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第12話『帝国騎士団』

 屈強かつ鬼のような風貌をしていた魔人たちは、誰か知らない勇敢な人物によって倒されたらしい。つまり、俺が足止めに失敗した後、村へ向かった魔人たちを颯爽と討伐したカッコいい人がいるのだ。そんなマンガの主人公みたいな人が存在するものなのかと、憧れにも似た気持ちで想像しつつ……俺は今、リディアさんに運ばれているところである。


 「ん……でもね。リディアー。なんで、ヒカリちゃんは村からいなくなったんですか~?」

 「魔物が持って行ったんじゃないか?」

 「ここ数日は弱体化の魔法をはったじゃん?変なのは村に来ないっしょ」

 「前に浮かんだことがあったし……飛んでいったとか」


 俺は自分の意志で自由に動ける岩なのだけど、他の人たちは変な石だと思っているようなので、どうして一人でにいなくなったのか疑問に思っているらしい。村に近い広場にて、それを確かめるべく実験が行われた。


 「……ここならいいか」


 リディアさんが俺を平たい場所に置き、エメリアさんと2人で俺の前にしゃがみ込む。そして、黙って俺の様子を見つめている。リディアさんの大きな黒い瞳。ニコニコしているエメリアさんの深緑色の目。人の視線……怖い。やめてください……緊張してしまいます。


 「ほら、浮かんでみるんだ」

 「くすぐってみたら動くんじゃないですか~?」


 今にも逃げ出したい思いでいっぱいだったが、動いたら動いたで驚かれてしまう……そんな事情とは別として、彼女いない歴享年……女の人に見つめられた試しすらない俺は、耐性のなさもあって体を全く動かせなかった。エメリアさんが俺を指でつついたりしている。正直、触られている感覚はないけど、心はいっぱいくすぐったい。


 「ん~……今日のヒカリちゃんは調子が悪いみたいです」

 「そうかもしれないな……」


 一向に俺が動かないのを見て、2人は笑いながら立ち上がった。俺はリディアさんの腕に抱えられ、また森の中を運ばれていく。そろそろ村が近い。暗くなる前には村へ到着できそうだ。その道中、エメリアさんがクエストの報酬についてリディアさんへと尋ねる。


 「ヒカリちゃん捜索の報酬ってなんなんです?」

 「今日の昼食のお弁当と、夕食はいくらでも好きなものをいただけるという」

 「あら、お酒もいただけちゃいますか~?」

 「ああ……で、酔ったエメリアに襲われた前例があるからな。今夜は寝室を2つ借りた」

 「あは~」


 大人っぽいとは思っていたけど、2人ともお酒が飲める歳なんだな。いや……ここは日本じゃないからお酒に年齢制限もないかもしれないし、お酒と呼ばれるものも俺の知っているものとは微妙に違うのかも解らない。1つ解ったことは、エメリアさんは酒癖が悪いということくらいである。

 

 「そろそろ到着ですよぉ」

 「早く見つかってよかったな」


 コンパスの針を確認しつつ、エメリアさんが森の先を指さしている。大きな岩がある場所を右折すれば、村はすぐのはずだ。しかし……なにやら、大勢の人の話し声が聞こえる。お祭り……な訳はないか。太い木の陰に隠れながら、リディアさんが村の様子をうかがっている。


 「エメリア。帝国騎士団がいる……」

 「……あぁ、街のお偉いさんですね~」


 今までの雰囲気から一転して、リディアさんは真剣な表情を見せた。エメリアさんの態度には特に変わりはない。帝国騎士団って……冒険者の人たちとは違うのかな。高価そうな銀の鎧を着た人たちの姿が、村の門越しに俺にも確認できた。


 「ん~。じゃあ、今は行くのやめとく?」

 「……いや、問題ない。行こう」


 騎士団の人たちには会いたくない様子だが、リディアさんは自分から村へと歩みを進めた。村の入り口に立っている騎士団の人が、2人の姿を見ると手に持った長いヤリを立てた。


 「村に滞在している冒険者とは、お2人の事でしょうか。あなたが、リディアさんですね」

 「はい」

 「……君。ルクローム騎士団長へ報告を」


 騎士団の人は近くにいた別の人へと言伝を頼み、そのまま冒険者の2人を村の門で足止めしていた。エメリアさんはリディアさんから俺を預かり、疲れたとばかり俺を地面に置いて上に座り込んでしまう。別に重くはないし嫌ではないけど、エメリアさんは見た目の通りおしりが大きい……。


 「騎士団長。こちらです」


 ザッザッと足音が聞こえ、村から大勢の騎士団員たちが出てくる。その先頭を切って歩いているのは、ひときわ輝くヨロイを着た男の人だ。背も高い。その人がリディアさんの前に立って、さげすむような視線を向けている。


 「リディア。魔人を討伐したのは……お前か?」

 「いえ……」

 「だろうな……では、会ってすらいないのだな?」

 「……はい」

 「ならばいい」


 名前を知ってる点から見て、あの人はリディアさんの知り合いだと思われる。エメリアさんのスカート越しだから、よく聞こえないけど……その言葉は彼女を心配しているのとは、少しニュアンスが違った気もする。続けて、男の人は冷淡な言葉をリディアさんに差し出す。


