勇者が魔王の側近やってます。
初投稿です!
ここは魔族達が大勢住んでいる魔国
その王国の城の中
会議室に魔王含め側近達が一堂に集まっている
「人間の国がまた勇者召喚をしたそうだな」
「ブラック王国ですね」
黒の下地に金の装飾が施された豪華な椅子に座っている朱金色の腰まである長い髪に頭の後ろから頭の形にそってこめかみまで伸びた白い角、伏せられた眼は金色、冷たい印象を与える雰囲気を与える美麗な男性の魔王が書類を一枚捲りながら口を開く
魔王の右隣、黒いちょっとだけ豪華な椅子に座っていた、黒髪で眼鏡をかけた青年が書類に目を通しながら答える
次に口を開いたのは魔王の左側のパイプ椅子に座っている、青い髪に片眼に片眼鏡を掛けた神経質そうな男が疑問を口にする
「そういや、10年前に召喚された勇者はどうしたんですか?死んだのですか?」
「死んだから召喚されたんだじゃないのか?」
逆立ったオレンジの髪色の青年が気怠そうに答える
「あぁ、その勇者私です」
と、サラリと言う黒髪の青年
一瞬部屋の中の空気が止まった
「はっ?」
「はい?」
「えっ、魔王様っ!?」
皆が呆然としている中、赤い髪の女性が慌てたように魔王を見る
「あぁ、知っている」
魔王は書類から視線を挙げずに当然だと答える
「「え、えええええぇぇぇ!!!」」
円卓の周りに座っていた魔王と黒髪の青年以外の側近達がガタガタとパイプ椅子を揺らす
「え、ちょっと待ってなんで勇者が此処にっ!?」
黒髪の青年の隣に座っていたフワフワの黄色い髪の男の子が慌てたように言っている
「転職したんです。あ、でもまだ称号欄に勇者残ってますよ」
事も無げに言っている黒髪の青年
今は書類ではなくステータス欄を確認しているのか指を中空に走らせている
「いやいやいや!転職て!転職していいものなの勇者!?」
よく分からないモブ顔の側近がツッコミを入れる
あ、と声を上げた黒髪の青年
「因みに横に宰相って書いてます」
「ああぁぁぁ!そうでしたね!宰相様でしたね!しかも氷の裏魔王って呼ばれる程怖い方で、ここ10年でそこまで登り詰めたお方なんですよね!魔族達の密やかな憧れの宰相様が勇者ぁぁぁぁ!?」
「ご説明ありがとうございます」
モブ顔の側近の説明に、ニコリともせず冷たい表情のままお礼を言った黒髪の青年
「えっ、ちょっと待って。って事は宰相様、人間!?」
黄色のフワフワ頭の男の子がビックリしたように言う
「えぇ、正確には異世界人ですがね。人間である事はかわりありません」
これはあまり重要ではないと言うように書類に目を移す黒髪の青年
「えっ、なんで、なんで魔王様の元に……?」
「この仕事、待遇が凄くいいんですよ」
「え、それだけ……?」
隣から呟くように言われた言葉に間髪入れずに答える黒髪の青年に、隣の黄色のフワフワ頭の男の子が驚く
「それだけなど酷いですね。良いところならば幾らでも挙げる事が出来ますよ」
「あ、ハイどうぞ……」
一言が感に触ったのか、黒髪の青年は視線を男の子に向ける
気圧された男の子は先を促すことしか出来ない
「まずは、有休がある事。年20日の有休があるので好きに使えます。更にこの有休、使わなければ最大45日まで増えます。そして完全週休二日制。これは大変素晴らしい。まずはこの2つに大変惹かれました」
「そうでもしないと休まない者達が続出するからな」
一気に饒舌になる黒髪の青年に魔王は淡々と答える
「次に福利厚生各種保険付き」
「この仕事は意外と危ない故な。それくらい当然だ」
黒髪の青年は目頭を押さえる
「時間外労働すると手当が貰えますし、頑張れば頑張るだけその努力が報われます。私の様な人間だって上に登ることが出来るんですからね」
「本来ならば時間外労働などさせるべきではないのだがな。目標があれば頑張る事も出来るだろう」
うっすらと笑みを浮かべる黒髪の青年に周りの側近達がざわざわする
そんな青年の事を魔王は頬杖をつきながら見ている
「しかも育休まで付いているんですよ。いつか良い魔族の伴侶が出来たら使いたいですね」
「魔族限定……!えっ、人間は……?」
黒髪の青年の言葉にその場にいた女性の側近達が頬を染める
一方男性達は戸惑った様に口を開く
すると口を開いた男性に向かってゴミを見るかのような目で見る黒髪の青年
「人間?人間なんてゴミですよ。権力、金、容姿目当てで擦り寄ってくる化け物達ですよ。しかもどれも化粧濃ゆいし香水臭いし性格最悪ですし不潔だし」
