↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/1021

第19話『お別れ』

 「救助者をテントへ運べ!救急班!僕の補助を頼む!」


 メガネをかけた頭のよさそうな男の人が、白いローブを来た女の人たちと一緒に救助者を運んでいく。魔導部隊が眠っているものとは別のテントに入り、パッと中で炎のようなものが灯りがついた。魔人のアジトにとらわれていた女の人について、治療を開始したのだと見られる。


 「……無事だといいが」


 女性の救出を単独でこなした騎士団長が、腕組みしつつ難しそうな態度を示している。いつから彼女が魔人に捕らわれていたのか。どのような仕打ちを受けていたのかは解らない。体に傷は見当たらなかったけど、衰弱していることは間違いなさそう……。


 「あああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 「……!」


 突然、テントの中から女性の悲鳴が聞こえてきた。だけど、それは痛みに耐えかねての声というよりも、恥ずかしさが高まったような叫びであった。中で一体、何をしているのか。アネットさんも俺と同じことが気になったようで、騎士団長へ気軽に質問を向けている。


 「だんちょーさん!あれって、なにしてるの?」


 「魔人の巣で見つけ次第、私が応急処置はほどこしたが……問題は体内に潜んでいる可能性がある。下腹部や体内臓器へ魔人の根がはっていないかを調べるには、医者の診断が必要だ」


 「……魔人の根ってなんなの?」


 「……」


 以前、魔人は他種族と交配する生き物とエメリアさんが言っていた。つまり、お腹の中に魔人の子どもがいるかを調べているのだと思うのだけど……騎士団長が表現をにごしたために、アネットさんがイマイチ納得していない。


 「……ごほん。あー、セッカイさん。この子に詳しく説明してやってほしい」

 「ええ?わしですかい?」


 騎士団長は質問の答えに迷いつつも、隣にいるオジサンへ解説を託した。作戦に参加している割にアネットさんは勉強不足が否めないので、どう説明しようかとオジサンも悩んでしまう。


 「なあ、アネット。赤ちゃんが、どこからやって来るかは知っているかな?」


 「愛し合っている2人がチューすると、お腹の中で育つんだよ?」


 「……騎士団長。わしには無理です。デリケートな話題ですので、セクハラ疑惑がかかっちまいます」


 「おい、アネット。ちょっとこっち来い」


 「……?」


 オジサンが頭を抱えているのを見かねて、目つきの悪いお兄さんがやってきた。話があると言ってアネットさんを連れ出し、木の影へと移動する。俺もアネットさんの手に抱えられているから、見上げる形で2人の話を聞いている。


 「魔人は……アレだ。人間や他の種族に子どもを産ませる生き物なんだ」


 「……やばいですね!」


 「ヤバいだろぉ?男は魔人に会っても殺されるだけだが、女は更に気をつけないとならない。産まれた魔人が、また人を襲う。憶えとけ」


 「うん。解った。魔人とキスなんてやだもんね……」


 根本的なことは解っていないようだが、魔人に捕らわれると大変なことになるという事実だけは伝わったらしい。俺たちは騎士団長の元へと戻った。テント内からは、まだ恥ずかしい悲鳴が続いている。目つきの悪いお兄さんにデリケートな質問を処理してもらい、オジサンは気恥ずかしそうに頭を下げている。

 

 「クリス。助かったぞ。すまん」

 「俺……こういうの大丈夫ですんで」

 「ううううう……うう……」


 テントから聞こえていた悲鳴が急に止まった。白いネコミミフード付きの魔導士がテントから現れ、敬礼のポーズながらに騎士団長の前に立った。


 「体内に魔人の種子は確認できませんでしたし。現状、健康面でも問題はありませんし」


 「ありがとう。一度、被害者を村へと連れ帰る。明日の朝より、国へ搬送を開始。到着次第、精密な検査を行う。準備を始めてくれ」


 村や道中に騎士団員を残してきた為、一度は村に連れて帰ってくれるらしい。リンちゃんが救出のお祝いをすると意気込んでいたから、無事な姿を見せてくれると聞いて俺もホッとした。騎士団の人たちは描いた魔法陣を消したり、テントを片付けたりしている。


 「よかったー。銀色の矢は高いから、使わなく済んだよー」


 アネットさんの背中には矢の入っているツツが装備してあり、地味な色の矢の中に数本、銀色の物が混じっている。弓の方も装飾のついた強そうな形をしていて、店で買ったら高いのではないかと思われる。片付けをしているアネットさんへ、オジサンが引率の先生さながら声をかけている。


