おわらせる事
ある日の夜、天幕を張った寝所で、和哉とレイは寝転がっていた。
森が再生されると不思議と魔物は現れなくなる。
比較的落ち着いた時間を和哉もレイ達勇者パーティも享受することになった。
レイ達、勇者パーティは、暫くここで英気を養うつもりらしい。
レイと一緒の天幕へ潜り込もうとするパーティメンバーをそれとなく牽制して、和哉はレイの睡眠時間の確保のための盾となった。
当然、女性達からは不満があがる。
だがレイが「今夜も和哉と眠る。邪魔しないで欲しい」
と周囲に誤解を招くような言葉で拒否を伝えれば、それ以上強硬な態度に出ようとする者もいなかった。
(うん、レイは女好きという訳ではなく女嫌いじゃないのかな。そしてそれ加速してるよね)と和哉は思った。
だからと言ってレイが同性愛に目覚めたわけではないのが救いだ。
和哉にはその手の事は未知であるとともにそういう性癖もなかったからだ。
勇者であるレイと和哉は、今のところ召喚主と召喚者という立場からは逸脱してはいない。
周囲にどう思われているのかは疑問であると同時に不安を覚えるところではあるが。
天幕を張っただけの場所に羊だがヤギだかの毛皮をひいた場所が今夜の就寝場所である。
とはいえ、野宿の上、魔物の襲撃に警戒しつつ交代で睡眠をとっていた今までより格段に休める。
今夜は警戒のために交代で歩哨に立つ必要もなく、心の安定には適宜な睡眠も必要だ。
和哉は久方ぶりにリラックスしていた。
そこで和哉はレイに聞いてみたいと思った事を聞いてみようと思った。
イマイチこの世界がどういうものかわからない。
第一、レイによってこの世界に強制的に呼び出されてからというもの、魔物との戦いしかしていない気がする。
合間にレイのストレス軽減という名の鍛錬が入るが。
「魔王とかいるわけ?」
「まだ誰も会いまみえた事がないがな。本当にいるのかもわからない」
「会ったことないのか」
まぁラスボスだろうし仕方ないか。
「もう少し身近にその存在が感じられたらよかったのだが」
「どういう意味?」
「…王がいたなら、その存在がわかればそれを倒したら終わりがあるかもしれないだろう?」
と言う事は、これで終わりという事がわからない戦いをレイ達は続けているということか。それはそれだけで心が折れそうな事だなと和哉は思った。
「今更だけど、レイたちって、勇者パーティなんだよね? で、レイたちが魔物を退治したあとにエルフ達が森を再生して人が住めるようにしているんだよね? 今、国とか町とか他の人達はどうなってるの?」
「ああ。魔物が現れない地域で暮らしているよ」
「勇者パーティの選別とかってどうなってるの?」
なんでか女性ばかりのパーティメンバーの人選に疑問を覚えて聞く。
「魔物と対峙した時に、その力が発現する。そしたら戦う事になる」
「と、言う事は、戦う力がない人もいるんだね」
「殆どの人が戦えない。」
和哉がこっちに来てからは幸いにして離脱者はいないのだが、せっかく戦う仲間が増えても、仲間は一人、二人と抜けていくらしい。
魔物の精神攻撃で心を壊されてしまうのだそうだ。
今まで和哉が知りえた範囲では、魔物との戦いに加わっている男子は勇者と和哉のみで、あとは殆ど女性ばかりである。
後方支援の軍の中には立派な鎧兜を纏った騎士達の姿も見えるが、彼らは魔物とは戦えないらしい。
魔物と対峙した瞬間に気が狂ってしまうのだそうだ。
どんなトラウマが彼らにあるのか知らないが、正直弱すぎだろうと和哉は思う。
「エルフ達は?」
エルフは魔法を使う。
それは精霊の力によるものらしいが。
「精霊の力を使う者は魔物の影響を受けやすいんだ。彼らの力が弱まってしまったら森の再生を行う者がいない」
精霊の力と魔物の力は相いれない物らしい。
エルフ達が戦いに加わらないのはそのせいらしい。
「レイ達は…どういう状態になったらこの戦いをやめられるの?」
いくつ魔物の領域を解放したのか知らないが、まさか世界中を戦って魔物から土地を奪い返しつくすつもりなのだろうか?
それは果たしてレイが生きているうちに終わるような事だろうか。
「僕が死んだら、次の勇者が選別される」
なんてこった。
和哉は何者かに祈りたくなった。
終わりのない戦い、勝利条件はなく離脱は自分の死亡。
それなんて無理ゲー。
「どっかで妥協はできないの?」
和哉は思わずため息をついた。
「終わるまでじゃなくって終わらせるって事はできないの?」




