寂しいと死んじゃう人々
「勇者様! 今回の敵も無事撃退できましたねっ」
「勇者様!次の目標ですが」
「勇者様!このリボン私に似合って…」
「勇者様、今度の休みですけど」
「ゆうしゃぁぁぁ!かまってほしいのじゃぁあ」
うるさいな 勇者厨め。
勇者が限界なのがわからないのか?
勇者の目のハイライトがどんどん無くなっている。
和哉は自分の剣を抜いて勇者を誘う。
「勇者、稽古をつけてくれないか」
ふっと勇者の顔に表情が戻ってくる。
「カズヤ…」
ほっとした笑顔を浮かべて勇者は微笑む。
「すまないね。これからカズヤと特訓なんだ」
勇者は自分からパーティメンバーの事は拒まない。
だから和哉が誘導する。
鳥籠の扉を開け放し、出口はここだと教えてやるのだ。
剣と剣を構える。
相手の魔力の流れを読む。
受け流し、受け止め いなし、振りかぶり、横なぎに、真上から、下から
払って、突き入れ、ねじ込み、押して、引いて、囲って、ぶつけて、引き寄せて、吹き飛ばす。
「上達したね。カズヤ」
「先生がいいからね」
頻繁に入れ替わるお互いの位置、後ろから、頭上から、死角から、足を狙って
胴を狙って、頭、喉、腕、急所。
「楽しいね。カズヤ」
「ははっ。付いていくのが精いっぱいだけど!」
フェイント!
目の前を剣先が 通過する。
避けたと思ったが、思わぬ方向から攻撃がくる。
「くっそっ、そんなんありかよ。どんなトリックだよ」
「…それを避けるカズヤもなかなか」
宙を、地べたを、飛び上がり、這いつくばり、のけぞって、屈んで 避ける。
「まだまだ!」
「ふふっ。スタミナもついてきたね。反応速度も悪くないよ」
勇者は楽しそうに笑う。
反対に和哉の表情は余裕がない。
「読んで。僕の攻撃を。僕の考えを」
「ちぃぃっ!反則だろ今のっ!」
「魔物は待ってくれないよ。死にたくないだろ?」
「わかってるっ!」
考えて、感じて、読み取って、誘って、絡みとって、刈り取る。
「ここだっ!」
「甘い」
容赦なく打ちのめされる。
はぁはぁはぁはぁ
和哉は息を切らして倒れて寝っころがった。
「勇者はなんでそんなに強いんだ?」
「強くなれなきゃ生き残っていないさ」
和哉の目には青空がうつる。
どこまでも広がる青い空。
「あ、船」
「帆がないね」
空に浮かぶ白い雲がちょうど戦艦のように見えた。
和哉のいた元の世界では帆船じゃない方が主流だ。
説明しようとして勇者のいた方角を見れば、もうハーレムメンバ-達に囲まれている。
あいかわらず勇者の目は死んだようになっているが口元は微笑みの形の標準装備のようだ。
少しはガス抜きになっただろうか。
和哉は気がついていた。
そう、この世界の人々はメンタルが強くない。




