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第42話『飛翔』

 ベッドのシーツも洗ったものに交換してあるし、ランプについたススも落としてある。リディアさん達がリンちゃんの家に宿泊したのは、そんなに長い期間じゃなかっただろうし、そんなに掃除する場所もなかったようだから、すぐに出発の準備は整った。リディアさんは最後に寝室を見回し、忘れ物がないかなどを確認している。


 「よし。問題なさそうだな」

 「あとは、ちゃんとお酒をもらって帰りますよ~」


 リディアさんとエメリアさんはカーテンをしめて、お世話になった寝室をあとにした。おみやげにくれると言っていたお酒は、まだ台所に置いてある。エメリアさんはお酒のボトルをリュックに入れつつ、美味しい飲み方などをリンちゃんのお父さんと話している。男の人の魔力を吸えない体質とは聞いたが、男の人を嫌悪しているわけではないと見える。


 「あの……リンは、出かけているのだろうか」

 「家の前で、石をみがいていると思います」


 お別れが近いと見て、リディアさんはリンちゃんを探している。リンちゃんのお母さんが言う家の前の石というのは、俺の体の別個体である。そちらへと意識を転送し、家の前にある石へと視点を切り替えてみた。布らしきものが俺に押し当てられていて、その隙間からリンちゃんの顔がうかがえる。


 「……キレイになった?」


 そうリンちゃんに聞かれたが、俺自身では自分の姿を確かめられない。ただ、なんとなく返事を求められているように思え、俺はスキルを使用して体を光らせてみた。


 「あ……ヒカリちゃんが光った」


 体が光ったせいで新たな汚れも発見されたらしく、またリンちゃんは俺をごしごしとこすり始めた。水拭きだけでは取れる汚れも限度がある為、それなりにキレイになったところでリンちゃんは掃除を終える。素手で俺に触れながら、ちょっとさみしそうに語りかけてくる。


 「あのね。ヒカリちゃん。リディアさんとエメリアさんが帰っちゃうんだ……」

 「……」

 「村に人が来るなんて珍しかったから、もっとお話ししたかったな……」


 ……そうだよな。リンちゃんは他の街に行くことも今までなかったようだし、この子の社会は村の中で完結している。それだけ、外から入ってくる人や、聞けるお話というのは、貴重な情報だったのだろう。それになにより、リディアさんやエメリアさん、騎士団のメンバーはいい人達だったから、お別れをするのも一層のこと辛いはずである。


 「……リン。ここにいたのか」

 「あ……リディアさん」


 家のトビラを開き、リディアさんが顔を出した。光っている俺を一瞥した後、リディアさんはリンちゃんを見下ろしながら隣に立った。


 「今日まで、色々とありがとう。リンには助けられた」

 「えっと……」


 リンちゃんは返答に困ったような顔で俺に助けを求めるが、自然と視線を地面へと戻した。やや言葉を選びつつ、リディアさんへと小さな声で伝える。


 「……でも、私……リディアさんに変なキノコ、食べさせちゃったし……そのせいで、ヨロイも着れなくなっちゃったし」


 「いいんだ。ヨロイは街で買い取ってもらえる。それに、この体型も、リンがカッコいいと言ってくれただろう?だから、これはこれでいいんだ」


 「……ありがとう。リディアさん」


 まだリンちゃんは、ふくろダケの一件を気にしていたらしい。実のところ、俺も未だに悪いことをしたとは思っているのだが、リディアさんは大きくなった胸をむしろ張って見せている。勝手な話だが……こうして迷惑をかけた分の償いとして、少しでもリディアさんのフォローをすることができたら幸いと俺は考えている。


 「だから、リン。また村に来た時は、よろしく頼む」

 「うん……あれ?なんか、首のところが赤いけど」

 「……あ。ああ……きっと寝相のあとだな」


 顔を上げた拍子に、リンちゃんはリディアさんの首元に赤くなっている部分があるのを発見した。あれは……エメリアさんに吸われたあとだな。さすがに、そんなことをリンちゃんに言うのも都合が悪かったのか、リディアさんは適当な言い訳でごまかしていた。


