そこに、妹はいなかった
この物語はフィクションです。
僕には妹がいる。でも、その妹は、数年前に、死んだ。
今日は妹が事故で死んだ崖に来ている。この崖は、いつも霧で埋め尽くされている。
妹は事故で、崖から落ちたとされているが、それは違う。実際は、僕が殺したんだ。
崖から落ちそうになっていた妹を、僕は見捨てた。もう少しでもがんばれば、妹を引き上げることができたかもしれない。僕はあの時、すぐに諦めたんだ。
なぜかは分からない。崖への恐怖心なのか。それとも……
ズキリッ
そう考えてると頭痛がした。そしてその頭痛の痛みで思わず目を閉じてしまう。
そして、痛みがなくなり目を開けると、そこに、妹がいた。霧で、貌はあまり見えなかったが、あれは妹だ。
なぜ、なんでという疑問が頭の中を埋め尽くした。
「おい、梨華。大丈夫か?」
妹は何も言わなかった。
ズキリッ
また、頭痛がして、その痛みで思わず目を閉じてしまう。
そして、痛みがなくなり目を開けると、さっきの場所に、妹は、いなかった。
「助けて」
後ろから声がした。崖がある方だ。振り返ると、妹が崖から落ちそうになっていた。
僕は、数年前と同じことが起きているように見えた。僕は、数年前の事をくり返さないために、咄嗟に妹の腕をつかんだ。
「大丈夫だからな、絶対に助けるからな」
僕は、その言葉で何回も励ましていた。でも、腕が痛い。
「おらぁ!」
僕は気合いで妹を引き上げた。やっぱり、頑張ればできるじゃないか。そう思った。
僕の腕の中には妹がいた。すると、妹がこちらを見てきて、言った。
「なんで、助けなかったの!?」
妹が鬼の形相で睨んでくる。僕の腕が、足が、いや、体全体が震える。
「なんで!? なんで!?」
その言葉を何回も繰り返す妹。僕は怖くて、口が勝手に動いた。
「そ、それは、き、嫌いだったから」
そう、僕は妹が嫌いだったんだ。
「そう」
僕がそう言うと妹は優しい声で言ってくれた。
「だから何?」
その後、妹は凍り付くような低い声でそう言った。
「嫌いだったから?ふざけんなよ。命だよ。家族の命だよ。妹の命だよ。その理由だけで人を殺せるの。あなたは本当に最低だね。クズだね。生きる価値ないよ。人でなし。死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ死んじまえ。死んで、償え」
「うわああああー!」
僕は妹にそう言われ発狂した。そして僕は、崖から身を投げ出した。
ある通行人によると、崖から落ちた人は、突然発狂して自ら崖に身を投げたらしい。
そこには、一人の男性だけだったらしい。
そう、そこに妹は、いなかった。