七ノ巻 火を吐く
久々の更新です。遅れてすいません。
「……そんな方法で人が殺せるのか?」
俺の質問に刑事が静かに答える。
「うん、まあ不可能ってわけじゃないんだよね」
何を言ってんだこいつは。
普通不可能だろう。口に燃えた新聞紙突っ込んで殺すなんて。
「新聞紙を丸めて口に突っ込んでも火傷するくらいだろ、普通」
「いやいや、そうじゃない」
刑事が誰も座ってないテーブルの周りをふらふら歩きながら説明を始めた。
「その新聞紙が、湿っていたらどうなると思う?」
不完全燃焼か。だが疑問は残る。
まず、どうやって被害者をおとなしくさせたか?
これは簡単だ。睡眠薬でも使って眠らせ、寝てる間にタンクに縛り付ける……。もしも、『死ぬ前』に目覚めたとしても、逆に口に入っている新聞紙が取れない上、縛られていることからの焦りで息が速くなり、一酸化炭素中毒になりやすくなる。
次に、焦げていた理由だ。
「それと被害者の体から、ガソリンが検出された」
それは恐らく被害者の体から遺留品を消すためだ。
燃やしてしまえば、指紋はおろか、体液すら残らない。ついでに、さっき言った新聞紙も燃やせるだろう。
だが、何故延焼しなかったのか?
「どうして、延焼しなかったんだろうな?」
俺の質問に刑事が唸りながら答える。
「うーむ。恐らくは床に水でも撒いていたんだろうが、その痕跡が見つからないんだよ」
「犯人が拭いた可能性は?」
「なくはない。だけどその場合、延焼する可能性が高くなる」
じゃあ犯人は、どうやってあの個室のみを、小火程度の火事で済ませたのか?
場合によっては、ただ燃やすだけの方が楽だ。トイレは屋外にあるから、外から燃やせば外部犯の犯行に見せられないこともない。
だがどうだろう。今回の犯人は何故かトイレの個室の中に火をつけ、何故中だけ燃やした。こんな回りくどい方法、何故使ったのだろう。そして何故、一酸化炭素中毒死なのだろう。何故口に燃えた新聞紙を入れたのだろう。
最後に、あの脅迫状らしきもの。
……あれに、何の意味があるんだろう。
トミノの地獄。
助教授は、そんな風に呼んでいた。
誰かに頼んで調べてもらうのが一番だな。
……マンガ喫茶に行けばいい?
パソコンを壊して弁償なんてこりごりだ。
「トミノの地獄とは、ネット上で有名な呪われた歌。黙読ならいいが声に出して読むと死ぬ、または不幸になるという話は有名である」
呪われた、ねぇ……。
恐ろしく怪しいな。本当に不幸になるだか。所詮は噂だろ?
「ちょっとハルさん」
やっと元気になった閃太が話しかけてきた。
「何だ?」
「依頼、来てますよ」
はあ?
誰だよ、取り込み中だってのに。
場合によっちゃあ、俺が呪ってやる。
「で、誰から?」
「志田さんです」
畜生、呪えねえ。
「何であいつは俺に仕事を回したいだか……」
「何か言いました?」
「いや別に」
……ついつい本心が出ちまった。