 「……あっ。ハクリューが来たよ」

 「兄さん。また早い到着だな」


 空の白い雲に混じって、優雅に羽ばたく白い竜がうかがえた。騎士団長がやってきたと見て、リディアさんは家の中にいるエメリアさんへと声をかけている。


 「エメリア。兄さんが来たぞ」

 「あ、はい~」


 エメリアさんが玄関ドアをくぐり抜けたのに続いて、リンちゃんたちの両親も見送りに出てきてくれた。騎士団長は颯爽と白竜から飛び降り、重そうなヨロイをガシャガシャと揺らしながら、こちらへと駆け足でやってきた。

 

 「リディア。言われた通り、大人しく待っていたようだな」

 「ああ。エメリアが、白竜に乗って帰りたいというからな」

 「この度は、お世話になります~」

 

 俺は家の前にある石から意識を転送し、リディアさんのネックレスについた石へと視点を戻した。こうしてリディアさんの胸元から見上げると、遠目に見ていた以上に騎士団長は大きいな。身長2メートルくらいありそうに思える。


 「では、リディア。ご迷惑をかけた皆さんに、しっかり謝ってからお別れをするように」


 「感謝の心を告げるならともかくとして、なぜ迷惑をかけた前提なのか……」


 「しかし、騎士団長様。本当にリディアさんにはよくしていただいて、先程も治癒魔法をほどこしていただきまして……」


 「……治癒魔法だと?」


 リンちゃんママは傷のあった箇所をさすりながら、騎士団長に回復魔法の件を伝えた。騎士団長は怪訝な様子を露わとし、リディアさんに詰め寄って小声で尋ねた。

 

 「お前……怪しい魔術を試したのではないだろうな」

 「どれだけ私は信用がないんだ……」


 とはいえ、リディアさんが魔法を使ったことについて騎士団長は信じていないのか、真実を探ろうと周囲を見回している。その最中で、シロガネさんがうなづいたのを知り、難しそうにうなりながらも納得した様子を見せた。


 「……まあ、いい。話は帰ってから聞く。こちらは、妹が世話になった礼だ。受け取ってほしい」


 「なに?これ」


 「帝国随一の菓子店で選んだ。中身は菓子だ。まあ……好みでなければ、他の家にゆずってくれていい」


 騎士団長は綺麗な絵の描かれた紙袋をリンちゃんに手渡しており、中身は帝国で購入した菓子だと説明している。紙袋の作りからして高価そうだし、きっとお菓子コーナーで売っているおせんべい程度のものではないはずだ。


 「だが、兄さん……今日の昼食でケーキを食べたばかりだぞ」

 「それならそうと、先に言っておけ。被っただろうが……」


 紙袋の中身はケーキだったらしい。まあ、それだけ上等なものならば、もらってイヤということもないのではなかろうかと思う。リディアさん達の話し声を聞きつけ、他の家からもお爺ちゃんやおばあちゃん達が出てきてくれた。


 「あらあら。あなたたち、もう帰るの?もっといたらいいのに」

 「お世話になりました。何か事件があれば、ここに連絡をしてほしい。うちの連絡先だ」

 「うちに嫁に来て欲しいが、ここには若い男がいなくて……惜しいなぁ」


 リディアさんとエメリアさんが、村の人たちに包囲されている。一緒に山菜を採りに出かけたりもしていたし、かなり交流はあったのだろうと思われる。このままでは出発する頃には空が暗くなってしまうとして、騎士団長とシロガネさんが2人を引っ張り出した。


 「夜になってしまう。行くぞ」

 「はい……」

 「あの、リディアさん」

 「……?」


 シロガネさんがエメリアさんを白竜の背中に押し上げている横で、リンちゃんがリディアさんを呼び止める。そして、ちょっと伏し目がちながらに頼みを打ち明けた。


 「私、もっと大人になったら、街に行ってみたい。その時は、会いに行っていい?」

 「ああ。せまい部屋でよければ、うちに招待しよう。その時は連絡してくれ」


 おじいさんたちにも紙を手渡していたが、あれは恐らくリディアさんの住所が書いてあるのだろう。名刺らしきものをもらい、リンちゃんは大事そうに両手でグッと握っていた。騎士団長に手を引かれ、リディアさんも白竜に飛び乗っていく。


