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【番外編6】コンティニューは続くよどこまでも(前編)

本編の異世界に飛ばされた後の話となります。

基本ギャグなので、深く考えずにお読みください。

 目の前には人型の魔物。

 少し知性があるそいつは、ゴリラの姿によく似ていた。


「はっはっはっ! 伝説の巫女、オレたちのモノ。返して欲しくば、降伏シロ」

 魔物は俺とタカに要求を突きつけてくる。


「おいタカ……なんでユメは魔物に捕まってるんだ。あいつさっきまで俺の背中におぶられてたよな」

「ユメは浮けるからな。あのゴリラの足元にあるバナナに惹かれたらしい」

 俺の言葉に、タカが答える。


 目の前には籠でつくられた檻のなかで、バナナにしゃぶりついてるユメ。

 まだ離乳食が始まったばかりなので、うまく食べられないようだ。

 脱力感が俺とタカを包んでいた……。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 この世界は乙女ゲーム『ドキドキ★エステリア学院』の続編である『はらはら★エステリアワールド』という異世界。

 普通の高校生だった俺は、ニホンという国で死んで、乙女ゲームのサポートキャラクターとして生を受けた。


 『ドキドキ★エステリア学院』は高校の三年間を恋愛して過ごすゲーム。

 普通の現代ニホンを舞台とした、普通の恋愛シミュレーションゲームだった。

 しかし、続編は異世界を舞台にした恋愛アドベンチャーで、俺と攻略対象たちはまとめて異世界に飛ばされてしまっていたのだ。


 仲間を集めて、さっさと世界を飛び越えて帰ろう。

 そう思った矢先、伝説の巫女である乙女ゲームの主人公で、俺の元の世界からの幼馴染であるユメが赤ん坊と化して。

 伝説のドラゴンはユメに食べ物を取られた恨みで、遠くの空へと消えて行った。


 この世界を支配する魔王を倒さないと、この世界が滅びる。

 そして魔王を倒さないと、元の世界へは戻れない。

 異世界からの勇者ということになってしまっている俺とタカは、王様からの必死のお願いもあって、魔王退治の旅へと出ることになってしまった。


 この前まで普通の高校生だった俺とタカだけれど、前回の勇者の力が体の中にあるので、多少はモンスターと戦うことができる。

 タカは槍使いで、俺は弓使いだった。


 ……本当は剣あたりが格好よかったんだがな。

 でも、赤ん坊であるユメを背負ったままだとやり辛いものがあるので、これでよかったかもしれない。


 このゲームの最終目的は魔王を倒すこと。

 でもその前に、一緒に元の世界から来た仲間を集めて、その絆の力で伝説の巫女であるユメの力を取り度さなくてはいけない。

 赤ん坊にされてしまったユメは、親代わりになってしまっている俺と、他のキャラとの間の絆で成長するらしかった。


 問題はどこに仲間がいるのかということなのだけれど、それは巫女であるユメにしかわからないらしい。

 俺たちの言葉がわかっているのか、わかっていないのか、「だっ!」とユメが指した方向へ来てみたんだけどな……。


 どうやらバナナに釣られただけのようだ。

 ゴリラ型の魔物がつくった、籠に棒をつっかえて糸で結んで、獲物がかかったら引っ張るという原始的罠に、見事にひっかかってくれていた。


「あっ、あんなところに空飛ぶバナナが!」

「な、なんだと!?」

 俺の声に釣られてゴリラ型の魔物がそちらを見た瞬間に、さくっとタカがやっつける。

 檻から出したユメが、俺の指し示した空へ飛ぼうとしたので咄嗟に止める。


 やっかいなことに、伝説の巫女になったユメ(赤ん坊)は空を飛べた。

 赤ん坊なのに食い意地が張っているところは、さすがはユメと言ったところだろうか。

 おんぶ紐よりも、体に紐を付けて風船のようにしていた方がいいのかもしれないと思い始める。

 そしたら、急にいなくなることもないだろうし。


「なぁタカ、俺たちこの調子でやっていけるのかな……」

「気が遠くなるな……」

 のんきにバナナをしゃぶっているユメを抱きながら、俺とタカは遠い空を見上げた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 一つの村にたどり着いた俺は、そこで生贄の話を聞いた。

