【番外編5】子猫のはると魔王様2
校門前で、真央兄と待ち合わせする。
ユメも一緒だ。
何故かユメは真央兄を苦手としているのだけれど、俺が真央兄の家に行くときは、昔から必ず着いてこようとする。
理由を聞けば、「はるちゃんが監禁されたらどうするの!」との事だ。
意味がわからない。
何故真央兄が俺を監禁する必要があるのかも謎だし、どうしてあんな優しい真央兄を見てそんな発想が浮かぶのか。ユメの思考回路は謎だらけだ。
「悪い、真央兄待ったか?」
「ううん平気だよ」
遅れてきた俺たちに、真央兄は柔らかく微笑む。
その手に、細かな引っかき傷があるのを見つけた。
「真央兄、手の傷どうしたんだ。まさか『はる』がやったのか?」
「うん。ちょっと引っかかれちゃって……」
俺の言葉に、見つかっちゃったかというように真央兄が困った顔をする。
「大丈夫なのか?」
「僕がいけないんだよ。お気に入りの玩具を取り上げると、取り返そうとして必死に『はる』がひっかいてくるんだ。その姿が可愛かったから、ついやりすぎちゃった」
ちょっと照れたように、真央兄が笑う。
「真央兄って、意外とお茶目なところあるんだな」
「お茶目ってはるちゃん、それただドSなだけだと……いや、何でもないです」
思わず笑った俺に、横でユメがぼそっと何か呟いていた。
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「はい、これはる。攻略対象の資料だよ」
「調べててくれたのか!?」
「もちろんだよ。可愛いはるのためだからね」
家に着くと、紙の束を真央兄が手渡してきた。
本当に真央兄は俺に協力的だ。そこには俺だけでは到底得られない内容の、攻略対象の個人情報が載っていた。
ちょっと犯罪の香りがしなくもないけれど、それはそれだ。
俺のために色々手を尽くしてくれたんだろう。
ちなみに今、真央兄の家のリビングにユメはいない。
真央兄の父親の秘書で、実質的には真央兄付きになっている秘書の鈴木さんとお茶受けの菓子を買いに行ったのだ。
鈴木さんはどうにもユメを甘やかす。
真央兄の家にユメがくるたび、お菓子を選びに行きましょうとユメをデパートに連れ出すのだ。
まるで孫を甘やかす祖父みたいだと思わなくもない。二十代後半の鈴木さんは実際にはそんな歳ではないのだけれど、やってることはまさしくそれだ。
……あいつ、真央兄の家についてくるの、これが理由なんじゃないだろうな。
十分にありえる話だった。
「はるは本当に、この棒の玩具とボールで遊ぶのが大好きだね」
ふふっと笑うように真央兄がそんなことを口にする。
脈絡のない言葉に驚いて、ソファーで見ていた資料から目を離して、真央兄に目を向けた。
真央兄はカーペットの上で、猫の『はる』と遊んであげていた。
同じ名前だから、ちょっとややこしいなと思う。
どうやら真央兄は、猫に喋りかけるタイプだったらしい。
甘い顔ではるに目線を向けていた。
「ふふっ、はるは甘えん坊だな。そんなに僕の指が気持ちいいの? じゃあもっとしてあげるね?」
資料の続きを読もうとしたら、妙に色っぽい真央兄の言葉が聞こえてきて集中できない。
自分が言われているような気分になってしまう。
駄目だ。
集中、集中。
あれは俺のことじゃないんだから。
「んっ……はるの舌、少しざらついてて温かいね。そんなに舐められると、くすっぐたいよ?」
駄目だ、気が散る。
真央兄も無駄に吐息交じりなのがいけない。
「真央兄……その猫の名前どうにかならないのか?」
「やっぱり気になるんだ? でもこの子、もう自分の名前だと思っちゃってるしなぁ」
俺の言葉に、真央兄が困った顔になる。
その指先をがじがじと、猫の『はる』が齧っていた。
「おい、はるやめろ。真央兄も叱らなきゃ駄目だろ。歯型ついちゃってるし」
真央兄から引き剥がせば、不満そうに『はる』は鳴いた。
その体を抱いて、俺もカーペットに腰を下ろす。
「でも僕、はるに噛まれるの嫌いじゃないしね」
「昔から思ってたけど、真央兄は優しすぎる。自分が痛い目にあったり、犠牲になったり、俺なんかのために一生懸命何かしてくれたりして。絶対人生損してるぞ」
少し呆れてそういえば、真央兄は苦笑した。
「そんなことないと思うけどね。僕ははるが思ってるほど優しくないよ。僕の優しさは見返りを求めてるから。僕はかなり汚い人間なんだよ」
「……本当真央兄は真面目だな。人間誰だってそういうところがあるだろ」
