居心地
「なんで俺だったん?」
ぽつりとこぼせば、それでもレイはそんな和哉の呟きを拾ったみたいだった。
「女神の神域の泉で、波長が合って視えたのは君だった。それに君の読んでいる読み物が面白くて」
異世界から覗き見でネットサーフィンしてたのかよ。
「で、俺はレイの女好きをなんとかすればいいわけ?」
「そうそう、理解が早くて助かるよ。あとついでに魔王討伐の旅に一緒に来てほしい」
本当にほんのついでのようにレイは俺に言った。
おいおいおいおいおい
和哉は思った。ついでに頼むような事なのか? それは…。
「女神の神域の気は人間には毒なんじゃなかった? 」
ネットサーフィンを楽しむくらいなのだ。あそこにいたのは消して短い時間じゃなかろう。
「普通の人間にはね」
レイは胸を張って言った。
「僕、『勇者』だから」
勇者がいるのに、なんで他に勇者が必要なのだろうか。
いや確かに『魔王討伐』だなんて一人で成し遂げられような事ではないだろうけど。
勇者が自分の女好きを直すために別の世界から勇者候補を呼び出すとかいう話、聞いた事も読んだ事もない。
とはいえ拒否権は和哉にはなさそうだった。
典型的な巻き込み型の勇者だな。と和哉は思った。
(そりゃ男子たるもの、異世界TUEEEEEは浪漫というものだけれども)
勇者になりたいだろう? 勇者にしてやんよ
とか言って異世界から他人を召喚してくる勇者というのも萎えるというか何か間違っている気がする。
しかも(自分の女好きを直してくれ)とは奇妙極まりない依頼だ。
まるでどこかのアニメの自分と契約する対価にだまし討ちのように抜けられない罠にいざなう小動物の罠にかかったような…
居心地悪さを和哉は感じていた。