 「万が一、魔人の子を植えつけられでもしてみろ。我が高潔たる一族の名を汚した罪、償えるものではない。調査が終了次第、お前を連れ帰る」

 「……それは」


 我が一族と聞こえた……つまり、あのルクロームさんという人は、リディアさんの家族なのだろう。お父さんにしては若そうだし、お兄さんの線が濃い。リディアさんは何も言い返せずにうつむいている。騎士団長がマントをひるがえし村へと戻っていくと、エメリアさんはリディアさんの小さな背中へと抱き着いていった。


 「……あれが、リディアの兄様ですか~?リディア、帰っちゃうんです?」

 「私だって、まだ帰りたくはない。だが……」

 「おかえりなさい!ヒカリちゃん、見つかった?」

 

 騎士団員が村で事情聴取をしている中をくぐって、リンちゃんがリディアさん達を迎えに出てきた。リンちゃんは村の外に俺の姿を見つけると、うれしそうな足取りで駆けよってくる。


 「あ、ヒカリちゃんだ。ありがとう!リディアさん!エメリアさん!」

 「この石で……あってるよな?」

 「うん。あってると思う。う~ん……ダメだ。運んでちょうだい」


 体の小さなリンちゃんには俺を持ち上げられなかったので、エメリアさんが俺を持ち上げて村へと入れてくれた。前に来た時は不審物として処理された為、ちゃんと村に入るのは今回が初めてだったりする。リンちゃんの家のトビラの横には、石でできたおわんみたいなものがあり、そこに俺はコツンと乗せてもらった。これがなんなのか、リディアさんが質問している。


 「リン。これは?」

 「へへ……ヒカリちゃんのお家。お父さんが倉庫にあったのを持ってきてくれたの。いいでしょ」


 何に使っていたものなのか解らないが、いい具合に器は俺の形にフィットしている。花瓶かな?青くてツルツルとした入れ物だ。リンちゃんが俺を探すよう依頼をして、置き場も作ってあるということは、ここにいていいと許しが出たのだろう。


 「2人とも、おかえり。夕食、そろそろ出せるよ」


 みんなの話し声を聞き、リンちゃんのお父さんが玄関の戸を開いた。リンちゃんの家は大きいけど、お店という感じではない。個人的に夕食をご馳走をするみたいだな。


 「……」


 みんなが家に入っていく。俺は家には入れてもらえなかったので、家の前の番として村の様子をながめている。騎士団の人たちも村の一角に大きなテントを張っているし、今日は泊まっていくと見受けられる。雨も降る様子はないし、野営にも難はなさそうだ。


 「リディアー!私、もう寝ます!部屋まで連れて行って!」


 何を食べているのかは見えないけど、俺も夕食の香りだけはいただいた。調味料を焦がしたような、いい香りがする。話し声までは聞こえてこないけど、元気そうなエメリアさんの声が1つだけ、夕食のあとにドアの外まで届いた。酔いつぶれてしまったみたいだな……。


 徐々に空が暗くなって、白い月が村を照らし出した。段々と村の家々も灯りが消えていき、歩く人影も少なくなっていく。騎士団の人たちは村の警備もしてくれていて、閉めた村の門の近くに必ず数人は武器を持って立っていた。

 

 「……」


 あの人は……リディアさんのお兄さんだ。こんな夜遅くなのに、団員の人たちに声をかけて回っている。騎士団長だから偉い人のはずだけど、部下思いで仕事熱心に見える。


 「……?」


 もう深夜だ。起きている村人はいないと思われる。そんな時間になって、リンちゃんの家の壁に何か、黒い服を着た人がはりついているのに気がついた。騎士団の人……じゃないようだ。黒い装束のすそからは、白い手足がのぞいている。ふっくらしたシルエットからして、女の人だと思うけど……誰だ?


 「……」


 謎の人物はカギを開けようと、玄関のドアノブをいじっている。ドロボウ……しかし、こんな騎士団の人がいる時に限って、村に盗みに入る泥棒がいるだろうか。う~ん……解らない。


 「リディア様……リディア様……」

 「……?」


 リディア様と、名前を呼ぶのが聞こえた……じゃあ、この人も知り合い……。


 「リディア様……はぁ……はぁ。く……はぁはぁ」


 盗人ではない。それが解った同時に、黒装束の人の口元からは、荒い息がもれだした。これは……別の意味で怪しい。俺は慌てて体を発光させた。


 「……!」


 突然、トビラの横に置かれていた石が光り出したとあって、黒装束の人は酷く驚いた挙動で家の影に隠れた。警備にあたっていた騎士団員が、俺の光を見つけて走ってくる。怪しい人影は慌てた様子で、石である俺へと捨て台詞を吐き出した。


 「お……おぼえてなさい!」


 騎士団員の人が家の前まで来た時には、もう女の人はいなくなっていた。さっきの黒い人は誰だったのか。そして、たまに家の中から聞こえてくる、エメリアさんのものと思しきあえぎ声がなんなのか……それが気になって、その夜は一睡もできなかった……。

続きます。

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