03.深い穴のその奥で
目を覚ますと、辺りは完璧な闇だった。
死後の世界?
そう思ったのだが、徐々に目が慣れてきて、薄暗い縦穴のなかにいるのだと理解した。
見上げるとかなりの高さにぽっかりひらけた穴が見える。ケモノ型モンスターに襲われる直前に偶然落っこちたらしい。モンスターの図体では追ってこられなかったのだろう。
「た、助かった……」
ほっとしたのも束の間、オレは思った。
ここから、どうやって出ればいいんだ?
穴はちょうどオレの体にフィットするサイズで、ほとんど身動きのしようがない。おいおい、こんな穴の中で人知れず死んでくなんて絶対イヤだぞ。
「誰かー!おーい、誰かいるかぁ!」
地上に向かって叫ぶ声はむなしく消えていく。もちろん応答はない。二度目は叫ばなかった。ヘタをするとモンスターが集まってくる可能性があるしな。
くそ、どうする?
ちょっと涙ぐみながら周囲をなんとなく探っていると、ポロポロと土が崩れる箇所があった。
ん、もしかして……そう思い、両手で土をかいていくと面白いように掘れる。助かる気配でオレは嬉しくなって、横穴を通すようにして一気に進んでいった。
やがて、もともとあったらしい横穴に突き当たった。何かの獣の巣穴だろうか。まさか凶悪なモンスターのじゃないよな。
オレの不安をよそに、道は少しずつ、なだらかな傾斜で上がっていく。このまま行けばいつか地上に出られるはずだ。
「ん?」
すぐ目の前に2つに分かれた分岐が見えたとき、左の横穴の先で何かが動いた気がした。地下に潜る道のようで、できれば右を選んでいますぐ地上に上がりたい。
のだが……
どうしても気になってしまい、オレはなぜか左の横穴を下っていくことにした。狂ってるとしかいいようがない。でも妙な予感があった。それに、おっさんたちみたく体のでかくないオレがやっとこしゃがんで通れる狭さだ。めったなモンスターも出てこないだろう。出てこないでくれ!
せっかく勇気を出して進んだが、穴は行き止まりだった。周囲に比べてほんのわずかだけひらけた空間になっていたが、何がいるわけでもなかった。
「でも、さっきのは何だったんだ。見間違いか?」
がっかりしつつホッとしつつ、オレは向きを変えて来た道を戻ろうとした。そのとき、背後でガサッという物音が聞こえた。
振り返ると、そこには1体の生き物が柔らかい土の下でブルブル震えながら隠れていた。