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消耗


 魔物の領域で魔物の殲滅、後続支援部隊と合流、その後エルフによる森の再生。

 そんなルーチンワークのような繰り返しを続けて半年ほどたったであろうか。



 見るからにレイとレイの仲間達の消耗が激しい。

 

 今代の勇者パーティもそろそろ終わりなのかもしれないなどと話をしている騎士達がいて、和哉は彼らをぶっとばした。


 自分の弱点やトラウマに立ち向かった事もない癖に、勇者を使い捨てしようだなんて何を考えているのか。


 いや、そうじゃない。

 ずっとそうやってこの世界はそうやって続いてきたのだ。

 誰も疑問を持ってこなかったに違いない。


 「レイ、大丈夫か?」


 レイの目には生気がない。もはや和哉との鍛錬すら続けられるような状態ではないのだ。

 休みなく自分の苦手な物と対峙し続けて、精神が疲弊していってしまったのだ。


 「カズヤ…とうとう僕も戦えなくなってきたようだ。僕が正気のうちに元の世界へ帰すよ」

 「レイ、そんな事をしたら君が…」


 今だってレイはいっぱいいっぱいなのだ。和哉が元の世界に帰ってしまったら誰もレイの盾になる者はいない。

 レイの消耗は加速してしまうだろう。


 「いいんだ。今までの勇者だって同じだった。次は僕の番だってことさ」

 「レイ。君の世界は君に優しくない、よかったら俺と…」


 このままレイと一緒に、和哉は自分の世界へ帰ってしまおうかと考えた。

 自分が来れたのだから反対もできるはずだ。


 レイは一瞬呆けた表情を見せた。

 そして次には、翳りを帯びた微笑みになる。


 「…考えた事もなかったよ…。勇者からの解放か…それは…」


 レイは目を閉じた。

 想像しているのだろう。しがらみから、勇者から開放された自分の姿を。


 「夢みたいだ…」

 

 しかし目を開けた時には、はじめて会ったようなあの笑顔になっていた。


 「ありがとうカズヤ。でもこれが僕の役目だから」

 「レイ…」

 

 和哉は思わずがっしりとしたレイの身体を抱きしめていた。

 これは友情からだと自分に言い訳しながら。



 「でもレイ、このままだと君は死んでしまうかもしれないんだぞ」


 和哉は自分の声が泣き声になっているのに気が付いた。それだけ感情的になっている自分に驚いた。


 「俺は、俺は…レイの親友だから、レイが不幸なのを黙ってみていられないよ」


 レイの方がずっと背が高いので和哉が抱きついているような恰好になる。


 「カズヤ…君に会えてよかった」


 やっぱりレイは和哉よりずっと大人でそして勇者だった。


 「ありがとう。僕の事をそんな風に心配してくれて」


 そして迷った風に手を彷徨わせた後、和哉の肩に手をおき呟いた。


 「君に精霊の恵みが常に共にあらん事を…」


 そして感極まったように和哉を抱きしめた。


 「ごめん。今まで、僕の勝手な都合でこっちの世界に留めてしまって」

 「レイ…レイ…。諦めないで、死なないで」




 夕陽が二人のシルエットを際立たせていた。

 物語の終わりを告げるかのように。

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