこんと座っているフォージに声をかけた。
「なんだ」
「フォージの雄姿を見せるために、城に来てほしいと王に言われてる」
「雄姿……?」
「国のためにあんなに頑張ってくれたじゃないか」
「お前のためだ」
「ありがとう……それでも、皆に勇気を与えるために一緒に来てほしい」
「お前の頼みなら。そして、お前はどうするのだ?」
「僕もみんなの前で姿を見せた方が良いと言われている……英雄だと……」
「それは名案です」
レイアが笑顔になった。
「すっかり有名人になっちまうな」
ゴルドが腕を組みながら微笑。
そこに、カーラ将軍がやってきた。
「只今戻りました。騎馬隊!次の戦いに向けて英気を養うように。再び招集するまで、各自羽を伸ばしてくれ」
「私たちは?」
ルシルが英雄になるのが嬉しく、リーンの声は弾んでいる。
「自警団の方々も、住民の方々も、羽を伸ばしてください。旅でお疲れでしょう」
カーラは皆に笑顔を向けた。
皆の緊張が少し取れたようだ。そしてやはり、疲労の表情が見える。休める場所が必要だ。
「美味いものが食べたいな。戦の前だ……肉だな、肉」
ゴルドは笑った。
「肉だね!」
リーンはうんうんと頷いた。
「結局肉じゃないか」
ヒュンフは冷めた表情でリーンを見ている。
「野菜も食べるし!ヒュンフは酒ばっかりじゃない!」
リーンの頬は膨れている。
「まあまあ」
レイアが笑っている。楽しそうだ。今だけの、嵐の前の、楽しさ。
ルシルはフォージの傍にいた。
「フォージは何か食べたいもの、ある?」
ルシルは尋ねた。
「うむ……美味しい果物が食べたい」
「果物ならさっき見かけたな。ちょっと買ってくるよ」
ルシルはフォージが美味しそうに好物を食べるのを見るのが好きだった。
果物、特に赤い果物が好きなようだ。
毎回、果物を渡すとフォージは躊躇する。
貰ってよいものなのかわからない、とフォージは言っていた。
控え目なドラゴンである。ルシルはフォージのそんなところも好きだった。
「ちょっと果物を買いに行ってくるよ」
ルシルはみんなに話した。
「あ、それなら私も一緒に行きます」
レイアがひょこひょことルシルの傍に寄った。
「俺は酒場にいる」
ヒュンフは頷いて周りを見回している。
「結局酒じゃないか」
リーンがヒュンフの声真似をして言った。全然似ていない。
「酒場はどこだろうな」
ヒュンフはスルーした。
「むぐぐ……」
リーンは苦悶の表情を浮かべた。
「行ってくる」
ルシルは苦笑しながら、レイアと共に果物を買いにいった。




