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竜の本望  作者: 夜乃 凛
竜の英雄
13/38

フォーレイの街

「カーラがたどり着くよりも前に、自警団の力でベルーナ帝国を追い払うとは……

よく勇気を出して戦ってくれた。あなた方の力が無ければ、この国は滅ぼされていたかもしれぬ……

本当にありがとう……勇敢な戦士達だ……」


事情を聞いた王は、目を瞑っている。


「みんな本当によく戦ってくれました。頼もしい仲間たちです。

我々自警団は、レテシア国のために戦う覚悟です」


 ルシルは仲間たちのことを思った。

「頼もしい……。しかし、次はベルーナ帝国の戦力は増すであろうな……」


 王は憂いている。


「王、次の戦いについて提案があります」


 ルシルは真剣な表情だ。


「提案とは?」


「ベルーナ帝国がこの本都を狙っている間に、ベルーナ帝国本都を落とす作戦です」


「ふむ……」


 王は考え込んだ。


「防衛は確かに、上手くいくかもしれない……。しかし、ベルーナ帝国本都を落とせるとは、思えない……」


「王、意見させていただきます。今のベルーナ帝国は団結力を欠いています。

今のベルーナ帝国は明らかに暴走……住民達にも、兵士達にも、不満が募っているのではないかと」


 カーラも続いた。


「なるほど。もしかしたら、ベルーナ帝国本都は隙だらけになるのかもしれない。

しかし、博打になる。嫌々でも、国が占領されるとなれば、ベルーナ帝国兵も国の守りに入るのではないか?