 この村では魔王が生贄を寄越せと催促してくるらしい。

 村で一番の美人を連れてこいと言われた村人は、助けてくれと俺たちにお願いしてくる。


 旅が始まったゲーム序盤から、いきなり魔王というのは怪しい。

 タカがいうには、魔王を語る雑魚だろうとのことだった。


 女装して生贄のふりをして、相手を倒す。

 王道と言えるストーリだけれど、これもイベントの一つなんだろうとタカは口にした。


「オレが女装して魔王をやっつける。はるよりもオレの方が腕は立つからな」

「そうだけどさ、魔王が指定してきたこの壷の中にタカの体は入らないだろ?」

 うっとタカが言葉に詰まる。


 相手は小柄な人が一人入るような壷の中に、生贄の女を入れろと要求してきたのだ。

 大柄なタカでは頭がはみ出してしまうし、眼光鋭く男らしい顔つきのタカが女装するというのは無理があった。


「けど、はるを危険な目にさらすのは」

「平気だって。タカたちが近くで待機してくれてるし、一応短剣も持っていく。相手は花嫁として迎え入れるって言ってるみたいだし、女のふりをしてる間は殺されはしないだろ」

 タカは心配してくれていたけれど、適材適所だ。

 どうにかこうにか説得して、俺は生贄になった。


 馬車が止まって、壷が担がれる。

 タカたちはちゃんと馬車を追ってきてくれてるだろうか。

 信じることしかできない。

 ドキドキしながら、蓋が開けられるのを待つ。

 ゆっくりと差し込んできた眩しい光に目を細める。


「……へぇ、結構オレ好みだな」

 そう言って笑った、頭に羊のような小さな角がある魔族は、見覚えのある顔をしていて。

「ヨシキ?」

 俺は思わずその名前を呟いた。


「ヨシキ、ヨシキだよな? なんでこんな格好してるんだ?」

「……あぁ? 何言ってるんだお前」

 どこからどう見てもヨシキと同じ顔立ちをしているのに、そいつの表情は驚くほどに違っていた。

 苛立たしげに眉を寄せるその顔は確かに同じなのに、俺を慕う犬っぽい後輩の姿が重ならない。


「この女どうします?」

「オレの女にするに決まってるだろ」

 肌が赤かったり、一つ目だったり。いかにも悪魔っぽい魔族たちが、ヨシキの顔色を窺ってくる。


「いやでも、いくらあなたでも魔王様のモノに手をつけたらタダじゃすみませんよ?」

「オレはオレのしたいようにする」

 ヨシキは悪人のように、にっと笑って俺を軽々と抱き上げ、奥の部屋へと入った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「さっきはすいませんでしたはる先輩。あいつらの手前、ああいう態度しかとれなくて……ようやく会えましたね」

 二人っきりになると、ヨシキがくしゃっと顔をゆがめて俺に笑いかけてきた。


「やっぱりヨシキだったんだな! 無事でよかった……」

「痛いですよ、はる先輩」

 思わず抱きしめれば、慣れ親しんだ呼び方でヨシキが俺を呼ぶ。


 どうしてこんな事になっているのかワケを聞けば、こちらの世界に飛ばされたヨシキは、真央兄と共に行動していたらしい。

 しかも俺たちよりも十年前の時間帯に飛ばされてしまった二人は、魔族のいる中心部へ降り立ってしまった。

 それで魔族のふりをして、今まで過ごしてきたとの事だった。


「何で生贄とかそんなことしてるんだよ」

「オレがやったわけじゃありません。魔王様の威光を借りて、下っ端が威張り散らしているだけです。今は潜入調査中なんです。生贄の娘を確保して、その雑魚の尻尾を掴むつもりでいました」

 俺が尋ねれば、ヨシキがそんな事を言う。


「この魔族たちは、オレが元人間ってことを知りません。とりあえず先輩は、人間の女性としてふるまってくださいね?」

「……わかった」

 これも身の安全のためですと言われて、俺は頷いた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 魔王を語ったやつは、本当に雑魚だったらしい。

 俺の目の前で、ヨシキが簡単に倒してしまった。

 ちなみにヨシキは『格闘家』の勇者の力を得ているらしく、素手で相手を叩きのめす姿は、魔族の中にいても全く違和感がなかった。


 タカと合流しようとすれば、ヨシキに止められた。

 そんなことをすれば、魔族の味方に怪しまれてしまうとのことだ。

「でも戻らないと心配させるし」

「大丈夫です。タカ先輩にはオレから文を出しておきますから。とりあえず、真央先輩と合流しましょう」

 渋る俺に、ヨシキはそんな事を言ってくる。


 少し悩んだけれど、真央兄が仲間になってくれるなら、こんなに力強いことはない。

 俺はヨシキにつれられて、真央兄に会いに行くことにした。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 真央兄がいると案内された場所は、おどろおどろしい城だった。

