伍ノ巻 芦屋閃太
まずいことになった。
また、厄介事を押し付けられる気がする。
あの村から立ち去った後、東京に戻って事件の報告をした。が、報告しに来ただけなのに、フォルクローレの人事の話に付き合わされている。
もちろん、フォルクローレは常時人手不足であるため、クビ、なんてこたぁ無いだろう。
それに俺は、特に少ない静派のひとり。クビなんてない…よな……。
「して神前くん」
「ふぇ?」
ヤバイ、寝てた。人間って、退屈だと立ったまま寝れるもんなんだな。
しかも、閑な日本家屋の縁側。増してや眠くなる。
「君に補佐をつけ」
「ええええ!?」
「……まだ何も言ってないんだが」
まさか、補佐だとぉ!?
俺が、信用されてないというのか!?
頭を抱え悶絶する。
「何悶絶してるんだね。これは新入員の教育でもある」
と、志田が後ろから、誰かを呼び寄せた。
「芦屋くん。これが、神前晴間くんだ。あまり迷惑かけるなよ」
呼び寄せられた少年が、深く礼をする。
「よろしくおねがいします」
茶髪をし、片目が藍、片目が黒のオッドアイ。この少年、どこかで見たことがある。
「この少年が、芦屋閃太くんだよろしくたのむよ」
芦屋……。ああ!芦屋万里の弟か!
芦屋万里とは俺の同僚で、同じこの志田の部下だ。ちなみに万里は双剣使いで、動派だ。
兄に似ず、目が随分大きい。背も百八十センチ近くある俺より、二十センチ小さい。
そのくせ、デカいゴルフバックのようなものを抱えている。
志田と別れ、日本家屋を出る。
「まずは依頼だな」
「依頼ですか?」
「おう。お前の実力ってもんを見なきゃならん」
「じゃあ、僕は荷物を持って来ます」
はい?
「いやあ、昨日兄さんとケンカしちゃって」
何ですと!?お前まで居候する気か!もう先客二名(正しくはひとりと一匹)がいるんだよ!
「ことわ……」
「六月五日生まれの二十七歳。楽器演奏が得意でギターやケーナ、パイプオルガンがずば抜けてうまい。苦手なものは機械全般。特に携帯電話が嫌い」
「分かったからやめろ!誰から聞いた俺のこと!」
「兄さんです」
俺のことしゃべったのは芦屋兄か!予想はついていたが。
「いいですか?」
答えは沈黙。
「では続きを……」
「分かった!さすがにもうやめろ!」
くそう。何で俺がこんな目に。
所変わって閉鎖中の高速道路。只今午前二時。めっちゃ眠い。
丑三刻にはあらゆるものが眠る。妖が出る。丑の刻参りは有名だ。
「こねえなあ……」
俺達が待っているのは片目のセリカ。車に関する都市伝説で、白いソアラの次に有名な都市伝説だ。
「ハルさんが欠伸すること三十回」
……なんでそんなこと数えてんだよ。
と、カーブの向こうから異常な霊氣を感じて立ち上がる。
猛スピードで、かたっぽのライトがないセリカが突っ込んで来る。
「閃太!あの車を足止めしろ!」
「わかりました!」
膝丸を抜き、セリカを待ち受ける。
このまま打ち当たれば俺は死ぬ。だが策はある。閃太の得物に任せよう。
「ハルさん!伏せてください!」
タイミングよく伏せると背中の方から想定しない爆音が響き渡る。
振り返れば、一メートル超の機関銃を抱えた閃太がいた。セーラー服と機関銃に出てくる機関銃とは比べ物にならない。どう見ても、肩から提げたら脱臼する。ていうか重すぎて持てないサイズだ。それをノートパソコンより重いものは持ったこと無さそうな、サングラスが目の位置より下にある奴が、なぜか百キロはありそうなものを……。
セリカの足が止まる。今だ!セリカの車体を駆け上がり、フロントガラスから運転席に刀を突き立てた。
セリカが力無く止まり、そのまま消えていった。ただ、足下にキーが転がっているだけだ。
「今日はこれで終りだ。帰るぞ」
「これでやっと寝れますね」
何故それを言う、怪力坊主。
「明日から大きな事件の調査にあたる。邪魔するなよ」