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第33話『誘拐』

 男勝りで情に厚いクリスさんといい、騎士団は涙もろい人が多いな。俺、小学校の卒業式も中学校の卒業式も泣かなかった人なわけで、お別れのさみしさみたいなのでは、そこまで感傷的にならなかったりする。自慢じゃないが……逆にさみしい人間である。


 「でも、ヒカリちゃん……リンの前だと動いてくれないんだー」

 「シャイな石なのだ。心を許してくれた時は、いつか本当の姿を見せてくれるだろう」


 騎士団長は常に真顔なので、冗談か本心かは不明だが、意外と的を得ている発言である。俺も少女の期待には答えたいけど……ただの石であることが俺の心の平穏にも繋がっているからして、動いたり分裂したりといった姿を気軽に見せるわけにはいかないのだ。ごめん。

 

 「少女よ。この世には、私たちの想像も及ばない摩訶不思議が、あふれんばかりに存在している。石が動く。しゃべる。飛ぶ。魔人を倒すことだってありえる」


 「そうなんだ!ものしりですね」


 「よし……折角だ。君に、これをあげよう……」


 リンちゃんと仲良くなった暁に、騎士団長は何かプレゼントをするようである。バッグから本が1冊……2冊……まだまだ出てくるぞ。全部で8冊。しかも、ハードカバー。日本の本屋で買ったら、1冊2500円くらいはしそう。


 「これは、我が一族、代々の冒険譚や活躍が記された書物。全56巻なのだが、本日は8巻までしか持ちあわせがなくてな……」


 「本だ!村には、あんまりないんだ」


 持ち歩いてるんだ……まあ、そんなにたくさんの武勇伝を持つ家系となれば、リディアさんが自分も何かを成し遂げたいと思うのも仕方ないのかもしれない。俺は継ぐ家業もなかったし、親からの期待も別になかったから、そういうのっていまいちしっくり解らない。


 「……リンは、難しい文字は読めないけど」

 「絵本の方がよかったかな。これもあげよう」


 絵本も出てきた。この人、自分の家を本当に誇りに思っているんだな。しかし、頭に乗せられた重い8冊に絵本を追加され、リンちゃんは手いっぱいいっぱいである。そこへ、シロガネさんを寝かしつけたと思しきリディアさんがやってきた。


 「……兄さん。また伝記を配っているのか。恥ずかしいからやめてくれ」


 「我が華麗なる一族の伝説が恥ずかしい訳がないであろう。おかしなキノコを食し、肉体改造を図る妹の方が何倍も恥ずかしい」


 「それは今、関係ないだろう……」


 「くやしければ、お前も後世に語り継がれる偉大な人間となるのだ。すでに私は、最新56巻に名前が載った」


 「なんだと……」


 リンちゃんの頭の上から本を取りつつ、リディアさんが微妙にくやしそうな顔をしている。騎士団長はリディアさんを探していたことを思い出し、今日のスケジュールについて一方的に告げた。


 「夕刻前、村へ迎えに来る。エメリア君とシロガネ君もつれて帝国へ戻る。お前も準備を済ませて待っていなさい」


 「……私とエメリアだけで国へ帰れる」


 「そのような不格好な姿で森を歩くつもりか?装備に体も入らないだろう。遭難した冒険者の救済も、騎士団の仕事の一環だ。解ったな」


 リディアさんも膨らんだ胸元がパツパツであり、エメリアさんと同じく服に切れ目を入れて対処している。森に凶暴な魔物は少ないのかもしれないけど、防具もなしで長い道のりを歩くのは不用心である。それを危惧してか、また騎士団長は村へ戻ってくるらしい。


 「リン隊員よ。リディアが逃げないよう、しっかり見張っているように。彼女を無事に連れ帰るためだ」


 「は……はい!」


 騎士団長って基本、仲良くなると誰でも隊員にしてしまうな。リディアさんの安全のためと言われ、リンちゃんは監視義務を請け負った。リディアさんが文句を言う間も与えず、騎士団長はヨロイをガシャンガシャンいわせつつ白竜の元へと向かった。


 「えと、リディアさん……お別れはさみしいけど、ごはんを作るから食べていってね」

 「兄さんめ……」

 「リディアー。何してんの?」


 竜に乗って飛び立って行く騎士団長を見送っていると、エメリアさんが少し遅れてリンちゃんの家から出てきた。やっと騎士団長がいなくなったと見て、安心してリディアさんに抱き着いていく。


 「やっと2人になれたね……」

 「リンが見てるだろ……」

 「エメリアさん。ちしだんちょうがね。夕方に迎えにくるから、待ってなさいって」

 「じゃあ、竜に乗って帰れるんですか?やった」


 リディアさんは嫌そうだが、エメリアさんは歩かずに済むと知って少し嬉しそう。できるものなら、俺も竜に乗ってみたかったな……。


 「……」


 いや……待てよ。あのドラゴン、ラーニングスキルで習得できている可能性がある。乗せてもらうことはできなかったが、自分で飛ぶ事はできるかもしれない。体が石なので動かしづらいのはネックだが、体重を軽くすれば飛べる可能性はある。ラーニングスキルを見てみる。

 

 『カイリザード 造形(レベル1) 火炎スキル(レベル1)』

 『バードウィング 造形(レベル1) 高速飛行スキル(レベル1)』

 『グレイズ 造形(レベル1) 噛みつきスキル(レベル1)』


 見た事のないモンスターの名前が何種類か増えている。スキル欄に載っている画像を見るところによると、カイリザードが緑の竜で、バードウィングが騎士団長の乗っていた白い竜、グレイズが灰色のドラゴンだと思われる。それぞれ、体の形が少しずつ違い、それにともなった特技があるみたいだな。


