第1話 身の丈
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この話はフィクションです。実際の人物や地名、企業、団体とは関係ないといいですね。
『現実世界には“超能力”も“異世界”も“魔法”も“魔物”も存在しない。そう教えられてきたのだ。それなら今のこの状況が飲み込めなくても仕方ない…のか?』
家から自転車で40分かけて毎日通学しているのは見栄だ。バスなら15分で着くところを敢えてチャリ。バス代をケチるためという建前を親に伝えて、望んでいなかった感謝をされたのがつい昨日のように感じる。高校生活は残すところあと10ヶ月となり、受験モードのクラスメイトが右手にペンを左手に参考書を持ち椅子に腰をかけている今日この頃、俺は右手に剣を左手に盾を持っていた。
か、勘違いしないでよねッ!普段からこんな感じなわけねぇから。いやいや、これは不可抗力でね、だってさ、鞄の中身が防具一式とすり替えられていたら君だってそうするだろ?肩に背負った時の妙な重さの原因はコイツだったのか。自分の机の上で冒険者キットを広げたのをかなり後悔した。鞄の底にくしゃくしゃに丸められた紙も一緒に入っていた。
「Michael Fuck…?人名だとしたら随分クレイジーな親だな…まぁ隣りに住所らしきものと電話番号らしき数列があるから相当ヤバい両親なんだろうな。」
海外の領収書みたいなものなのだろうか?ドルで表記された金額を見てみると0が沢山並んでた。あれ?今1ドルって日本円でいくらだっけ?恐らく数億円に到達するであろうその数を確認した時には大体理解していた。
「どうせガキのいたずらだろ?相手するだけ無駄無駄。」
ん?そういや変だな。家出る前は教科書詰めてたから、これ、おかしくね?俺の鞄は家を7:00に出て以来1度も開けられていないのを確認していた。ママチャリの前カゴに載せた鞄の中身をすり替えるにしても、俺に見つからずに出来るわけがない。
「ちょっとホラーじゃね?」
と友達が一人もいない教室に向かって独り言。じろりと周りの目。嫌われてることを改めて確信する。さっきから俺が無視され続けているのには勿論理由がある。俺は普段から勉強したくてこの高校に入った訳ではない。周りに流されてなんとなく、そうやって人生の選択を誤答してきたと思っている。俺は周りのヤツらのほとんどが救いようのない馬鹿にみえていた。そんな態度が気に食わなかったのだろう。嫌われているのに、その相手のことを友人だと思える程の器は兼ね備えていない。そんな器、現代日本に売ってるかどうか怪しいぐらいだ。1年生の頃からずっとこんな感じだった。周りは大学受験のために朝早くから登校して、自分の机でカリカリ勉学に勤しんでいらっしゃる。そんな方々とは分かり合える気もしなければ分かり合いたくもない。いっそのこと異世界にでも飛ばされないだろうかと本気で考えたりする。
昨日読んだ小説では、主人公が初めて目にする魔法や異種族に驚きつつ、その世界で自分の存在を確立させようと必死に運命に抗っていた。
(実際に異世界行ってもなんにも驚かないんだろうな、俺は。もうそういうのは見飽きたし、何よりこの世界に希望が持てない今ならどんなシチュエーションでも受け入れることができそうだ)
つくづく主人公に向いていないと心の中で軽く残念がるフリをして、現実世界の非日常的なマントと鞘に収められた短剣とを交互に眺めため息をついた。
このままじゃらちがあかないので、担任の教師に相談しに行こうと職員室へ向かう最中で1人の女子高生が話しかけてきた。
「あ、あの、その鞄の中身を見ました…か?」
えぇ…君は誰?二人の間に5秒ほどの沈黙が流れたのち、その子は説明をはじめた。
「バッグの中身を返して欲しかったら校長室まで来るんだな…だ、そうです。」
ペコリとお辞儀をすると走るようにして去っていった。かくして俺の高校生活は壊れていく。