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ドライな近藤さんのライフワーク!  作者: 意州野 櫃蘭
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ファイル1 女子高生

                   プロローグ 

 

 私は近藤綾子、26歳。職業はOLをしている。好きなものは、完成された法則・理論。嫌いなものは、ファンタジー小説。小さいころからあもり容姿もよくなく暗かった私の趣味は、サイゼリアでの人間観察である。

 今日も仕事帰りの私は、サイゼリアに入り、奥から2番目の特等席に座る。私は、ファミレスのレトルト食品が嫌いなので、軽い飲み物しか飲まない。「ドリンクバーで」「・・・かしこまりました。」席を立ちコーヒーをカップに入れる。

 おっと、店内の自動ドアが開く。今日も、ブラックコーヒーによくあう、おいしい食事が来店してきたようだ。


                   ファイル1 女子高生


 私の高校時代、最も恐れる組織があった。クラスの代表格のあいつらである。奴らは基本4人組を結成し、美人、眼鏡、デブ、金髪で構成されていた。今回のターゲットも全く同じ構成だ。やはり、日本中の学校に奴らは沸き腐っている、私の仮説はどうやら、実証されたようだ。

 奴らは私の2つ隣の席に座った。幸い、間は空席である。ちなみに私は、5年間の苦行ともいえる鍛錬で習得したこの「地獄耳」で騒がしい店内であれ特定の人物の話を、一言一句聞き取ることができる。

 この人間観察において、一番神経を研ぎ澄まさなければいけないのは、ずばり、序盤である。序盤でいかにその人間関係の情報をより正確に、より多くつかめるかが、中盤や終盤に影響を及ぼす。

 奴らは、席に座ってすぐ、恋バナを開始した。ふん、やはりそのパターンか。いわゆるガールズテーマの王道である。特に女子高校生は恋愛に対して狂気的な関心を示すことが明らかになっている。この場合、デブが置いてきぼりになりやすい傾向があるが、ここはデブのコミュ力が試されるところといえる。

 恋バナは大きく二種類に分かれる。1つは、自らの彼や意中の人について語るパターン。そして2つ目は、他人のうわさ話、その考察を語るパターンである。私の統計によれば、3対7で圧倒的に後者の方が、より話のテーマとして選択される場合が多い。しかし、今回は前者のパターンらしい。

「彼がさぁ、マジあり得なくてぇ?私の話に全く聞いてなくてぇ。自分語りばっかりしやがるのぉ。マジ、ヤバくなぁい?。」

金髪が言う。なら別れろカス。こいつは私が幼少の頃から苦手としているタイプである。その大きな特徴として、現実とは思えない短母音の量と、それに対して薄すぎる内容があげられる。だいたい、何ですべての文章にクエスチョンがついてんだよ。なんだよ、どんだけ世の中にたいして疑問、文句があるんだよ。私か。

 相手への突込みのはずなのに、自分の皮肉を言っていることにきずき、すかさず集中を再び奴らに向ける。

「そうだねー。やばいねー。」

なんだと。美人が小学生動画配信者張りの棒読みで、その言葉を放った瞬間、私は少し驚いた後、すぐにその状況を理解した。金髪は浮いている。私は、心の中で、全力のガッツポーズを決めた。

 先人が残したこんな句がある。

 『四人組 一年たてば 三人組』

 私の好きな句、ベストテンにははいる、素晴らしい句である。数字の対比と、リーダー格が一人苦しみの底に落ちるという、句のコンセプトがグッドポイントだ。

 金髪はまさにその句のような状況だ。今後、3人は金髪に対して、無視を決め込むとみて間違いないだろう。

 そしてデブが口を開く。

「私、角野くんのことが好きなんだけど、次の火曜日告ろうと思うの。」

 私はその瞬間、バールのようなもので後頭部を強打されたと誤認するほどの頭痛と、謎の吐き気にみまわれた。何言ってんだ、このデブは。まず、そのどこに勝算があるのかご教授願いたい。そして、その授業料として、全身鏡をプレゼントしてあげたい。

「へぇー、そうだったんだ。うまくいくんじゃない?応援してるよ。」

 えっ。―—あっそうか。眼鏡が言ったその言葉の意味を理解するのに、またもや少々の時間がかかった。つまり、この4人組の覇権はデブがにぎっている。なるほど。

 このような女子4人組が結成されている場合、必ず覇権というものが存在する。大抵は美人がそれを握っているものだが、今回のような特例もある。

 「デブちゃん可愛いから、きっとうまくいくよ。マジがんば。」

と美人は「タバコ」を吸いながら言う。私はみじんたりとも驚きはしない。なぜなら覇権を美人が握っていない場合、そのクラスが荒れやすいという性質があるからだ。このケースはその典型だろう。ほかの三人もタバコに火をつける。