 「……」


 飛行できるかどうか、今すぐに試してみたい。さっきまでワンコロちゃんだった石が村の外にあるし、そちらを変身させれば、こっそり遊ぶ事もできるだろう。よし。意識を転送。村の外にある小さな石へと視点を変更した。


 「……」


 ここは森の中。動物に運ばれた様子もなく、オオカミの姿から戻った時と場所は変わっていない。どのドラゴンにしようかな……どのドラゴンにも羽はあるから飛べるのだろうけど、急に高速飛行は怖い。まずは初心者向けっぽいオーソドックスなドラゴン、緑竜のカイリザードにしよう。


 「……」

 

 メキメキと音を立てて、数秒で変形が完了した。首が長い分、視点が少し高い。あと、背中に羽がある。人間には羽がないわけだけど、なんっていえばいいかな……肩甲骨というのが肩から背中にかけてあるだろう?あれを動かす要領で、羽も大雑把に動かせる。人間の時には、あまり動かした事のない部位だから、これは慣れが必要だ。


 羽を動かしただけでは体は浮かないな。ポンポンと跳ねながら羽ばたいてみる。体が重いせいだろうか。スキルで体重を軽くして、やや高いところから飛び降りつつ、羽も動かしてみる。ちょっとだけ浮いた……気がする。


 「……」


 力みついでに口から火が出て、自分自身でビックリしてしまう。火とは言っても、たばこに火をつけることもままならない弱火の弱火であり、今のところ使い道は思いつかない。


 「……」


 飛ぶのって難しい。なかなかうまくいかないな。しかし、こんな小さな竜みたいなものが、ぽんぽん跳ねたり口から火を出したり。こんなところを誰かに見られたら恥ずか……。


 「……」


 あ……木の陰から、黒いリスみたいな生き物が俺を見ている。あの生き物は、前に見たことがある。確か、ルポスという魔物だ。あの目、まちがいなく俺を見ているな。逃げるか?よし。逃げよう。


 「……」


 俺は長いシッポをひきずりながら、慣れない体でスススと逃げ出した。30メートルくらい移動した。ここまでくれば……。


 「……」


 また、さっきと同じリスだ。見ているな。というか、つけられている。俺は人に見られていると、作業が手につかなくなる人間なのだ。見られていては、恥ずかしくて飛ぶ練習もままならない。どうしよう……とりあえず、丸い石の姿になってやりすごすか。


 「……ピピ」


 俺の姿が丸い石へと変わるのを目の当たりとし、リスは長い耳をピクリとさせた。じっとしている俺に近づき、あらゆる角度から俺を観察している。ルポスの説明文によれば、危害を加えようとする敵には、大きなシッポで木の実を投げつけるという。このまま何もしなければ……。


 「……!」


 ルポスは大きなモジャモジャ尻尾で俺を抱き上げ、どこかへと移動を始めた。ネココといい、小動物は丸い俺の姿を見つけると、運びたくなる習性がある。木の実と間違えているのかな。


 もじゃもじゃ尻尾の毛のスキマから、外の景色が少しだけ見えている。マップを見るところによると、村へ近づいているようだ。あそこに見えているのは多分……村を囲っている壁だ。そこにあいている穴らしきものをくぐって、ルポスは俺を持ったまま村へと侵入した。


 「おおい。モジャピッピ入ってきたど」

 「豆でもまいてやれー」


 モジャピッピって、この魔物の愛称か?村の人たちの声からして、ルポスが村に入って来るのは日常茶飯事らしい。おじいさんたちから豆や木の実をもらい、それを口に含んでルポスは再び走り出した。


 「……?」


 なんか一瞬、リンちゃんの家の前にある別の俺の体が見えたな。というか、ここ……リンちゃんの家だ。壁の下にあるせまい穴を通って、そのまま家にも侵入。これ……リンちゃんたちが危ないんじゃないか?追い払ったほうがいいのか?というか、降ろしてちょうだい……。

 

 「……ピピッ!」


 俺が体を光らせたのに気づき、驚いた声をあげながらルポスは俺を落とした。ここは……リンちゃんの家の中らしい。台所っぽい場所であり、リンちゃんのお母さんがトントンと食材を刻んでいる。


 「あら……リンー。モジャピッピよー」

 「また来たのー?」


 あ……あれ。なんか、お母さんが慣れた感じでリンちゃんを呼んでいる。別の部屋からやってきたリンちゃんが、ルポスことモジャピッピの頬袋をぷにぷにともんでいる。


 「……あれ?」


 リンちゃんが、床に落ちている俺に気づいた。そして、俺は……まだ体が光っていることに気がついた。まずい。すぐに消灯し、なにくわぬ顔で、ただの石を決め込む。


 「……小さいヒカリちゃんだ!モジャピッピが持ってきたの?ありがとう~」

 「ピピピ」


 リンちゃんとモジャピッピは仲良し。そして、こっちの体も、光る石だとバレた。でも、リンちゃんはモジャピッピに木の実をあげているし、まだ今なら逃げられ……。


 「お母さん!ちっちゃいヒカリちゃんもらった!」

 「よかったわね」

 

 ……呆気なくつかまった。ダメだ。逃げられない。


 「……そうだ!これ、リディアさんにあげよう!」


 しかも、プレゼントにされる。弱ったな……どうしよう。


第33話へ続く

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― 新着の感想 ―
[一言] 〉くやしければ、お前も後世に語り継がれる偉大な人間となるのだ。 不器用なだけで悪い人じゃないし、むしろ好ましい人なんだけど。 妹を前にした時の態度だけ見ると、この人と同じ職場だけはぜっっっっ…
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