 ゲームでいうと、まさしくラスボスの魔王がいそうな雰囲気のある大きな城だ。


 黒と赤で統一された城の内部は、意外とお洒落で掃除が行き届いているように見えた。

 赤い高級そうな絨毯がしかれた間を歩いていく。

 一際高い場所に、ある王座に誰かが腰掛けていた。


 茶色い髪に巻いた立派な羊のような角がある男。背中には大きな黒い翼。

 整った顔立ちに、切れ長の瞳にはつまらなそうな色があって。

 まるで全てを威圧するような存在感をまとっていた。

 それは表情を除けば、俺の知っている真央兄と瓜二つで。


「真央兄……?」

 俺の声に、真央兄によく似た男が顔をあげてこちらを見る。

 血を思わせる赤い瞳が、俺を見て見開かれて。


「は……る……? はるなのか?」

 呟かれた男の声は、忘れもしない真央兄の声だった。

「ようやく見つけてきましたよ。魔王様」

 ふっとヨシキが俺の隣で笑った気配がした。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「よかった。はるにずっと会いたかったんだ」

 真央兄はご機嫌で、俺から離れてくれない。

 べったりとくっついてくる真央兄は俺を膝の上に座らせて、ご飯を食べさせてくる。


「真央兄、自分で食べられるから」

「駄目だよ。はるは今、攫われてきた人間の娘ってことになってるんだ。だから、それっぽい扱いをしなきゃ怪しまれるだろ? 勇者だってばれたら大変だ」


 恥ずかしがる俺に、聞き分けてというように真央兄が口にする。

 まぁ確かに、魔族の城に勇者がいるというのはマズイ。

 でもそんなことを言ったら、そもそも真央兄たちだって異世界からの勇者のはずなんだが……この方が秘密の話もしやすいので、素直に従うことにする。


「魔王様、お風呂の準備が整いました。いつでも入浴できます」

「うんご苦労。下がっていいよ」

 魔族の使用人が、真央兄に頭を下げて退室して行った。


「……あのさ、真央兄。気になる事がいくつかあるんだけど」

「何?」

 真央兄がなんでも聞いてというように、首を傾げた。


「この魔族の人たち、何で真央兄のこと魔王様って呼んでるの?」

「だって僕、魔王だし」

 俺の質問に、真央兄が何てことないように答えた。


「十年前に魔族の土地に落ちてきちゃったからね。わけがわからなかったけど、魔族のふりして付け入ったんだ。やるなら徹底的にと思って、魔族の中で上り詰めたんだよ。それでさっくり魔王と魔王の腹心倒したんだけどね。実は魔王とその配下って、倒した者が力を受け継いじゃうらしくて」


 参ったよねと真央兄が笑う。

 どうやら真央兄は、この世界の魔王を倒して役割を受け継いでしまったらしい。

 ちなみにヨシキはその配下の力を受け継いだらしく、今では魔王である真央兄の右腕との事だった。


「いやいやいや、どうするんだよコレ! さっき真央兄には話したけど、これあの乙女ゲームの続編なんだぞ!? 魔王を倒して封印しないと、元の世界に帰れないのに。真央兄が魔王なんてどうしたらいいんだよ!」

 混乱する俺の頭を、真央兄が撫でてくる。


「おそらくはこのゲームのストーリはこうだ。七人の勇者の中で、魔王と魔王の配下を倒した者が、その役を引き継ぐ。そして残りの五人と巫女でこの二人を封印し、世界に平和が訪れる。つまりは勇者のうち二人は生贄のようなものなんだよ」

 淡々と真央兄は語った。


「魔王は人の中にある悪い心を具現化したものなんだ。だから、完璧には倒せない。そしてそのつど、その力を封印するための器が必要になるんだ。この世界の人たちは、異世界から人を呼んで、この悪しき習慣を繰り返していたんだ。今回それが僕だったってだけの話」

「そんな! 優しい真央兄が魔王だなんて。間違ってる!」


 叫ぶ俺の頭を、真央兄が優しく撫でてくる。

 その仕草が、まるで苦しい運命を受け入れてしまっているみたいで。

 涙が出そうになった。


「つまり俺たちは。真央兄とヨシキを今から封印しなくちゃいけないってことなのか?」

 そんなの嫌だ。

 間違ってる。

 なんで真央兄と、ヨシキがそんな目に会わなくちゃいけない。


 俺が誰も選ばずハーレムルートに進んだのが、そんなにいけない事だったのか?