 あの女子高生たちは、もう少しで、サイゼリアが全面禁煙になるということを知っているのだろうか。

 このタイプの女子高生、今は充実していても、将来はそれを維持することが難しくなる。それを経て幸せになる人種はまれにしか存在しない。

 そして覇権を握っている者の、容姿が悪ければ悪いほど、学級が破綻しやすい傾向にある。

「もう、今からドキドキしてきちゃった。オッケーしてくれるかな~?美人ちゃんはなんか告白のコツとか持ってない?」

調子乗んなデブ。お前みたいなやつにオッケーしてくれる変わり者が早々にいると思うなよ。

 ここで注目すべきは、残り3人、特に美人の反応。くそデブのあからさまな勘違い発言を、どのように処理するか。うまくいかないと、金髪の二の舞だ。

「うーん。ありのままのデブちゃんでいいと思う。デブちゃん可愛いし性格もいいから。もしフラれたらそれは相手の見る目がなかったてことだと思うよ。」

ふむふむ。美人は意外とあいてを立てるのがうまい。この発言には、多くのからくりが仕込まれている。まず、この場において真面目にアドバイスするのはNGだ。なぜなら、デブが求めている返答の本質は、単純なアドバイス、ではなく称賛の声であり、自分ならうまくいくと、念じこむために、他人の力を利用してそれを得ようとしている。ここで、ありのまま、という言葉を使った美人は正解である。

 もう1つ言うと、フラれても、、、というくだりには相手に保険を提供するという、大事な部分だ。これが絶世の美女に言うのであれば、効果はなくなるがデブの場合フラれるのは目に見えている。つまり、保険は必需品なので、それを提供することで相手の意識していない部分から、好感度を上げることができる。

「そうじゃん。デブちゃんなら余裕っしょ」

相変わらず金髪は空気が読めない。

「本当にそうだと思うよ。それで、どんな風に告白するの?」

眼鏡が会話を次の段階へと持っていく。

「えー本当に―。じゃあやっぱり、今ラインで告っちゃおうかな。」

・・・かなり重度だ。このレベルに来ると巻き返しはない。どうやら私は昔から恨んでいた人種のトラウマシーンを拝見できるようだ。

 カチカチッカチ。速い手の動きで、とっととラインの文章を作る。私の期待が高まっていく。

「角野君へ。ずっとあなたのことが好きでした。サッカーで鍛えたスマートな体格や、人を思いやる気持ち、勉強にも熱心でひたむきにがんばるあなたが好きでした。私と付き合ってください」

 人は自分が持っていないものを持っている異性に惹かれるというが、どうやらあれは本当らしい。というかここまで、信憑性のある現実味を帯びた話だとは思っていなかったが。とにかくここでフラれて終わり。はい、解散解散。帰ったら今日の一人反省会をしよう。と思いも終わる前に事件が起きた。

「よろしくお願いします。僕もずっとあなたのことが好きでした。あなたは僕の持っていないものをたくさん持っていました。人がそういう人に惹かれるって話、本当だったみたいですね。」

 苦しくも、デブごときの意中の人、もう彼と呼んだ方がいいのか。その彼と同じことを考えていた。確かにそうだ。お前の持っていないもの、とやらをそいつは確かに持っている、神に誓って持っている。でも、そうじゃない。そうじゃないんだよ。きずけ角野。今ならまだ間に合う。

「ぎゃっほぉぉぉぉぉぉぅ。まじうれぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。」

デブの人の健康を何らかの形で害するであろう奇声が店内に響き散らかる。そうかよかったなデブ。頑張って1週間持ったら全身鏡をプレゼントしてやるよ。

「ん、なにこれ」

「ごめん、間違い。

 送られたのが眼鏡さんだと思って。

 ごめんお前のことは、嫌いじゃないけど、だめだ。 本当にすまん。

 なにこれ。意味が分からないんだけど」

 デブは怒りと憎しみと失望と—―人間の負の感情をこれでもかというほど詰め込んだ、醜い、より醜い表情で一点を見つめている。

 「その程度の男だったんだよ。最低」

美人が保険を発動させる。金髪はどうやらついていけてないらしい。

そのかたわら、眼鏡が顔を赤面させて、スマホをいじっている。これはそうだな、眼鏡も好きだったんだな。おめでとう。私は人生で初めて、他人の恋愛に関して祝福した。厳密にいえば、眼鏡の成功の祝福ではなく、デブの堕落についてだが。それでも祝福は祝福だ。

「私もう、帰るね」

 迫力が一切含まれた声でデブが言う。

「そうだねじゃあ今日はお開きということで」

 美人は相変わらず空気が読める。その後4人は会計を済ませ、サイゼリアを後にする。それぞれ違った表情で。妙に、眼鏡の照れ臭い表情が私の印象に残り、変な憤りを感じる。幸せになれよ。


 私は、結婚はおろか恋愛に関してみじんも関心を持つことができない。この性格もあるし、結婚したら私の自由な時間が剥奪される気がするからだ。同年代の女は結婚願望とか言うよくわからん欲求をもつようだが私には無縁である。


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