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色話-想いが色づく話

灰狐

作者: RYUITI

昔むかしのその昔、

一つの意思が形付く第一の軸より前の小さな話。


六つの伝承と大きな戦が満ちていた空間に、

同種の動物とは異なる色をした狐がおりました。


その狐は、色の違いと物静かな性格ゆえに、

同種の動物からも忌み嫌われ、

避けられていたものですから、

自らの名前を呼んでくれるものもおらず、

名という名もありませんでしたので、

名無しのままで長らく過ごしていましたが。


ある時、ふと降りてきた黒い鴉から「なんだお前は、荒れ地の灰と同じ色をしているから灰狐だな」

と言われた事を始まりとして、狐自らでも自分の事を灰狐〈はいぎつね〉と呼ぶようになりました。


そういえば、灰狐に名のようなものを言って飛び立った黒い鴉は、

灰狐に名を与えた後、

「この辺りも時期に大戦〈おおいくさ〉が始まるだろうから、

腑抜けか弱虫か頭使いは遠くのほうから見ていた方がいい。 」とも言っておりましたので、

気の小さく、他の動物ともあまり話したことのない灰狐は、黒い鴉の言うとおりに、

元居た住処を駆け足で移動して、森から山へ山から川へとたどり着くことになったのです。

その姿は小さな突風のようでした。


駆けだしたものの何処まで行けばいいのかちっとも、わからない灰狐は、

其れゆえに何も考えずに無我夢中で駆けていたものですから、

駆ける足によって遠いとおい川までたどり着いたとき、

ようやくゆるやかに足を止め、ゆっくりと息を吐き吸い落ち付く事が出来ました。


けれども、気持ちを落ち着かせた後に灰狐が辺りを見回すと、

今まで感じたことの無い、穏やかな風と静かな川の音が身体に響いて来たので、

其処で初めて、自分が遠いとおい見知らぬ場所にいることを実感したのです。


灰狐は、水浴びと喉の渇きを癒すために、流れが小さく降りやすい場所探しを始めて、

心地よい風とゆらぐような川の音を頼りに、先ほどよりもゆっくりゆっくりと歩き始めました。

灰狐がゆっくりと歩き始めたのには、急に駆けすぎて疲れが増した事と、

見知らぬ場所にたどり着いたのだから、何もわからぬままに進むと、

大変なことになるかもしれない。と思ったからでした。


用心しながらすんすんと川沿いを歩いていた灰狐は眼先に

先ほど歩いてきた場所よりもとても緩やかであまり力を入れて降りる必要もないくらいの灰狐にとって丁度の水飲みが出来る場所を見付けたので、苔の滑りに足を滑らせないようにこれまた慎重に歩を進めて行きました。



ピタピタと足に当たる岩とぬるりとした苔に足を乗せる旅にヒヤりとするので気は少したりとも抜けません。


そうこうしている内に、

頭を少しだけ下げれば水が飲める位置にたどり着いた灰狐は、恐るおそる川の水に顔を近付けていきました。


水が口元に付いた刹那、

ひんやりとした冷たさが身体中に行き渡る感覚に驚きながらも灰狐はゴクゴクと水を飲んでいきました。

「ふう~~。 」

お腹いっぱいに水を飲んだ灰狐が身体中の寒さに気が付いたので、水浴びをするのをやめて川から離れよう揚々と歩き始めると、

足を乗せていた岩の苔でつるりと滑ってしまい、水を飲んでいた場所まで戻ってしまったものですから、

いけないいけない!今度は油断しないようにしなきゃ。と心に決めて灰狐は行きと同じように慎重に進んで行ったのでした。


お腹一杯になった灰狐がはじめと同じように川沿いを歩いていると、遠くの方から灰狐の耳に、大勢のぶつかり合うような声が聴こえてきたような気がしましたが、

灰狐は軽い足取りで川沿いを尚も進んでいきました。


灰狐は知りません。

黒い鴉の気まぐれで、大きな火種と対する日常に身を投じていく事を。


灰狐は知りません。

川沿いの先にある場所で、

自らの生き方が大きく変わっていく事を。


これは、七番目の意思の――――始まりの物語。




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