 「魔人の残党は確認できんかったが、街へ戻るまでが任務だぞ。君も、気を引き締めるようにな」


 オジサン……セッカイさんと呼ばれていただろうか。その人が隊を整列させつつ、全員いるかなどを確認している。隊ごとに並んでいるようで、テントで治療を行っていた部隊や、近場で採集を行っていた収集班、眠そうな魔導部隊、似た服装の人たちで集まっている。男女比は7対3といったところ。こうして見ると、それなりに個性的な顔ぶれのチームである。


 「村へ続く山に目は届いているが……魔物の対策をする。鳥の目を頼む」

 「は……はい」


 騎士団長の指示を受け、気の弱そうな男の人が打ち上げ花火のようなものを取り出した。手で支えたまま地面に押しつけると、ツツの中から光の玉が飛び出した。打ち上げられた光は青空の中で消えぬまま、チカチカと点滅を始める。


 「近接戦闘班は守備の陣を取れ。行くぞ」


 騎士団長の声で行進が始まる。打ち上げ花火していた男の人の前を騎士団長が歩く。剣をたずさえている人たちがチーム全体を守るようにして、散らばった隊列で警戒にあたっている。俺はアネットさんの肩に乗せられているが、彼女は弓部隊の1人らしいから、隊の中では後ろの方に位置している。


 「アネット。それ、つれてくのか?」

 「え?だって、あたしの使い魔だよ?街につれてって手続きしなきゃ」


 目つきの怖いお兄さんが森へ視線を向けつつ、アネットさんに声をかけてくる。それというと、俺の事かな?


 「んだけど、どう見ても子どもの魔物だろ?親が探してんじゃないのか?」

 「あ……そっか」


 俺の体の大きさといえば、今はアネットさんのせまい肩に乗る程度だ。きっとウサギくらいの大きさである。なので、親や仲間とはぐれた魔物なのではないかとお兄さんは心配している様子だ。まあ、人間の姿で生活していた世界と死別したという意味では、はぐれ者という表現も間違いではない……。


 「ワンコロちゃん……お母さんのところに帰りたいの?」

 「……」


 このまま騎士団につれていってもらったとして、色々と仕事を受けることになったりでもしたら、その責任には応えられる自信がない。それに、リンちゃんの家の前に居場所まで作ってもらったのに、別のところに身を置くのも失礼だろうか。俺は返事に困って、声も出さずにうつむいてしまった。


 「……そっか。そうだよね。クリス。契約って、解除できるの?」

 「お前……そもそも成功してねぇぞ。体に契約の印、ついてないだろ?」


 やっぱり主従契約とやらは成功していなかったらしい。すると、俺がアネットさんについていく理由もなくなってしまう。隊列を乱さないよう歩きながらも、アネットさんは俺を地面へと降ろした。


 「ごめんね……じゃあね。ワンコロちゃん」

 「……」


 会ってから30分ほどしか経っていないのだが、騎士団のみんなはさみしそうな顔をしてくれている。俺とお別れすると見て、騎士団長が手を振り上げて隊の進行を止めた。彼は俺の前まで来てしゃがみこみ、大きな手で俺の頭をなでつける。


 「短い時間ではあったが、君は騎士団の一員であった。達者でな」

 「……わん」


 懐から小びんを取り出し、中に入っている液体を振りかけてくれる。魔人のアジトで騎士団長が飲んでいたものと同じビンだから、きっと回復の薬だと思われる。俺のステータスに体力値はないので、回復したかは解らないけど……気持ちはもらっておいた。

 

 「あら。お別れが悲しくて泣いてるの?大丈夫?」

 「……?」


 騎士団のお姉さんが、笑いながらに誰かをなだめている。アネットさんは……顔は赤いけど泣いてはいない。じゃあ、誰が……あっ。


 「泣いてない」

 「えー。クリス、泣いてるのー?自分から、アネットにお別れしろって言ってきたのにー?」

 「クリスだって、女の子だもの。涙は出るわよ」

 「泣いてねぇって言ってんだろうが」


 泣いているのは……目つきの怖いお兄さんだった。いや、今……女の子って聞こえたけど……えっ?あの人……女の人なの?あまりに男気あるから、勝手に勘違いしてた……ごめんなさい。


第20話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。