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姫幼女


その日野営地で和哉の歓迎晩餐会みたいなのが催された。


 晩餐会とは言うものの行軍中で野営中である。


 平らな場所に大きなテーブルが用意され、ささやかながら食べものが用意される。塩やハーブで味付けされた肉、クリーミーなソースで煮込まれた肉。

ワインのようなソースが添えられた肉。


 肉肉肉だ。


 合間に果物があるだけまだマシか。


 和哉は最初こそめくりめく肉ワールドに目を奪われたが、次第にお腹いっぱいになって果物を取ってしゃりしゃりと食べはじめた。


 あらためて野菜や付け合せの存在があって肉の旨さがひきたつんだなぁと遠い目をして自分以外の人の食事風景を眺めていた。


 さすが肉食女子。って肉食ってそういう意味だっけ? と首を傾げたくなる。


 レイのハーレムメンバーは決してがっついて食べている訳ではないのだが次々と空になっていく肉が供せられた皿に見ているだけでゲップが出そうになる。


 そして彼女達に左右上下を固められてハイライトのない虚ろな瞳で笑っているレイの口に次々とあーんの要領で消えていく肉。


 野菜も食べさせてやれよ―和哉はひそかに思った。


 気のせいかレイの瞳から零れる涙が見える気がする。



 ご愁傷様



 思わず拝んでしまいそうになって、和哉は生ぬるい視線をレイに送った。


 た す け て


 レイから念話が送り込まれてきたような気がしたが、さらっと無視した。




 その時だった、強化された和哉の感覚に何かが引っかかった。


 「そこかっ」


 食べかけの梨に似た食べ物を 投げるとそこに針のような物が刺さる。

白い果肉に刺さった針の周囲が見る間に毒々しく色を変えていく。


 「きゃー 勇者様あぁ」


 見れば嬌声をあげ倒れる姫幼女の上にのしかかる黒装束の影。

 その手にきらりと光る刃物の輝きを見て和哉はギクリとした。


 「姫っ!」


 だがレイの動きは素早かった。

 あれだけハーレムメンバーに固められていて身動きが出来ないような状態だったのに、いつの間にか抜け出していて黒装束の人物の腕に手刀を入れ、刃物を落とすと抑え込んでいた。


 「曲者め」


 女騎士が黒装束の顔を覆う布をずらすとそこから現れたのは銀色の美しい髪と美少女の顔。


 「何故わらわの命を狙ったのじゃ。誰の差し金じゃ」


 「……」


 鎧ドレスの姫幼女が詰問するも、黒装束の美少女は口を開かない。


 「おおかたわらわの存在を邪魔と考える義母殿の手のものであろうが、勇者パーティの一員であるわらわに刃を向ける事の意味をあのバカ母はわかっておらぬのであろうな」


 ため息を吐く幼女。


 おいおい魔王討伐も大事だろうが、お家騒動が大変な事になっているじゃないか君。


 大丈夫なの?といぶかしげな視線をむける和哉の前で幼女は自分の手を自分で思い切りつねっていた。


 「は?」


 目を剥く和哉を後に、控えていた騎士に曲者引き渡して立ち上がったレイに向かって姫幼女は走っていく。


 「ゆうしゃぁぁぁぁ!怖かったのじゃぁぁぁあ」


 あ、嘘泣きしてる。


 じと目になった和哉の前で姫幼女はレイの腕に飛び込んで震えている。

 迫真の演技といえる。


 「姫。僕がついていながら、怖い目に合わせてしまった。すまない」


 レイはレイで自分の腕に飛び込んできた姫幼女を壊れ物でも扱うようにそっと抱きしめて背中をよしよしと撫でている。


 気がついてないの?それ嘘泣きだから。


 他のハーレムメンバーも呆れているだろうと見れば、そんなこともなくむしろ闘争心をむき出しにギラギラとした目で姫幼女を睨んでいた。


 こ、こえええええ。





 


 


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