だが……そうか。いつかはこちらから仕掛けなければ、いつまでも攻められ続ける。

そして国力の低い我が国が負けてしまう、か……」


 王は真剣に考えている。


「私は討ち死にしても構わぬ覚悟で挑みます」


 カーラが忠誠を誓った。

カーラの騎馬部隊は移動力に優れている。

ルーベルがレテシア本都に敵の襲来を伝えた時、

王はカーラの騎馬部隊を自警団への増援として送った。


 レテシア国本都の守りに備えた兵士達も強いが、

カーラの騎馬部隊は、移動力も含めると、レテシア国の最大戦力である。


「忠義、感謝する。相手の隙を狙うのであれば、カーラの部隊が攻めていくのが一番であろう。

しかし、この国の守りは……ベルーナ本都を落とすまでの時間を稼げるか……?」


 王の言葉に、場は静まり返ってしまった。

ベルーナ本都を落とし、それで戦いは終わらない。

ベルーナ本都が落ちたことが証明されるまでは、

敵がこのレテシア本都を攻撃し続ける。

つまり、ベルーナに攻め入り、ベルーナ王の首を取り、それを持ち帰るまで。

相当な長期戦になる。

 その間に、レテシア国本都が防衛に失敗して落ちるのが、最悪の事態である。

 ルシルは悩んでいる。そして意を決したように言った。


「自警団をレテシア本都の守りに付かせてもらえませんか」


「なんと」


 王は反応した。


「自警団の戦力と、レテシア本都に残る兵力を組み合わせれば、守り切れるかもしれません。いえ、守り抜きます」


 ルシルの目は強かった。

 国のため。


「動くにせよ、動かないにせよ。敵は攻めてきます。

それなら、防衛よりも攻撃に特化したカーラ将軍の騎馬隊がベルーナ本都を攻め、

移動力の少ない自警団がレテシア本都を守った方が良いと思います」


「……あなた方の力をお借りしてよろしいか」


 王はルシルを見つめた。強い眼差しだった。


「もちろんです」


「そして……ドラゴンも?」


「フォージ、いや、ドラゴンも手伝ってくれると思います。友達なんです」


「心強い……。ありがとう」


 王は思った。

勇敢な若者だ。

ドラゴンは強い生き物だが、そのドラゴンに乗るこの若者も強い心を持っている。

 レテシア国の未来のためにも、この戦いに負けるわけにはいかない。


「急ぎ作戦を練らなければなりません。どうしますか?王」


 カーラが発言した。


「ベルーナ帝国本都に向かう兵士達を決める。残りの兵士たちを全てこの本都に集める。

カーラの部隊にどれだけ人員を割くかが問題だ」


「私の騎馬部隊には馬が多少余っています」


「馬は全て動員させよう。歩兵では騎馬部隊に置いていかれるだけだな。

カーラの部隊の余りの馬に、精鋭を乗せよう。そのまま、ベルーナへの進行組に、

加わってもらう。ベルーナ帝国本都に城壁はない。

騎馬部隊の優位性を生かして戦ってくれ。任せるぞ、カーラよ」


「はっ!」


 カーラは深く頭を下げた。


「ルシル殿達には、残りの兵達と連携して、レテシア本都の防衛を頼みたい。

しかし……戦うには心残りが一つある」


「街の住民達ですね」


 ルシルが察して言った。反応が速い。


「そう。城門を守り切れるほど甘いとは思えない。市街地戦になる……。

ルシル殿達が連れてきた住民達、レテシア本都の住民達、いずれも守り切れない。

住民達にどこか安全な所に避難してもらわなければ……」


「本都の近くに安全な拠点があれば、そこに移動してもらうのは?」


 ルシルが提案した。頭を回転させている。


「それがいい。本都の近くだと……フォーレイという街がある。

あそこなら、全ての住民に避難してもらえるだろう」


 そこで、ルシルは頭になにか引っかかった。

フォーレイ。どこかで聞いたことがあるような……。


 数秒して、ルシルは思い出した。

フォーレイはリーンの生まれ故郷だ。


「僕たちの自警団に、フォーレイ出身の者がいます」


「おお、そうか……。その者ならフォーレイまで迷わずにいけるかもしれんな」


「みんなの人気者なんですよ」


 ルシルは笑った。

 頭の中で考える。

住民の避難を手伝ってくれたリーンなら、住民退避の際にフォーレイまでの道案内を任せられる。

 戦うのはルシル達の仕事だ。


「ベルーナ帝国がいつ攻めてくるかが気がかりです」


 カーラが不安点を挙げた。


「そうだな……ベルーナとしては、ドラゴンの対策をするために、少し時間がかかるだろう。

ドラゴンという人外の存在に対策を講じるのは難しいはずだ。

恐らく、ベルーナ帝国は我がレテシア国の力を甘く見ていた。

次に失敗はしたくないと思うだろう。万全の体制で攻めてくるはずだ……

それまでの時間に、やれることはやっておかなければな。

さあ、難しい話はここまでにしよう。

力んでばかりでは、人間は折れてしまう。竜の英雄の誕生を皆で喜ぼうではないか」


 王は初めて笑顔を初めて見せた。


「竜の英雄?」


 ルシルは首を傾げた。


「そなたのことだ。竜に乗って戦う英雄だ」


「いえ、僕は英雄などでは……」


 ルシルは苦笑している。


「私も賛成です。ルシルさんとドラゴンの姿を是非皆に見せるべきかと」


 カーラは頷いている。


「仲間たちの力です。僕とフォージの力だけでは……」


「英雄という存在は仲間に勇気と力を与えるものだ。これからの戦いのためにも、皆に勇気を与える存在が必要だ」


 ルシルは困ってしまった。

確かに、住民の不安を取り除くために、そういう存在は必要なのかもしれない。

 しかし、英雄などと言われてしまうと、どうもしっくりこない。

フォージが英雄に相応しいと思う。フォージだけではダメなのだろうか……。


 そんな困ってる様子を見ていた王が、声を出して笑った。


「お、王?」


 ルシルは驚いた。


「すまんすまん。いや、お主は本当に英雄だ」


 カーラも笑っている。ルシルは何が可笑しいのかわからなかった。

自分が英雄とは到底思えないが、皆が安心するなら英雄になってもいいのかもしれない。

ルシルはその旨を王に伝えた。王は強く頷いた。


「兵達と街の者を呼ぶ。この城の上層に立てば、街の方からこの城が見える。

ドラゴンを呼んで、雄姿を見せようではないか。カーラ、人集めを頼めるか」


「お任せください」


「頼んだぞ。ルシル殿は、お仲間の元に一旦帰られるとよろしい。カーラが人を集めるまで時間がかかる。

再び来るときはドラゴンと一緒に。フォーレイに避難するのは、まだ行動に移す必要もない。

ここまで来るのに皆疲労がたまっているはずだ。皆にこの街でゆっくりしてもらうといい」


「わかりました。このまま仲間の元に戻ります。配慮、感謝します」


 ルシルは一礼すると、部屋を出ていった。

 出るときに兵士が二人敬礼していたので、会釈した。

 作戦は決まった。

 勝てるだろうか。

 いや、必ず勝つのだ。

 心強い仲間たちがいる。本都の兵士達も助けてくれる。

 ルシルの帰りを待っている自警団の元へとルシルは向かった。


「王、私もこれで失礼いたします」


「頼むぞ、最強の騎士よ」


「もったいないお言葉」


 カーラは頭を下げた。

 そして、カーラもルシルと同じように部屋を出て行った。

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