眉間に皺を寄せ、嫌悪の感情を声に乗せて話す黒髪の青年
「うわー……」
嫌悪の感情を感じ取った魔王除く全員が引き攣った笑みを口元に浮かべる
黒髪の青年は表情を元の無表情に戻すと、それに比べ、と続ける
「ここ程最高の職場はないでしょう」
「そう言って貰えると嬉しいものだ」
魔王は金色の瞳で青年を見ながら答えている。頬杖をついたまま
「あの……勇者の仕事はしなくて良いのですか……?」
水色の髪色の背に翼がある女性が聞く
「勇者の仕事?あんなものクソですよ。真っ黒以外の何者でもない。給金は初めに貰った分以外無い上に無償で人助け、魔物の掃討、荷物持ち、お飾り人形、はてには洗脳までしてでも勇者という戦闘兵器である奴隷を作り上げたがる。もうこりごりだったんですよね」
なんの感情も感じさせない声で一息に言い切る黒髪の青年
視線は書類に向かって伏せられているので、そこに何の感情が浮かんでいるのかは分からない
「え……、どうやって生活していたんですか……?」
水色の髪の女性がおそるおそるといった様子で口を挟む
「勿論魔物の素材を売ったり労働と引き換えに王宮に住んでいましたよ。私の目付け役だったバカ共は素材を売るという頭が無いせいで何度も魔物を黒焦げにするわグッチャグチャにするわで素材の剥ぎ取りがほぼ全く出来ませんでした。折角竜種を討伐したのに黒焦げにして素材を取れなくした恨みはかなり大きいですね」
これまた一息に話す黒髪の青年
「竜種を黒焦げにするとは勿体無い事をする」
そんな青年を見て微かに口元に笑みを浮かべている魔王が淡々と言う
「しかも彼女達浪費が激しくて激しくて、資金が無くて苦言を言うと私が責められると言う意味のわからない事をしてくれやがりますからね。中には稼ごうとした奴もいましたが厄介事を毎回持ってくるんで何もするなと思いましたね」
声に怒気が含まれ、部屋の中の温度が黒髪の青年を中心に一気に下がる
「宰相様の口調が乱れてるし殺気……!殺気漏れてます宰相様ー!」
モブ顔がブルブルしながら隣りのモブ顔の男と抱き合っている
「おっと、これはすみません。まぁ、そんな時ですよ魔王様に出会ったのは」
息を一つ吐いた黒髪の青年は話しを続ける
それを聞いた魔王が昔を思いだすように眼を細めた
「ふむ、新しい勇者と聞いて会いに行っただけだったのだがな。出会って早々此方に就職させてくれと言ってきて驚いた覚えがある」
「あの時はもう色々限界がきていたんですよね。まぁ、お陰でこんな良い職場に就職出来たんです。有難い限りですよ」
フッと笑う黒髪の青年
魔王も微かに微笑みを浮かべる
「ふっ、我も良い拾い物をしたと思っている」
「これからも宜しくお願いしますね魔王様。ただし、臣下や民を蔑ろにするような政治になったら容赦なく刺しますので」
しっかりと魔王を見て黒髪の青年がそんな事を言うが、周りの側近達は何にも言わない
「うむ。そなたに刺されぬようこれからも励むとしよう」
魔王は無表情で頬杖をついたまま答えるが、黒髪の青年はそれをっ突っ込まない
「さて、話しを戻しますが勇者召喚でしたね。その勇者(仮)を見たものは?」
さて、と言うように書類を持ち側近達を見渡す黒髪の青年
魔王も頬杖をつくのをやめると書類に目を通し捲っている
「あ、戻った……」
そう呟いたのは誰の声か
「見たものは?」
それはそれはとても良い笑顔を側近達に向ける黒髪の青年
その笑顔を見たモブ顔の男がガタンとパイプ椅子を倒して立ち上がる
「わ、私の部下が遠目で見たと言っていました!宰相様と同じ黒髪だったそうです!強さは分かりません!年がちょっといってたそうでおっさんだと言ってました!」
可哀想に、緊張した様子のモブはそう言うと椅子に座ろうとして後ろに倒れた
「おっさん、ですか。実際に私が見てきましょうか」
周りが笑いをこらえる中、気にもしていないのか、ふむ、と呟いた黒髪の青年はそう告げる
「我も共に行こう。ついでに魔国にある温泉の郷に行くのはどうだ」
そこに魔王が良い考えだと言わんばかりに黒髪の青年に対して提案を出す
「いいですね。ちょうど温泉入りたいと思っていたんですよ」
同意した黒髪の青年
「ふむ、ならば数日分の政務を片付けなければならんな」
「そうですね。頑張りましょうか。皆さん、今日の会議はとっとと終わらせますよ」
こうしていつもよりも急かされながら会議の時間は過ぎていった
この後、魔王と黒髪の青年が温泉に入っている時に勇者(仮)が来るお話はまたいずれ。
需要があれば書きます。