 「では、皆さん。失礼する。白竜!」

 「……ふふぉおおーん」


 騎士団長が白竜の首をさすってあげると、白竜は透きとおった鳴き声を発した。そして、白くてふわふらした羽を動かしながら体を浮かせる。俺もリディアさんの胸の上に乗ったまま、遠ざかっている村の人たちを見下ろしている。あっという間に村は見えなくなり、竜の頭は遠くの景色に見える帝国へと向いた。


 白竜の背中には乗りやすいようにクラがついていて、乗っている人たちは腰の辺りをベルトで固定している。ただ、広い背中ではないからして、みんなは一列になって乗っている。白竜に命令を出している騎士団長が先頭で、その後ろにいるのがリディアさんだ。そして、リディアさんに後ろから抱き着いているエメリアさん。俺からは見えていないが、一番後ろにシロガネさんが乗っていると思われる。

 

 「お~……初めて乗りましたけど、速いですね~」


 すぐ後ろからエメリアさんの声がしている。確かに、見る見るうちに森や山が眼下を通り過ぎ、大きな城のそびえる街が近づいてくる。しかも、速いのに揺れがない。まるで風に流される雲に乗っているみたいだ。


 「……」


 これが、竜の飛び方なのか。羽や首の動き。飛行に際してのバランスの取り方。これをお手本にすれば、俺も飛べそうな気がする。まあ、飛べそうなだけで、実際に飛べるかは解らないけど……。


 「そろそろ、高度を下げる。しっかりつかまっているように」

 

 そろそろ到着が近いと騎士団長が教えてくれた。見たところ帝国は非常に大きい国のようで、その中央にはアニメにでも出てきそうな巨大な城が建っている。あの城を軸にして街が形成されているようだな。街とひとくくりにいっても前と奥、左右でも色味が大きく異なり、木々の多い場所や灰色の建物が多い場所など、やや趣の異なる街並みが入りまじっている。


 高い壁で囲われた帝国の外には細い川が流れていて、川にかかった橋の近くに門が開いていた。白竜は門の近くに降り立つと、乗っている人たちが降りやすいよう体を低く屈めた。


 「ありがとう~。白竜。かわいいな~」


 ふらふらと地面へと足をつけ、エメリアさんが白竜の頭をなでつけている。まったく暴れたりもしないし、白竜は見た目に違わず大人しい竜みたいだな。これでも、戦闘が始まると勇ましく吠えたりするのだろうか。あまり想像はつかない。


 「私は白竜を連れて先に行く。入国審査を済ませ、中で待っていなさい」


 手綱を引かずとも、白竜は黙って騎士団長の後ろをついて行く。そうか。騎士団長は国の関係者だから、入国審査を顔パスできるんだな。さすがは偉い人だ。リディアさんとエメリアさん、シロガネさんは審査を受ける為、受付のある場所を目指して歩き出した。


 「やはり夕刻前とあって、それなりに並んでいるな……」

 「早く入ってお酒が飲みたいですね……」


 リディアさんの言う通り、国防壁の入り口前には、様々な姿をした人たちが長蛇の列をなしている。ここを通らないと国には入れないらしく、リディアさんとエメリアさん、シロガネさんも列の最後尾についた。

 

 「……ね~。リディア~」

 「なんだ?」


 リディアさんの後ろに並んでいるエメリアさんが、遠くにあるゲートをくぐっていく白竜を指さしながら声をかけている。


 「リディアも転職するなら、竜騎士がいいんじゃないですか?」

 「だが、竜はタマゴを買うだけでも、10年ローンは当たり前だぞ。育ちきったものは更に高い」

 「そっか~……残念ですね」


 そんな会話を済ませ、リディアさんが前を向き直す。その数秒後、今度はリディアさんの方から振り向き直り、確認するようにしてエメリアさんへと話しかけた。

 

 「……お前、私をタクシーの運転手にしようとしなかったか?」

 「ちがいますよ~。そうじゃなくてですね……」

 「……?」

 「恋人と乗るドラゴンって、なんかロマンチックだなって」

 「お嬢様……こいつ、やっちゃっていいですよね」

 「……あの。シロガネさん。落ち着いてくれ」


 エメリアさんの後ろからのぞくシロガネさんの眼光といえば、もはや鬼のそれである。今にも刃物を取り出さんという勢いだが、さすがに入国審査前に殺傷沙汰はマズいので、なんとかかんとかおさめてもらった……。


第43話へ続く

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