真央兄はこんなに凄い人なのに、どうにも自己評価が低く、自分に厳しい。
潔癖すぎるところがあるんじゃないかと思う。
「そんなの、はるが僕の本性を見てないからそう言えるんだよ」
「別に見たって俺の態度は変わらない。真央兄は真央兄だろ」
そう返せば、真央兄は大きく目を見開いて固まった。
それから、くすりと口元で笑う。
真央兄が、四つんばいになって俺との距離を縮めてきた。
指で俺の頬をなぞってきて、真っ直ぐ目を見つめてくる。
「そんなことを言われたら、僕を全部受け入れる気があるのかって……期待しちゃうだろ、はる」
真央兄の纏う空気が、一瞬で変わった気がした。
柔らかい声が、強引で熱のこもった印象を与えるものに代わる。
優しい色を称えていた目が細められ、妖艶な色を帯び、薄く笑う唇が別人のような印象を俺に与えた。
「真央兄……?」
思わず後ずされば、さらに真央兄が迫ってくる。
顔がすぐそばにあって、あと少し真央兄が近づいてきたら、押し倒されてしまいそうだ。
「本当はるは可愛いな。首輪をつけて、僕だけのものにしてしまいたくなる。閉じ込めて……優しく甘やかして。僕だけしか見えないように……ね?」
つつーっと首筋を指でなぞられて、ぞくりと痺れが体に走る。
囚われた獲物のように、俺は身動きがとれなかった。
「はっるちゃーん! ただいまー! いっぱいドーナツ買ってもらっちゃ……」
ご機嫌なユメの声が途中で止まり、袋が床に落ちる音がした。
そちらを見れば、ドーナツの袋を両手から落としたユメがいて。
呆然と俺たちを見て、固まっていた。
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「ほらできた。首輪可愛い」
真央兄が、鈴木さんが買ってきてくれた首輪を猫の『はる』に付ける。
どうやらさっきまでの真央兄の会話は、いつのまにか俺のことから猫の『はる』のことに切り替わっていたらしい。
首輪うんぬんは、どうやら猫の『はる』の事だったようだ。
本当まぎらわしいというか、真央兄の天然っぷりには参ったものだ。
「参ったっていうのは、ユメの台詞だよはるちゃん……どうしていつもちょっと目を離した隙に、魔王様に押し倒されそうになってるの……」
ユメがいない間の真央兄の話をすれば、何故か疲れたようにユメが溜息を付く。
「はるちゃんは危機感が足りないよ! ここは旅人の疲れを癒す宿屋じゃなくて、魔王城だってことを全く理解してない。このドーナツのように、甘い罠がいっぱいなんだよ!」
いつもながらユメの言ってることは、よくわからない。
それと両手にドーナツを持って、同時に食べるのは行儀が悪いからやめろ。
何度言ったら本当にわかるんだろうか。
「ユメちゃん、はると何の話してるのかな?」
「ヒッ!」
真央兄が背後から肩に手を置いただけで、ユメが大げさなほどビクリと体を震わせる。
「あっ、ユメちゃんずるい。僕の分まで食べちゃったんだ?」
「すすす、すいません魔お……真央兄様。つい怒りに任せて口に入れてしまいました!」
残念そうな顔をした真央兄に、怯えた様子でユメが謝る。
土下座までしなくても、真央兄はこれくらいで怒ったりする人じゃないのに、何故かユメは真央兄を怖がる。
「真央兄、俺のでよければ食べるか? 後一口分しかないんだけどさ」
「うん、ありがとはる」
そう言って真央兄が俺の所によってきて、手に持っていたドーナツをぱくりと食べた。
ちょっと指ごと食まれる。
「ん……はるの指甘いね」
「真央兄、猫じゃないんだから、俺の指まで食べるなよ」
「ふふっ、ゴメンつい」
全く真央兄はしかたないなと思っていたら、かぷっと噛み付かれる。
「痛っ、何するんだよ真央兄?」
「首輪の代わりに僕の印をつけようかなって」
戸惑う俺に、真央兄はにこにこといつもの優しい笑みを浮かべていたけれど。
サディスティックな色がその瞳の奥に見えた気がして。
「……どうしたの、はる?」
「いやなんでもない。それよりも、この資料なんだけど」
きっと気のせいだと、俺はそれを見なかったことにした。
番外編、魔王様多めですいません。
前に書いた没ネタが多いのと、ドS腹黒って書きやすくてですね。
エイプリルーフール企画、乙女サポートBL版、4/1~4/14までタカルートBL版を公開してましたがこれにて終了です。
投票数タカ3魔王3王子2でした。協力してくれた方、感謝です。
これで全部書き換え終了です。楽しんでいただければ嬉しいです。




