一日目
ある朝めが覚めるとそこは、知らない場所だった。
真っ白な壁、床。そしてベット。
自分の手へつながる点滴。
そして、ずきずきと頭が痛む。
いや、体中が痛い。
そして。
一番に思ったことがある。
「僕は誰だ……?」
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「あなたの名前は、吉河けいご。おはよう、目が覚めたみたいね」
知らない人がいる。
ああ。頭が痛い。
「ここは、どこだ?」
「ふふふ。本当に記憶がないのね。ここは、病院よ。
けいごは、交通事故に遭って記憶をなくしたの。って言っても覚えてないよね」
「君は……?」
「ああ!私?私は、佐々村もも。君の恋人だよ」
初対面と思われる彼女はそう言った。
「佐々村さんが……僕の……恋人?」
「うん。大丈夫、覚えてないよね。気にしないで」
彼女は小さくわらった。
着ているのは制服。白のセーラー服に水色のリボン。それに、彼女のショートカットがよく似合う。
僕の学校は、彼女と同じなのだろうか。
ふ。とそんなことを考えた。
「ふふ。あんまり慌ててないのね」
佐々村さんが呟く。
ああ、確かに。
僕は、どうやら記憶をなくしたらしい。
しかし、焦らないし、驚きもしなかった。
「僕は、これからどうしたらいいのか?」
そのぐらいしか、考えることはなかった。
その問いを聞くと彼女は微笑んだ。そして、耳元で言う。
「記憶を、取り戻さないで生きることかな?」
「え。」
「君の名は吉河けいご。
中学一年生。西丘中学校へ通っている。
親は吉河花と、吉河しょうた。
部活は、入ってない。帰宅部よ
そして、私。佐々村ももと付き合ってるの
おとなしい性格で、運動は少し苦手。でも勉強はそこそこできる。はて、記憶を、なくしたけど勉強の方は大丈夫かしら?
君はこれから、普通に生きること。病院も今週中には退院できるわ。私がサポートするから」
「は……はい……」
頭の中はすでにショート寸前。
だけど、どうやら僕には、困っていることもないもなさそうだ。
「僕は、吉河けいご。……中学一年生……」
その時だった。
「けいご!!」
勢いよく開いたドア。
女の人と男の人が立っている。
「ええと……誰だ?」
すごい勢いでこちらにくる。
「……よかった……」
抱きしめられた。
ああ、なんとなく予想がつく。
「お母さん?お父さん?」
驚いたような目でこちらをみてくる。
「分かるの?けいご」
「ううん。わかんないけど、なんとなく」
二人は涙を流して喜んでくれた。
……僕は、きっと幸せな人だったんだ。
佐々村さんは、微笑んでこちらを見ている。
どうして、僕は、記憶を取り戻さないで生きろと、言われたのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かんだ。