ノーカン、ノーカン セーフ?
ゲホゲホゲホゲホゲホ
ヒューと音をたてて息を吸い込む。
もっと空気が欲しい。もっともっと…。
和哉はひたすら空気を求めて喘いだ。
誰かが背中をさすってくれている。
その手が心地よくてだんだんと息が落ち着いてくる。
手のおかれているところから暖かいものがじんわりと染みてくるようでだんだんと落ち着いて来た。
泪が一筋頬を伝って顎から落ちた
「大丈夫か?」
やけにいい声が頭上から降ってきて和哉はその声の持ち主を見上げた。
そして固まった。
栗色の柔らかそうな巻き毛がまず目に入った。
次に男らしい太い眉、その下に深い緑色の瞳、高い鼻、彫りが深く唇は薄め、そして鋭角を描いている顎。
「へ」
ついさっきまで己は工藤家の自分の部屋で夏休みの宿題をしていたはずだ。
それが変な円が突然現れてそれが光ったと思うと水色の手のような物がその円から現れて自分はそれに引き込まれたのだ。
キョロキョロと周囲を見回す。
洞窟のような岩肌が見える。倒れている自分の足元の方には泉のようなもの。
そこから何かを引きずったような跡があって、自分はびしょ濡れのようだ。
つまりは自分は泉から引き揚げられたという事だ。
意識を失う直前、水面から手のような物が自分に向かって飛び込んで来た記憶からすると泉から引き揚げてくれたのはこの頭上で男前な顔を心配げな表情に染めているこの男性だろうか。
「うっ。ここ…どこ?」
上半身を起こしながら尋ねれば、その男性は肩膝をついた格好のまま、和哉の背に手を当てて座るのを手助けしてくれた。
大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、全然大丈夫じゃない。
一体全体何がどうしてこうなっている?
「ここは『ダンジョン女神の恵み』の中の神域だ」
外国人の年齢はわかりにくい。
和哉は頭の中のタレントの2世タレントの顔と比較検討して目の前の男性はまだ若そうだと結論を出す。
それにしても今なんて言った?
ダンジョン? 女神? 神域?
夢でも見ているのかと頬をつねってみる。
痛い。フツーに痛い。
そもそも溺れかけて死ぬような目にあったのだ、あの苦しさが夢なものか…
と和哉は考えた。
濡れた身体もなまなましく、息ができなかったあの苦しさ、そして唇に触れた柔らかい感触。
そこまで思い出して血が下がった。
自分に人口呼吸を施したのが目の前の美形なお兄さんである事に思い至ったから。
「俺ってば俺ってば…」
女の子とキスをする前にヤローとしてしまった。
間違いなくこれは自分の黒歴史になるに違いない。
とは言え、命の危険を救ってくれた目の前のお兄さんを責めるのはお角違いというもの。
向こうだって緊急事態でなければヤローに人工呼吸をしようなどとは思わないはずだ。しごくまっとうな人命救助の為だったのだから腹を立てるのは筋違いだ。
ー-ううっ! ノーカン。ノーカン!あれはノーカン!
ぎゅっと手を握り俯いた和哉を気分が悪いのかと心配してか、外人の美形兄さんが声をかけてきた。
「大丈夫か?カズヤ」
あれ?俺、自己紹介したっけ?
「召喚されたばかりで悪いのだが、ここの気は人間には厳しすぎる、移動をしたいのだが?」
はっ?
召喚?
はいいいいいい??????




