【番外編4】子猫のはると魔王様1
書いたのはいいけど魔王様がホモホモしいような……と没にしてたネタです。なので苦手な方はご注意ください。
「いいか、ユメ。今から攻略対象の不良少年、須賀浩介が通りかかる。そこでお前はあの木に登って下りられなくなっている猫を保護し、下りられなくなったところを助けてもらうんだ」
「わかったよ、はるちゃん!」
俺の指示に従って、ユメが桜の木によじ登ろうとする。
現在は高校一年生の春。
この世界である乙女ゲーム『ドキドキ★エステリア学院』の舞台となる学院に、俺は入学してきた。
俺の目的はただ一つ。
幼馴染でこのゲームの主人公であるユメを、攻略対象たちとくっつけ、ゲームをクリアし、元の世界に戻ること。
そのために、まずは出会いイベントを起こさなければいけないとはりきっていた。
あまりやる気のないユメに、これがうまくできたら新しいゲームを買ってやるとエサで釣ったため、ユメを袖をまくって木のぼりに挑戦している。
「よいしょ、んっ、よいしょ! あれおかしいな……なかなか登れない」
木のとっかかりにユメは足を乗せて上がろうとするけど、うまくいかない。
ようやく三十センチくらい登れたかなと思ったら、足を踏み外し、だらーっと木に寄りかかる。
そんなユメの側を攻略対象の浩介が、「何あいつ」という目を向けて通り過ぎて行った……。
「はぁ……しかたない、俺がやる。どいてろ」
ユメをどかして、ちゃっちゃと木に登る。
割と高い木ではあるけれど、幹がしっかりしてるから登りやすかった。
子猫を抱いて木から飛び降りれば、ユメがキラキラとした目を向けてきた。
「はるちゃん、カッコいい! ユメ惚れ直したよ!」
「ユメに惚れられても何の意味もないんだよ。本当、どうすればいいんだ。そもそも、この後の展開で、この猫を浩介が飼って仲良くなるって話じゃなかったのか」
ぎゅっと俺に抱き付いてくるユメに溜息を付きながら、にゃーと可愛く鳴く猫の頭を撫でてやる。
「……こうなったらしかたない。ちょっとシナリオと違うが、浩介にこの猫を飼ってくれと頼んでこい」
「えっ、ユメが? むむむ、無理ですはるちゃん! 浩介くんは本当は心優しい子だけれど、あの目つきはスナイパーでユメのチキンハートじゃ耐え切れません!」
ぶんぶんとユメは俺の提案を拒む。
しかし、行ってこいと言えば、ユメはしぶしぶそれに従った。
「あぁ? 何でオレがそんなことしなきゃなんねーんだって言われた」
「だろうな。予想はしてた」
「なら行かせないでよはるちゃんの意地悪!」
ユメが不満気だけれど、可能性があるならやっておくべきだと思ったのだ。
しかし、そうなるとこの子猫どうしようか……。
捨てるというわけにもいかない。
しょうがないので、飼い主を捜すまでの間だけ、俺の家に置くことになった。
「はるちゃん、はるちゃん! この子あんぱん食べるかな?」
「おいユメ、変なものあげるなよ! それとあまり疲れさせるな!」
ユメは楽しそうに猫とじゃれてる。
しかし、その手つきは危なっかしいし、抱きすぎると弱りそうな気がしたのでちゃんと注意しておく。
「このままはるちゃんが飼うの?」
「それは無理だ。うちの母さん生き物嫌いだから。置けるのは出張の間くらいだな」
ユメの質問に答えながら、少し暗い気持ちになる。
犬や猫やそういう動物を拾ってくるたびに、捨ててきなさいと母さんには言われた。
その度に嫌な気持ちになって。
結局いつも、真央兄がどうにかしてくれたけれど。
……また真央兄にお願いしてみようか。
そんな事を思うけれど、何かと困った事があると俺は真央兄を頼りすぎている。
負担をかけてしまうのは、気が引けた。
「はるちゃん、はるちゃん! 見てよこの子、猫じゃらしにパンチしてる! 将来はボクサー猫になるかもだよ!」
「なんだよそのボクサー猫って。全く、はしゃぎすぎだ」
ユメのテンションは高い。
こんなに喜んで子供みたいだ。けど、こんな無邪気な姿を見るのも悪くはないなと、そんな事を思った。
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「はるちゃん、猫の名前何にするの?」
「名前は付けない。俺が飼うわけじゃないし、愛着が湧いても困るだろ」
毎日のように猫と遊びにきているユメは、俺の言葉に不満そうな顔をした。
「名前ないと不便だよ。名前つけようよ、はるちゃん!」
「にゃー」
ユメの言葉に反応するように、猫が鳴く。
「ほら、アレクサンドルマカデミアンジョージ三世もそう言ってるよ!」
「変な名前つけるな。あと長い」
一蹴すれば、ユメはぷぅっと頬を膨らませる。
「はるちゃんは頭が固いよ。名前ないと不便だよ」
「にゃー」
ユメの方を見て、猫が鳴く。
「まぁいいや。はるちゃん、今日のご飯なぁに?」
「にゃー」
まるでユメの言葉に返事をしているかのように、猫が可愛らしい声を出す。
「……はるちゃん。もしかしてなんだけど、この子」
「にゃー」
ユメが呟けば、猫が答える。
「もしかしてこいつ、自分の名前をはるだと思ってないか?」
「にゃー」
俺がはると口にした瞬間、猫が反応を見せた。
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どうやら猫は自分の名前を「はる」だと思い込んでしまったらしい。
この日真央兄が俺の家を訪れたので、猫の話をすれば、面白そうに笑った。
「はる」
「みゃー」
真央兄が呼べば、猫が返事をする。
それを見て、真央兄は眼を細めた。
「真央兄、こいつを飼ってくれそうな奴知らないか? そろそろ母さんが出張から帰ってくるんだ」
頼りすぎはよくないと思いながらも、結局こういう事を頼めるのは真央兄しかいなかった。
「心配しなくても大丈夫だよ、はる。この子は僕が飼うことにするから」
「いいのか?」
「うん。はると同じ名前の子を、捨てては置けないよ」
ふふっと笑って、真央兄がやさしく猫の『はる』を抱き上げる。
「よかったな、お前。真央兄みたいな優しい人が飼い主で」
「みゃー」
俺の言葉に答えるように猫は鳴いて、真央兄に甘えるように顔を擦りつけた。
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「真央兄、猫の調子はどうだ?」
「大分僕に懐いてきてきたかな。はるは、自分からミルクおねだりしてくるようになったよ」
「なんか自分の名前と同じだと、変な感じがするな。まるで俺がやってるみたいに聞こえる」
「……ははっ、はるが面白いこというから想像しちゃったじゃないか」
今一瞬、真央兄が物凄く色っぽかった気がする。
見つめられた瞬間に、ぞわぞわとした感覚が背筋を走って鳥肌が出ていた。
「はる、どうかした?」
「いやなんでもない」
今の感覚はきっと気のせいだ。
そう思うことにして、明日真央兄の家に猫の様子を見に行く約束をした。