 どこにもぶつけることのできない憤りを感じていたら、宥めるように真央兄が俺を抱きしめてくる。


「落ち着いてはる。人間の王に、そうしなければ魔王が世界を滅ぼすって言われたんだよね。でも僕が封印される事なく、世界を滅ぼさない方法がただ一つだけあるんだ」

「それは……?」

 くすっと笑う真央兄には余裕がある気がして、希望を求めるようにその顔を見上げた。


「魔王の中には常に負の感情が溢れてる。でも、それをずっと癒し続けてくれる人がいれば、力は暴走することがないんだ。僕は側にはるがいてさえくれれば、満たされる」

 幸せそうに真央兄が俺に微笑みかけてくる。


「そんなことで、本当に?」

「あぁ本当だ。ねぇはる。今の僕の瞳の色は何色?」

 首を傾げる真央兄に尋ねられて、その瞳を覗き込む。

 ここにきた当初赤だった瞳の色は、俺の知る真央兄と同じ茶の色に戻っていた。


「茶色になってる……さっきは赤だった気がしたんだけど」

「魔王の方の衝動が強いと赤になるんだ。でもはるに会ってから久々に元の色に戻った。自分でもわかるんだよ。はるがいれば、僕は僕でいられるって」

 俺の言葉に答えて、真王兄が瞳を覗き込んでくる。

 俺に会えて嬉しいと訴えてくるような、喜びに満ちた目を真央兄はしていた。


「確かに元の世界は恋しい。でもね、僕ははるさえいればどこでも幸せになれるんだ。それにこの国だと魔王である僕が法律だから、結構過ごしやすいしね?」

 くすっと真央兄は笑う。

 王者の風格漂う、酷薄な笑い方で。

 あれ? もしかして真央兄そもそも帰る気ないのかなと、そんな事を思う。


「ねぇはる。ここでは人間世界の細かい法律なんてないんだ。僕が決めることが全て。だからはるも安心して、ずっと僕の側にいて愛されていればいい」

 真央兄の手が俺の頬をなぞる。

 俺を見つめる瞳に宿る光が、すっと危険な色を帯びた気がした。

 ふっと笑うその表情が、壮絶に色っぽくてぞくぞくと背中を不思議な感覚が駆け上がる。


「抜け駆けは駄目ですよ、魔王様! はる先輩はオレの嫁として連れ帰ったんですから!」

 バンとドアを開けて部屋に入ってきたのはヨシキだった。


「まさかとは思うけど僕とやる気なのかな、ヨシキ?」

「例え魔王様でも、はる先輩は渡せないです。それに今ならオレだって、はる先輩を守る力がある」

 バチバチと真央兄とヨシキが火花を散らす。


「へぇ、生意気いうようになったな? 俺様の犬である間は可愛がってやっていたが、反抗するなら容赦はしない」

「望むところです!」

 真央兄は、いかにも魔王様という笑みを浮かべて立ち上がる。

 優しかった真央兄も、この十年の間魔族の中で戦って色々あったんだろう。

 それでいて、ヨシキもヨシキで大分好戦的になってしまったようだ。


「大変です魔王様、ヨシキ様! 勇者が攻めてきました!」

 戸惑いを隠せずにいたら、誰かが慌てて部屋に入ってきた。

 よく見れば、真央兄の秘書の鈴木さんだ。その横にはその妹で、俺のクラスメイトだった鈴木さんもいる。

 どうやら二人とも、一緒にこの世界に飛ばされていたらしい。


 勇者って……もしかしてタカたちか!?

 そう思ったけど、ここはかなりあの場所から離れていた。

 魔族の使っている魔竜でここまで着たけれど、タカたちは竜を持っていないから、少なくとも一ヶ月はここに来れないはずだ。


 真央兄とヨシキは、戦いを納めてそちらへ向かうようだ。

 なので、俺もそこに同席させてもらうことにした。

4/17誤字等修正しました。

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