こころの問題
タートルワームが現れた!
タートルアンツが現れた!
いらっ
気にしていない事なのに、いかにも意味ありげな感じで出てくるタートルのつく魔物に和哉はイラついていた。
しかもなんかどや顔しているような気がする。顔の部分は皮に埋もれているのだが。
「日本人の7割前後がそうなんだから別にどうこう思ってねぇよ!大きなお世話だ斬り!」
とうとうそんな名前の技を産み出してしまう程に。
反発力が乗るのか普通に斬るよりダメージが乗る感じがする。
どうやら異世界人の和哉の心を読むのは難しいらしい。
魔物たちは見当はずれな方向から和哉を攻撃している。
和哉以外のパーティメンバーは、自分の弱点やトラウマを狙った精神攻撃にいいように翻弄されているようだ。
気の毒だがうまいアドバイスが見つからない。
自分の割り当てである魔物を倒してしまうと、和哉は周囲を見回した。
苦戦している人がいたら手伝うつもりだったのだ。
いつものように、仲間は魔物と戦っていた。いや自分の弱点やトラウマと戦っていた。
和哉の視界の中で勇者が止まっているのが見えた。蟻の魔物が襲いかかってきているのに勇者はただ立ち止まっていた。
勇者にはどんな蟻美女が見えているのだろう。
動きを止めてしまうほど魅力的なのかそれとも嫌悪しているのか。
和哉は炎の槍を放った。
蟻の関節と関節の間にそれはささり、蟻は悶えて転がった。
「どうした??!危ないぞっ」
和哉の声に勇者ははっと気がついたようで蟻のとどめをさす。
「すまないカズヤ。魅入らされていた」
蟻にねぇ。たしかに見ようによっちゃくびれが素敵に見えなくもないが相手は蟻である。
和哉にとってはせいぜい首のところに皮がかぶっている変な生態の蟻だが勇者にはとても魅力的な蟻美女に見えるのだという。
他人のトラウマの姿は他の人には見えてこない。
その恐怖や嫌悪感はその人の物であり、他の人と共有できないのだ。
「勇者、疲れているんじゃないのか?」
和哉は勇者を労わった。 ついうっかり魅入られるとか勇者らしくない。
「大丈夫だ。問題ない」
勇者の答えはいつもと一緒だった。
だが和哉から見れば勇者の目のハイライトはいつもより少なく生気が感じられなかった。
戦いを離れれば、他のメンバーは弱点やトラウマから離れられる。
だが勇者は戦いを離れても苦手で大好きな女性達と関わり合いがなくなる訳ではない。
息継ぎをする時間がなくて勇者は気の毒だと和哉は思った。
せめて同性の仲間がもっと多ければ…
いやせめてパーティメンバーの女性達が勇者に依存するのをやめるならば、彼の心は平穏さを取り戻す事ができるだろうに。
和哉は勇者の心の危うさを思い同情というか心配というか、心を痛めるのであった。




